71.事の真相
ミコトとロイとリントは、中央政務棟の代表室の黒いソファに座っていた。
今度は、ロイとリントが並んで座り、ミコトはローテーブルを挟んでその向かい側に1人で座った。
とうとう、ロイの隣でもなくなってしまった。
「一体なんなんだ! お前たちは!」
アレンは、代表席で執務をしながら、文句を言っている。
いきなり、話の途中で窓から2人がいなくなり、戻ってきたと思ったら、3人になっている上、険悪な雰囲気なのだ。
「すみません、アレンさん。この2人、盛大にすれ違っているので、誤解をといてから、後で重大な報告があるので……」
リントはアレンを振り返り説明する。
「重大な報告より、そっちが先か……」
アレンは溜息をついている。
ミコトは視線を窓に向け、盛大にすれ違っているね、と呆れた。
多分、それはそうなのだろうけど、ロイがミコトと二人きりになるのを嫌がっている事は、もう、紛れもない事実なのだ。
アレンの前で、ミコトの醜態を晒されるかと思うと、険悪にもなる。
「まずは、昨夜、聖女の部屋であったことを、話すけど……」
リントは、昨夜、ミコトがお酒を飲まされて寝てしまった後、聖女とロイの間であったことを話した。
アレンも思わず手を止めて聞き、ミコトも窓に向けていた視線をロイに向けた。
ロイだけは、相変わらず、下を向いたままだ。
「ロイの力の暴走? をセイラが抑えたってこと?」
リントは頷く。
「ミコトは昨日、ロイさんと話したのは一言だけだったから気付かなかったと思うけど、昨日のロイさんは、別人の様に冴えていて、威圧感で周りの人をダウンさせてたんだよ」
ロイは下を向いたまま、「すみません」と謝った。
別人の様に冴えているロイって、どんな感じなのだろう。
ダウンしてもいいから、見たかった。
というか、眩く光る力を使うセイラも見たかった。
「ロイさんの家系の力と聖女の力は、同じ神様から貰った力だと、聖女は言っていたよ」
「神様……」
ミコトは呟きながら、5年前に話した神様を思い出していた。
ロイは、特別な力を与えた人間の子孫という事なのか。
どうりで規格外な訳だ。
「聖女の力は、あらゆるものを抑える力で、ロイさんの家系の力は、愛するものを守る力なんだって」
ミコトとアレンは、なるほど、というように頷く。
ロイの力は、守る力なのか。
だから、残っても問題がないと判断されたのかもしれない。
むしろ、異世界から来る聖女を守るために、残されたのかもしれない。
それにしても、セイラもロイも、特別な力なんて、すごい。
ミコトのオマケとは全然違う。
「あー、それでね、ロイさんの力は、家系の中でも特に強いらしくて、二代前の聖女が封印したらしいんだよ。アレンさんって、その辺りは知ってますか?」
リントはアレンを振り返る。
アレンは首を捻った。
「いや、そんな話は、聞いたことないが……」
「じゃあ、やっぱり、セタさんにきくしかないのか……」
リントの呟きに、だからセタに会いに行くのか、とミコトは納得した。
「ここからが、多分、すれ違ってる原因だと思うんだけど、ロイさん、言ってもいいんですよね?」
リントは下を向いたままのロイに聞く。
ロイは小さく頷いた。
ミコトは、とうとう、自分の醜態が来るのかと身構えた。
「ロイさんの封印された力は、愛するものを守る力の特性上、愛する人によって解けてしまうんだって。ものすごーく簡単に言うと、ミコトと、そういう事をすると、力が暴走しちゃうらしい」
「……は?」
ミコトの顔がみるみる赤くなる。
ロイは下を向いたまま、顔を手で覆う。
アレンは、「あー、なるほど」と呟いている。
ーーこれは、酒乱より、醜態かもしれない。
つまり、全員に、あの2人……とバレるという事である。
「それで聖女に、力の制御方法が分かるまで、ミコトとそういう事は禁止ね、と言われて、ロイさんが落ち込んでいる、って事なんだよ」
ミコトは、いたたまれなくて、ロイと同様に顔を手で覆った。
もう一度、窓から、飛び降りて逃げたい気分だ。
「ごめん、ミコト。ミコトと2人が嫌なんじゃなくて、二人きりになると、手を出さない自信が無くて……」
「それ以上は、言わなくていいです……」
ロイの言葉を、ミコトは制した。
誤解は解けたが、事の性質上、何を言っても、恥ずかしい。
というか、この話、アレンの前でする必要があったのだろうか。
「まあ、後は2人で話し合ってよ。それで、重大な報告を、アレンさん、いいですか?」
リントはアレンを見る。
「あ、ああ。今のも割と重大だったけどな」
アレンは、代表席から立ち上がると、ミコトの隣に座り直した。
「先程、ソマイがミコトに謝罪に来ました」
リントの言葉に、アレンは顔色を変えた。
「な、なんだって!?」
リントは先程の詳細を、アレンに話した。
アレンは、ふぅっと息を吐くと、ソファの背にもたれた。
「馬鹿正直な性格を、カーサに利用された感じだな」
「俺もそう思います」
リントも頷いている。
「ミコトは、その、平気なのか?」
アレンの質問に、ミコトは首を傾げた。
「平気? とは?」
顔を上げたロイと、久しぶりに目が合う。
「キダンさん曰く、ソマイは話すだけで、女性を惚れさせることが出来るらしいんだ」
ロイは真っ直ぐミコトを見て言った。
「それは、すごい能力だね」
ミコトは、それも魔法みたいだ、と思っていた。
日本のアニメに、魅了!と言って、他人を惚れさせて操る話があったのを思い出していた。
「まあ、ミコトは、まだ子どもなのか、男寄りなんじゃない?」
リントは呆れたように言った。
「いや、前から思っていたんだが、ミコトはこの世界の人間とは、やはり体質が違うのではないか?」
アレンはロイとリントを交互に見た。
リントは首を傾げ、ロイは「そうですね」と言う。
「古代魔法の適性が出た時に、そう思いました。もしかしたら、ミコトは本当に古代魔法が使えるようになるのかもしれないです」
ロイの言葉に、ミコトは首を横に振った。
「嫌、です」
「ミコト……」
古代魔法なんて使えてしまったら、この世界を変えた事になる。
神様に、存在を消されてしまうかもしれない。
そうなったら、もう、ロイとも一緒にいられない。
「ミコト、古代魔法の事を、何か知っているのか?」
アレンの質問に、ミコトは即座に「知りません」と答える。
アレンとロイとリントは顔を見合わせている。
古代魔法の事は本当に知らないのに、疑われているようだ。
「私、本当に知らないんです! ただ、絶対に古代魔法に近づきたくないんです!」
「ミコト、ごめん。落ち着いて……」
ロイの言葉にミコトは首を横に振った。
どう言ったら伝わるのだろう。
このままでは、古代魔法の研究に携われとか言われてしまうかもしれない。
「消えたくない! この世界から消えたくなの!」
「な、消え、る!?」
ロイは立ち上がり、ミコトは頭を抱えて下を向いた。
ミコトの目から、涙がこぼれる。
今日は一体、どれだけ涙が出るのだろう。
涙は、枯れる事はないのだろうか。




