58.お茶会の準備
ハリーの辞団騒ぎから、2週間。
結局ハリーは、ノエルのお見舞いに行った後、騎士団に残る事を決めた。
ミコトもお見舞いに同行したがっていたが、ややこしくなる予感しかしなかったため、ロイとコランとハリーだけで行った。
ノエルの怪我は順調に治っており、復帰後は無理をせず内勤をしてもらう予定になっている。
とうとう明日は、リオの1番目の奥様がミコトを見舞いに来る日なのだが、購入した自宅でその準備に追われているミコトの側にいる事が出来ず、ロイはイライラしていた。
「仕方ないだろう。急に明日、第3が謝罪に来ると言うのだから、こちらも準備がいるんだよ」
政務棟の会議室で、アレンはロイを睨む。
会議室にいるのは、アレンとカイルとゼノマとロイと政務事務官の男2人だ。
「完全に、わざと、ですよね?」
ロイは腕を組んで、椅子の背に乱暴にもたれる。
第2と第3は繋がっている。
第2の代表であり、国家特別人物の奥様がミコトを見舞う日と、第3が謝罪に来る日が同じなんて出来すぎている。
「明日はそもそも、自宅の2階に潜んでミコトを護衛するつもりだったんですよ」
ロイの言葉に、アレンもカイルもゼノマも溜息をついた。
今日は事務官も同席しているため、ミコトについての深い話は出来ない。
「そっちの護衛は、リントたちに任せろ。お前はこちらの証言と護衛だ」
アレンはロイにピシャリと言うと、明日の流れについて、話し始めたのだった。
同じ頃、ロイのお金で購入した自宅で、ミコトは明日の準備に追われていた。
現在自宅にいるのは、ミコトと明日のヘアメイクと給仕をするウミノとネル、料理人のイリス、菓子職人のモナ、ミコトの護衛のリントとコランである。
料理人のイリスは50歳の茶髪の女性で、菓子職人のモナは、35歳のグレーの髪の女性だ。
先程まで、庭師と管理人もいたが、あとは明日の流れだけなので、先に帰っていただいた。
庭には、色とりどりの花が植えられ、木製のテーブルと椅子と日除けが設置されている。
1階の広い部屋には、10人程食事が出来るテーブルと椅子が置いてある。
2階は大きなベッドが置いてある部屋と、何も家具が置いていない部屋がある。
「いい家ですけど、生活感がないですね」
護衛のために、部屋をチェックしていたコランは、つい呟いていた。
「2人とも忙しくて、結局、まだ住んでないんですよ」
リントが答えると、コランは「ああ、それで」と言った。
リントとコランは、階段を降りて1階に戻った。
女性たちの話し声が聞こえる。
「ミコトさん、明日はどんなメイクにしましょうか?」
「取るに足らない妹風でお願いします」
ウミノの質問に、ミコトは悩む間もなく答えた。
「え! 何ですか! そのリクエストは!?」
ネルは驚く。
実はこれには理由がある。
アレンから言われているのだ。
リオの1番目の奥様は、リオと不仲なので、旦那様に愛されている感じを一切出すなと。
と、いうことで、一番自然に出来るのが、取るに足らない妹ということなのだ。
実際これにメイクも演技も要らないが、手を抜くのも相手に失礼なので、ウミノとネルを呼んだのである。
「ちょっと事情がありまして…」
ミコトの曖昧な様子を見て、ネルは、ピンときたように、声のトーンを落とした。
「第2の代表の人って、最近20歳くらいの美女を3番目の奥様にしたって聞きましたよ!」
アレンより詳しい事情に、ミコトは目を見開いた。
「あー、それじゃあ、若い新婚の仲睦まじい話なんか聞きたくないわねー」
料理人のイリスはアハハと笑う。
「男って、ホンット若い女が好きですよねぇ」
菓子職人のモナも呆れた様に笑う。
さすが、年上の女性たちだ。
こんな話題なのに、笑い飛ばしている。
「そういう事なら、仕方ないですね。とびきり美人にしようと思っていたのに残念ですけど」
ウミノはガッカリしているようだ。
謝った方がいいかな、とミコトが思った矢先、ネルは口を開いた。
「でも、私たちには、今回楽しみがあるんです!」
「楽しみ?」
イリスは首を傾げる。
ネルはフッフッフと笑うと、「第2の騎士団の団長ですよ!」と言った。
ウミノも「そうなんです!」と笑顔になる。
第2の騎士団長は、ミコトも強さが気になるところだ。
「ウワサによると、すごいイケメンなんですって!」
ネルがドヤ顔で言うと、ミコトもイリスもモナも「おー!」と言った。
「年齢は25歳で、顔もさることながら、大柄で筋肉が素晴らしいそうです! その上人柄も良く、部下からの信頼も厚いとか! そして、なんと言っても、独身なんですよー!」
ネルは両手を合わせて頬にあてながら話す。
「それはぜひ見てみたいねぇ」
イリスは興味が湧いたように言い、モナも大きく頷く。
25歳ということは、ロイと同い年だ。
ロイもイケメンだし、騎士団長とはそういうものなのだろうか。
「で、でも! ミコトさんの旦那様が一番ですよ!?」
ミコトが黙っているのを見て、ウミノは何か勘違いをしたらしい。
「そうですね! 街の女性にも人気がありますよ!」
モナも笑顔でフォローする。
「いえいえ! 実は、強さが気になっちゃって…」
ミコトは慌てて両手を振って否定した。
決して、自分の旦那様の方が素敵なのに! と拗ねていた訳ではない。
「ミコトさんは、やっぱり強さが基準なんですか? じゃあ、第2の騎士団長の方が強かったらどうします?」
ネルは意地悪な顔で質問をしてくる。
強さは確かに気になっていたが、ロイより強いということは、絶対にないだろう。
ロイの強さは、何というか、規格外なのだ。
「ロイの方が強いので、どうするも何もないですね」
ミコトは笑顔で答える。
女性たちは、キャーという声をあげた。
「愛ですね! 愛!」
と、ウミノ。
「そうですよねぇ。ミコトさん的には、そうですよねぇ」
引き続き、意地悪な顔のままの、ネル。
「こりゃ、明日は第2の奥様の逆鱗に触れるかもねぇ」
イリスは笑いながら言い、モネも「ですねー」と言う。
「違っ! のろけた訳じゃなくて、事実なんですよ!」
ミコトは顔を赤くして、否定した。




