62.お茶会当日の朝②
「む、無理です! 私、ピンクは似合わないんです!」
ミコトの大声に、リントとコランは振り向く。
どうやら、今日の服装で、ヘアメイクの2人と揉めているようだ。
「大丈夫ですよ! 絶対に似合いますから!」
「髪型はツインテールにしましょうか?」
ウミノとネルの言葉にミコトは青ざめた。
「それ、痛々しい妹になっちゃいます! 勘弁して下さい!」
ミコトの言葉を無視して、ウミノとネルはミコトを2階へ連れて行く。
「あ、護衛の方、2階にはしばらく来ないで下さいね」
ネルの声だけが聞こえる。
見渡すと、料理人の女性と菓子職人の女性は忙しく作業をし、管理人の女性は、庭の花の枯れた花を取り除いている。
「入り口の警備でもしますか」
リントの提案に、コランは「了解」と言った。
「この水色のワンピースでいいです…」
「ピンクも似合いますよ!」
自宅の2階のベッドに座らされ、ウミノはミコトの顔にクリームを塗る。
ミコトの意見は全く通らない。
「ミコトさんは巨乳なので、ちょっと小さく見せますね」
ネルはサラシのような布をミコトの胸にぐるぐる巻く。
「おお?」
なんと、いつも邪魔だと思っていた胸が小さくなっている。
「これ、いいですね。いつも巻こうかな」
ウミノとネルは笑う。
「やめた方がいいですよ。旦那様がガッカリします」
ウミノの言葉に、ネルも「そうそう」と言う。
ロイが、ガッカリするかどうか分からず、ミコトは首を傾げた。
ネルはサーモンピンクのワンピースを取り出す。
「私たち、取るに足らないの意味を考えたんですよ。でも、職業柄、不細工にはしたくないんですよね」
ネルの言葉に、ウミノは大きく頷く。
どうやら、難しい注文をしてしまったようだ。
「と、いうことで、こんな幼い少女に25歳の旦那様が手を出す訳がない、という感じにします!」
なんだって!?
「あ、あの、それって、旦那様の評判的に、どうなんですか?」
ミコトは服を着せられながら尋ねる。
「今日だけなので、大丈夫ですよ」
ウミノはニッコリ笑った。
大丈夫、なのだろうか?
第2で、ロイのロリコン説が出たら、申し訳なさすぎる。
結局2人に逆らえないミコトは、されるがまま、ヘアメイクをしてもらった。
「出来ました!」
ウミノとネルは満足そうに、言う。
しかし、2階には姿見がないため、ミコトにはよく分からない。
サーモンピンクのワンピースが、意外とおとなしめであることが分かるくらいだが、スカート丈が膝下くらいのため、右ふくらはぎの包帯が丸見えである。
2人曰く、お見舞いだからいいそうだが。
階段はまだ危ないため、ミコトは補助杖で1階に下りる。
ミコトは1階の部屋にある姿見を見て驚いた。
「か、かわいい!?」
ピンクが似合うはずないのに、姿見に映った少女にはよく似合っている。
黒髪を二つに分けて、耳下で結ぶ髪型だが、髪がくるくるとカールしているため、田舎っぽく見えない。
全く厚化粧には見えず、すっぴんに少しメイクをしただけに見える技術がすごい。
ただ、これは、どう見ても、12、3歳だ。
「あらミコトさん、奥様じゃなくて、お嬢様に見えますよ!」
キッチンから出てきた、料理人のイリスは驚いた様に言う。
「すごく可愛いですよ! 娘にしたいくらいです!」
モネも驚きながら、褒めてくれる。
確かに可愛い。
でも絶対にロイには見せられない。
この姿を見られたら、二度と手を出してもらえない。
もう、妹を通り越して、娘なのである。
入り口付近にいたリントとコランは、部屋に入ってきたかと思うと、明らかに驚いた表情をし、コランがリントの腕を引っ張って、再び外に出て行ってしまった。
見るに堪えなかったのかもしれない…。
ミコトは諦めて、リビングの椅子に腰掛けた。
確かにこれなら、「旦那様から子どもすぎて相手にされていない妻」と容易に想像できる。
リオの奥様は嫉妬する気にもなれないだろう。
「ちょ、コランさん、どうしたんですか?」
外に出たところで、コランはリントの腕を離した。
「どうしたも何も、団長はあんな子どもに手を出したって事じゃないですか! もう、いろいろ、アウトですよ!」
完全に騙されている、とリントは思った。
「いや、俺も驚きましたけど、アレはメイクというより変装ですよ。実際のミコトは年相応です」
そういえば結婚式の時のミコトも、別人の様だった。
あのヘアメイクの2人は、相当な技術者なのだろう。
「そ、そうか。でも、よく考えたら、年相応でも、ヤバくないか?」
それを言ったら、ロイが可哀想である。
「おーい! 2人とも、あと10分くらいでリオの奥様がこっちに到着するけど、準備は出来てる?」
突然、キダンはコランの背後から声をかけた。
「うっ、わぁ!」
コランは大声を上げる。
「了解です」
リントも驚いたが、冷静に返事をする。
「お前! もう登場するな!」
コランはキダンの首を絞める。
今回、コランがキダンの相手をしてくれるので、かなり助かっている。
「ぐえっ、あ、ミコトちゃ…」
かなりの大声が聞こえたので、ミコトは入り口から外を覗いた。
「あ、キダンさん」
「えー! ミコトちゃん、すっごく可愛いね!」
ミコトは嫌な予感がしたのか、ぷいと横を向く。
「まだ何にも言ってないじゃん! あ、リオの奥様がもうすぐ到着するよ」
ミコトはハッとした表情になる。
「了解です。ありがとうございます」
パタパタと奥へ戻っていく。
「あれは、ぜひロイ君に見せたいなぁ! ね、あのミコトちゃんをロイ君が襲うかどうか賭けよ…グハッ…」
コランの右パンチがキダンのお腹を直撃する。
コランはグッタリしたキダンを背中に背負うと、リントへ向き直った。
「副団長、ミコトを守りましょう(いろいろな意味で)」
「はい」
2人は気合いを入れ直すのだった。




