68.セイラの進言
聖女棟の聖女の部屋で、ミコトとセイラとマリーは、テーブルを囲んで色とりどりのケーキとお菓子を食べていた。
午後8時まで、ロイとリントを待っていたが、元々しっかり約束をした訳ではなかったので、諦めて3人で女子会をすることにしたのだ。
「それでね、その2人が、ずぅっとイチャイチャしてるんだよ!」
ミコトは今日のお見舞いという名のお茶会での出来事を、怒りながら話す。
ウミノたちと打ち上げはしたが、何せミコトは雇用主である。
あまり文句を言うことも出来なかったのだ。
「イチャイチャって? キスとかしてたの?」
セイラは、わくわくした様子できいてくる。
さすがに、キスはしていなかった。
「違う違う! こうやって、ケーキをね、あーんって、食べさせたりしてたの!」
ミコトはケーキを切り分けると、フォークに刺し、セイラの口に運ぶ。
セイラは、パクッと、それを食べる。
「おいしー! ミコちゃん、もっと食べさせて!」
ミコトは言われた通り、ケーキをせっせとセイラに食べさせる。
マリーは首を捻った。
「何だか変よね。イチャイチャも、ミコトにその、イケメン? を近づかせる行動も」
ミコトは「そうなんだよね」と言う。
「ねぇ、イケメンって、どのくらいイケメンなの?」
セイラは、もぐもぐしながら言う。
ミコトは顔をしかめた。
「どのくらいって言われてもなぁ。でも、私みたいな、か弱い女の子に攻撃を仕掛けてくるなんて、顔はイケメンでも、イケメンじゃないよ!」
「か弱い!?」
セイラはプッと吹き出す。
マリーも肩を震わせる。
ミコトは頬を膨らませた。
マリーはふと顔を上げると、「そうね」と言った。
「ロイとそのソマイっていう人、どちらが好みのイケメンだったの?」
そんな質問、答えは決まっている。
「そんなの、ロイに決まってるよ! ロイの方が、あんな奴より、100万倍カッコイイし、強いんだから!」
「ですって。良かったわね、ロイ」
マリーはドアの方を見て、ニッコリ笑う。
ミコトは急いで振り向いた。
聖女の部屋の入口に、ロイとリントが立っている。
「う、あ……」
ミコトの顔が赤くなる。
ミコトは、スッと席を立つと、ベッドに歩いて行き、ブランケットを被った。
は、恥ずかしい!
カッコイイだけならまだしも、100万倍とか、小学生みたいな数字を言ってしまった!
穴があったら入りたいってこういう時のことか!
いや、これ、恥ずかしぬってやつだ!
ロイはベッドの方へ行くと、ベッドの横にしゃがんだ。
「ミコト……」
ミコトはブランケットを被ったまま、「ごめん、忘れて下さい!」と叫ぶ。
「100万倍って、すげー」
リントはマリーとセイラに笑いながら話している。
このネタで、あと何回か意地悪されるのは目に見えている。
「俺は嬉しいよ?」
ロイはそう言うと、ブランケット越しに、ミコトを撫でる。
ロイは天然素直イケメンだから、そうかもしれないけど、ミコトは、とにかく、恥ずかしいのだ。
「ミコちゃん」
セイラの呼びかけに、ミコトはブランケットから少し顔を出す。
「そういう時には、これだよ!」
セイラは持っていたコップをミコトに差し出した。
コップにはオレンジ色の果実水が入っている。
ミコトはコップを受け取ると、一気にそれを飲み干した。
「ちょっと、セイラ! それは……!」
マリーは慌てて席を立つが、それと同時に、ミコトは、バタッとベッドに倒れ込んだ。
「ミコトっ!?」
ロイは驚いてミコトを抱きかかえる。
ミコトから、規則正しい寝息がきこえる。
「ね、寝てる……」
ロイの呟きに、マリーとリントは、「えー!?」と言う。
「ミコちゃんのパパとママは、お酒飲むとすぐ寝ちゃうんだよね。だから、ミコちゃんも寝ちゃうと思ったんだ!」
セイラは、笑顔で言う。
ロイは、これはない、と思っていた。
たった今、来たばかりだ。
ミコトとも、一言しか話していない。
ロイは、ベッドの横にしゃがんだまま、隣に立っているセイラを睨む。
すると、セイラは左手を出して、ロイの額にピシャリと当てた。
「ちょっと! 私にそういうの、やめてよね?」
「セイラ!」
「ロ、ロイさん!」
マリーとリントは驚いて叫ぶ。
セイラは大丈夫というように、マリーに頷く。
「アンタさ、今日一体、何人ぶっ倒してきたの? 力のコントロールも出来ないの?」
セイラの言葉に、ロイは目を見開いた。
「ミコちゃんに何かあったら困るし、ちょっと抑えるよ」
セイラはそう言うと、左手に力をこめた。
セイラの左手が眩く光った。
と、同時に、ロイの体も全体的に眩く光る。
「セイラ……」
マリーの呟きに、リントは頷いていた。
ロイは光る自分の手を見つめている。
「ああ、もう、規格外なヤツは、これだから困るの!」
セイラはロイの額から左手を離すと、はあはあと肩で息をした。
「セイラ、大丈夫!?」
マリーは駆け寄り、セイラの肩を支える。
セイラはロイを睨んだ。
「これで分かったでしょ? アンタと私の力は、同一のものだって! 垂れ流すなんて、もっての外なの!」
「俺は……」
ロイは、リントを見る。
リントは息を吐いた。
「大丈夫ですよ。ダウンしたのは、第3の奴らと、キダンさんだけです。問題ありません」
キダンは問題ない方に入るのかと思ったが、ロイはひとまず安心した。
「ごめん、聖女も……」
ロイの落ち込みを見て、セイラは溜息をついた。
「アンタ、自分の力について、知らなさすぎだよ。しかも家系で一番、力が強いよね? 小さい頃に、封印されてるみたいだけど」
セイラの言葉に、マリーとリントは顔を見合わせる。
ロイは、驚いた顔をする。
「聖女は、詳しいんだ……。封印? なんて初めて聞いた……」
ロイは寝ているミコトに目を落とす。
セイラもミコトを見る。
「封印したのは、多分、私の二代前の聖女。力が強すぎて、困ったんじゃない? お兄ちゃんに聞けば分かるよ」
「セタ兄……?」
セイラは頷く。
「んで、封印は愛する人によって、解けちゃうの。それは、アンタの家系の宿命が、愛する人を守る事だから、仕方ないし、私にはどうする事も出来ない」
セイラの言葉が、ロイにすんなりと入る。
「それは、何となく分かってた」
セイラは、よしとばかりに頷く。
「ちなみに、私の宿命は、あらゆる力を抑えること! スゴイ?」
マリーとリントは、慌てて頷く。
「同じ、神様から貰った力だよ」
ロイはセイラを見る。
「ミコトは? ミコトもそうなの?」
セイラは腕を組んだ。
「ミコちゃんは違うけど、詳しいことは、2人で話してよ。今日のこともね。夫婦なんでしょ?」
ロイは頷いた。
夫婦なのに、ミコトの事は、きいてはいけないものだと思って、一切きいていなかった。
「あと、お兄ちゃんに会って、話をきいた方がいいと思うよ。さっきも言ったけど、自分の事は知っておいた方がいい」
マリーとリントは気まずくて下を向いた。
ロイも目を伏せる。
セイラはイライラしたように言う。
「悪いけど、私はアンタの気持ちとか、どうでもいいの! そんなんじゃミコちゃんを守れないって言ってるの! じゃあ何? ミコちゃんが訳の分からない奴の私利私欲のために、死んじゃってもいいの!?」
「死ん……!?」
マリーは驚いてよろける。
リントは慌ててマリーを支えた。
「それは、絶対ダメ……」
ロイは呟き、セイラは「でしょ!」と言った。
「新婚旅行も兼ねて、ミコちゃんと行ってきたら? 騎士団はリントが何とかするよ」
「ちょっと!」
リントはセイラを睨む。
「え? ミコトを連れて行っていいの?」
ロイの言葉にセイラは呆れた顔をした。
「誰がミコちゃんを守るのよ!?」
「あ、はい。俺です」
頷くロイを見て、セイラはニヤリと笑う。
「たーだーし、ミコちゃんには手を出しちゃダメだよ? また力が垂れ流し状態になるからね!」
「え!?」
セイラは寝ているミコトの胸をギュッと掴んだ。
「う、ううんっ」
ミコトは寝ながら声を上げる。
「ちょっ!?」
ロイもマリーもリントも驚いてミコトを見る。
「目の前に、こんなに可愛いミコちゃんとこんなに大きなおっぱいがあるのに、ほんっとーにかわいそうだけど、力の制御方法が分かるまで、頑張って我慢してね?」
「ええっ!?」
ロイは今日一番の大声を出した。
「さ、話も終わったし、ケーキ食べよー。マリー、ミコちゃんの代わりにあーんして食べさせて!」
「え? ええ、いいけど……」
マリーはチラリとロイを見て、セイラと共に、さっきまで座っていた席に着く。
リントもロイを見ながら、マリーの向かい側の椅子に腰掛ける。
「アイツは食べないの? このお菓子、アイツのお金なんでしょ?」
マリーに食べさせて貰いながら、セイラはロイを指差した。
ロイはミコトが眠るベッドの横にしゃがんだままである。
「……そっとしておいてあげてよ……」
リントは呟いて、マリーも頷いた。




