63.奇妙なお茶会①
キダンの報告から10分程すると、第2エラルダ国の貸切馬車がロイとミコトの自宅に到着し、中からリオの奥様と第2エラルダ国の騎士団長が出てきた。
リオの奥様は、腰までの輝くような金髪に明るいグリーンの瞳。
スラリと背が高く、スタイルもいい。
黒のカクテルドレスに赤いヒール。
耳と首元にキラキラと輝く赤い石のイヤリングとネックレス。
35歳の超美人である。
そして、隣に立つ護衛の第2騎士団長は、ネルの言っていたとおり、長身でガッチリとした体躯に、黒髪黒目のかなり端正な顔立ちをした、こちらも超イケメンである。
うん、負けました!
ミコトは潔く心の中で敗北を認めた。
断然、キラキラオーラが違うので仕方がない。
でも、騎士団長に関して言えば、ミコトは断然ロイの方が好みである。
「こんにちは。ミコトさん。お話するのは初めてでしたね。わたくし、第2エラルダ国代表であり国家特別人物のリオの1番目の妻で、カーサと申します。こちらは護衛の第2エラルダ国の騎士団長のソマイです」
カーサは優雅な動作でソマイを紹介する。
ソマイは軽く会釈をする。
改めて見ると、ロイより一回り大きい。
ミコトもスカートの両端を持ち、礼をする。
「こんにちは。カーサさん。わたくし、第1エラルダ国の騎士団長であり国家特別人物のロイの妻のミコトと申します。わたくしの護衛は、副騎士団長のリントと第2小隊長のコランです」
ミコトはリントとコランを紹介する。
ミコトも1ヶ月、嫁教育を受けていたのだ。
主に午後行っていた所作の講義は厳しいものだった。
「本日は遠路はるばる、わたくしのためにお越しいただき、本当にありがとうございます。ささやかではございますが、お茶とお菓子を用意しておりますので、ぜひご賞味ください」
ミコトは微笑むと、直接庭へ案内する。
補助杖なしでもう歩けるが、怪我が酷かったという演出のため、補助杖を使用する。
「まあ、素敵なお庭ですね」
「ありがとうございます」
ミコトはカーサを席に案内する。
ソマイが椅子をひき、カーサを座らせる。
護衛騎士はエスコートもするのか。
カーサもミコトも結局は貴族でも何でもないのだ。
ミコトは自分で椅子に座り、補助杖をテーブルに立て掛ける。
「ミコトさん。お怪我はどうなのでしょうか」
カーサは優雅に微笑む。
すぐ真後ろにソマイが控えている。
なんだか、カーサとソマイの距離が近い様な気がする。
ミコトの護衛騎士は2mほど後ろである。
「まだ補助杖が手放せませんが、順調に回復しています」
ミコトも微笑む。
「傷痕は、残るのかしら」
「10針縫いましたので、やはり残るそうです」
カーサの質問に、ミコトは笑顔のまま答える。
傷痕が残るのは本当だが、ミコト自身あまり気にしてはいない。
気になるのは、ロイがその傷痕を見て、心を痛めることだ。
ミコトの表情が暗くなったので、カーサは話題を変えるかのように、ソマイに指示を出してお菓子の箱をミコトに差し出した。
「第2で人気のお菓子なんです。ぜひロイさんと召し上がって下さい」
「ありがとうございます」
ミコトは笑顔でお菓子を受け取る。
するとここで、給仕係も請け負ってくれたウミノとネルがお菓子とお茶を運んでくる。
ふと見ると、後ろには、イリスとモネもいる。
きっとみんなカーサとソマイを見てみたかったのだろう。
「まあ! 素敵!」
カーサはお皿にのった色とりどりの小さなお菓子とケーキに感嘆の声をあげた。
そうでしょう!
実はコレは、地球のアフターヌーンティーを手本にしているのだ。
ミコトの母の琴子は料理研究家なので、アフターヌーンティーの記事を書くために、ミコトとセイラをホテルのアフターヌーンティーに連れて行ってくれたことがある。
三段重ねのお皿にのった、たくさんの小さなお菓子とセイボリーという軽食に、ミコトもセイラも大はしゃぎだった。
残念ながら、三段重ねのお皿はなかったのだが、大きなお皿に沢山のお菓子とケーキがのっているのも、圧巻である。
そして、チキンやハム、野菜をサンドしたサンドイッチのお皿も置かれる。
お茶は、第1エラルダ国で人気のある香りの強い紅茶だ。
「わたくし、お菓子が大好きなんです。一つに選べなくてこのような形にしてしまいましたの。
どうぞ召し上がって下さい」
ミコトは笑顔で言う。
これぞ、旦那様のお金で豪遊である。
2m後ろで見守っていたリントは、正直驚いていた。
ミコトは確かに頭は良いし、嫁教育も受けていたが、ここまで当然の様に妻として振る舞えるとは思ってもみなかった。
しかも、あんなお茶菓子の出し方は、見た事がない。
異世界の文化なのかもしれないが、ミコトはそれを隠す様に生きていたはずだ。
食事文化は歴代聖女の好みを取り入れているものが多いときくので、大丈夫ということだろうか。
目だけで横を見ると、コランも顔を崩さずに驚いているようだ。
リントはチラリと第2の騎士団長、ソマイを見る。
正しい振る舞いが何かはリントには分からないが、カーサにお菓子を取り分けたり、顔を近づけて話をしたり、何かと距離が近い。
もしかしたら、2人はそういう関係なのかもしれない。
ミコトは少し困惑していた。
カーサとソマイ、距離近くね? ということである。
国家特別人物の妻は浮気はNGだったはずだ。
でも、顔を近づけて微笑んだり、時々見つめ合ったり、どう見ても恋人同士である。
ミコトの横で、お茶を注ぎ足しているネルの顔は、明らかにひきつっている。
分かります。
気持ちはとっても分かりますとも。
「ミコトさん、ロイさんとは仲良く過ごしていますか?」
カーサの言葉に、ミコトはハッとなる。
今こそ、妹アピールだ!
「はい。でも、わたくし、妹としか見られていないのです。カーサさんのように、女性らしくなるためには、どうしたらいいのでしょうか」
カーサは少し驚いた顔をした。
「結婚式ではとても女性らしく仲睦まじく感じましたよ。今日は、その、少しイメージが違い、可愛らしいですよ」
ミコトはふっと表情を暗くする。
「結婚式では、旦那様に恥をかかせないために、かなりお化粧とスタイルを盛ったのです。でも、普段の私はこんな感じなのです。確かに仲が悪い訳ではありませんが、女性として接してくれたことは一度も…」
「あら、そうなのですか…」
カーサも表情を暗くする。
「聞いてくださいますか、カーサさん」
ミコトは頼る様にカーサを見ると、ロイの妹になってから5年間、一度も帰って来なかったこと、結婚が決まってからも、仕事で1ヶ月放置され、結婚式の朝に帰って来た事などを話した。
カーサとソマイはミコトの話を信じ込んでいる様だ。
まあ、この話は、本当なんだから、当然だ。
「あの、ミコトさん、その間お手紙をやり取りされなかったのですか?」
カーサは同情を隠せない様子だ。
「5年の間に2回手紙を送りました。でも返事は来なくて…」
これも本当だ。
まあ、ロイはロイだから、手紙なんて読まないし書かないのだが、10歳の時はそれが分からなかったのだ。
カーサは両手で口元をおさえた。
しまった。
真実を言っただけで、かなり可哀想な話になってしまった。
「あ、あの、でも今は、そんなに放っておかれてませんので。すみません、こんな話をして…」
ミコトは慌てて話を終わらせようとした。
これ以上続けたら、ロイに悪いし、後ろのリントに怒られる。
「お互い、旦那様が仕事人間だと、苦労しますわね」
カーサも終わらせようとしてくれている。
ミコトとカーサは笑いあった。




