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異世界恋護奇譚 〜聖女のオマケ転移、狙われ少女の自立と結婚〜  作者: 三多来定


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7.聖女の侍女

 ミコトとセイラは、石造りの教会から歩いてすぐの聖女棟にある「聖女の部屋」に案内された。


 聖女棟は教会と同じ石造りではあるが、白く塗装された円筒の建物だ。


 螺旋階段を上がった2階のおよそ20畳くらいの聖女の部屋も、壁と天井が白く、床にはフカフカしたベージュの絨毯が敷いてある。


 聖女の部屋には、大きな天蓋付きのベッドと食事が出来そうな木製のテーブルと椅子が4脚、大きなブルーのソファ、本棚、勉強用の机などが置いてある。


 部屋の中にドアが2枚あるので、続きの部屋があるのか、トイレかバスルームがあるのだろう。


「お姫様の部屋みたいだね、セイラ!」

「広すぎる…」


 テンション高めのミコトに対し、セイラは広いことが不服のようだ。


 セイラは車恐怖症で学校以外は殆ど部屋のすみっこに引きこもっていたので、広い部屋が落ち着かないのかもしれない。


 部屋に案内してくれた白ローブの人は去っていき、代わりに1人の女性が入ってきた。


「初めまして、聖女様、ミコト様。私は聖女様の筆頭侍女を務めますマリーと申します」


 黒いワンピースに白いエプロンをつけた、銀色の髪を一つにまとめた14、5歳の女性が深く頭を下げる。


 顔を上げると、薄いパープルの切れ長の瞳…。


 これは…! 

 セイラとは違うタイプの、ものすごい美少女だ!


「私はセイラです。こっちがミコちゃんです。よろしくです」


 マリーに見惚れていたミコトより先に、セイラがさらっと自己紹介をすませている。


 ミコトも慌てて頭を下げた。


 美少女同士は緊張しないのかもしれない。

 この世界、みんな綺麗な人ばかりだったらどうしようか…。


 ミコトは少し、いや結構不安になってしまった。


 とりあえず食事を用意すると言われ、聖女の部屋で待っていると、嗅いだことのあるいい匂いがミコトとセイラの鼻をついた。


「これは、カルボナーラ!」


 セイラは運ばれる前に断言する。

 

 確かにカルボナーラかも?

 でも異世界にカルボナーラってあるのだろうか。


「前の聖女様のお気に入りで、カルボナーラというそうです。どうぞお召し上がりください」


 マリーはカルボナーラとサラダのお皿をセイラとミコトの前のテーブルに置く。


「カルボナーラは大好き!」

「私も大好物です!」


 セイラとミコトの反応に、マリーは嬉しそうに微笑んだ。


「それは良かったです」

 

 ミコトもセイラも、カルボナーラはコッテリ濃厚派なのだが…。

 いただきますを言って、カルボナーラをフォークで口に運ぶ。


「おいしいっ! ベーコンも厚切り!」

「本当だ! 美味しい!」


 前の聖女も濃厚派だったんだ!


 考えてみれば、セイラは22人目の聖女である。

 前の歴代聖女たちのおかげで、食事は地球好みになっているのだろう。


 食べ始めたら、とてもお腹が空いていたことに2人は気づいて、カルボナーラとサラダと追加のロールパン2つをキレイに平らげていた。


「お二人には今日はゆっくりお休みいただく様に言われております」


 セイラがハイッとばかりに右手を上げる。


「着替えとかある? これ、パジャマなんだよね」


「あちらのクローゼットにございます」


 ドアの1枚はクローゼットらしい。


 そういえば…とクローゼットに向かうセイラにミコトは質問した。


 「セイラ、さっき上手にフォーク使ってたよね? 右手の麻痺って大丈夫なの?」


 セイラはキョトンとした後、

「そういえば、全然動く…」

と呟いた。


 そうか。

 セイラは魂だけ転移してきているので、体は入れ物って神様が言ってたっけ。

 麻痺まで再現する訳ないか。


「聖女パワーかもね」


 とミコトは笑って誤魔化した。


「ミコちゃん、服いっぱいあるよー。ミコちゃんも着替えようよ、コレとか!」


 セイラはヒラヒラしたピンクのワンピースをクローゼットから出した。


「真面目に選んでよー。どう見ても私に似合わないでしょ」


「ミコト様は…」

 マリーはポソッと小さな声をだした。


「え? 呼びました?」


 ミコトが振り向くと、マリーは「いえ、すみません」とニッコリ微笑んだ後、セイラの近くに行って「お手伝いいたします」と言って、テキパキと服を取り出した。


 服を取り出している時に、マリーが「アイツら何が少年よ、バカばっかりね」と呟いたのを、セイラは聞き逃さなかった。


 結局、セイラは薄いグリーンのロングワンピースに着替えたが、ミコトは着替えなかった。


 ミコトは朝走っていたので、ハーフパンツにTシャツではあるが、人前に出られないほどではなかったし、ヒラヒラした服ばかりで、とても似合う気がしなかったからだ。


「それでは、私は隣に控えておりますので…」


 マリーが退室の挨拶をしようとしたところで、ドアをノックする音が聞こえた。


 マリーは確認してドアを開ける。

 若い男性がマリーに何か告げている。


「はぁ? 模擬戦!? 何考えてるの?」


 さっきまでのお淑やかなマリーとは思えない声をマリーがあげる。


「俺だって知らないよ。じゃあ、伝えたから」


 男性はマリーを怖がる様にそそくさと行ってしまった。


 ドアを閉めたマリーは、ミコトとセイラの前に戻ってきた。


「失礼しました。実は明日、第1エラルダ国の副騎士団長とミコト様の模擬戦をやるとか言ってやがりまして…」


「えと、模擬戦…」


 いや、そんな事より、マリーの言葉遣いが変になってるし、笑顔もピクピクしているような?


「もうさ、マリー、普通でいいよ!」


 突然、セイラは大きな声を出した。


「マリー本当は口が悪いでしょ? そのまま話してよ。そっちの方がいいよ」


「セ、セイラ? 口が悪いって失礼では?」


「マリーからは、私と同じ感じがするからね!」


「同じ感じ?」


 ミコトはセイラとマリーを見比べた。


「ああ! もうっ! こんなにすぐバレるとは思わなかった! それもこれも、バカ神官どもとオッサンたちのせいよっ!」


 マリーは天井に向かって叫んだ。


 どうやら、これがマリーの本当の姿らしい。


 確かに、これはセイラと「同じ感じ」だ。


「あは、あはははっ! セイラとマリー、美少女なのに口が悪いって、あははは!」


 ミコトは無性に可笑しくなって大声で笑い出した。

 それを見たセイラとマリーも吹き出してしまっていた。


「この際だから、様もやめない?」


 ミコトの提案に、セイラとマリーも頷く。


 しばらく3人で笑った後、マリーは「そうだった」とミコトの肩に手を置いた。


「明日、副騎士団長のロイって奴と模擬戦よ。あのオッサン連中はミコトのこと試すつもりよ」


「試す!? ミコちゃんに酷い事したら許さないって言ったのに!」


 セイラは殴る真似をしながら言った。


「大丈夫だよ、セイラ。模擬戦やれるなんて嬉しいよ。それに、護衛希望の人を試すのは当然だよ」


 ミコトは本当に嬉しいと思っているのだが、マリーは「ダメよ」と首を横に振る。


「ミコト、ロイはバカだけどこの国で一番強い男なの。アイツらバカだからミコトを男だと思ってるかもしれなくて、容赦しない可能性がある。今のうちに辞退した方がいい」


 マリー、言葉の中に「バカ」が多いけど、とても優しい人なんだなぁ。


「ありがとう、マリー。でも私、これでも結構強いんだよ。前の世界では、誰の事も殴っちゃいけなかったから、殴ってもいいなら、本当に、嬉しいというか、楽しみというか…」


 ミコトは、前の世界のムカつく人たちを思い出して、パキパキと指の関節を鳴らした。


「ミコトって、結構脳筋なのね」


 マリーは呆れたように言った。


「あ、でも、隠してもいなかったんだけど、私が女の子ってことは、正式に護衛になるまでは黙っていて欲しいんだけど…」


「わかった。確かに、騎士団には女性がいないから、女の護衛はダメとか言い出すバカがいるかもしれないしね」


「ミコちゃんに怪我させたら、殺す…」


 セイラはブツブツと物騒な事を言っている。


「セイラは聖女様だから、明日から朝と晩、魔物の力を弱めるためのお祈りを教会でしなくちゃいけないからね」


 マリーの言葉に、セイラは驚いた様子だ。


「え! 聖女は、3食昼寝付き引きこもりニート、時々旅行って聞いてたよ!」


 ちょっと神様、セイラにどんな説明をしたんですか?


「ニートはよく分からないけど、確かに衣食住の心配は要らない。お祈りは1時間程度だから、1日2時間勤務で後は昼寝していても構わないし、地方への祈祷遠征は月に一度だし、大体あってるわ」


「え、聖女って、そんな感じなの?」


 マリーの説明に、ミコトも驚きを隠せない。


「ちなみに護衛もずっと一緒にいなくてもいいの。基本、地方への遠征時と聖女の希望で外出する時だけでいい。まぁ、前の聖女は護衛騎士と、割と、結構な時間、一緒にいたけどね」


 護衛も結構自由にしていい感じなのか。


 これは、自立を目指すミコトにとってはかなり都合がいいのでは?


「私はお昼は寝るから、ミコちゃんは自由にしてていいよー。ほら、ミコちゃんは動いていないと死んじゃう魚いるじゃん、アレだから」


 セイラはニヤニヤしながら言った。


 セイラは本当にミコトの気持ちを理解している。


「ありがと、セイラ。でも、とりあえず、明日は護衛と認めてもらえるように、模擬戦がんばるよ!」

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