57.同期のハリーの辞団理由
次の日、騎士団の会議室で、ロイは、コランとハリーと話をすることになった。
騎士団長室は、ミコトがいるので、あまり使用していない会議室になったのである。
ロイは2人の向かい側に座り、ハリーの辞団届の手紙を本人に差し出した。
「改めて、理由を聞いてもいい?」
ロイとコランは、ハリーを見る。
「実家の、不動産屋を継ぐためです…」
ハリーは下を向いたまま、小声で答える。
コランは溜息をついて、ロイを見る。
「実は昨日、偶然なんだけど、ハリーの父親のデルタさんに会ってたんだよ」
ハリーは小さく頷いた。
「父からきいてます。夫婦でとても仲が良かったって…」
仲が良かった話は、今は弊害でしかない。
コランもさらにロイをじっと見る。
「あー、それでね、ハリーが家を継ぐなんて話は一切なかったというか…。もし、思う事があるなら、何でも言って欲しいんだけど…」
ロイは下を向いたままのハリーを覗き込む。
ハリーとは同期で、それなりによく話した。
養成所時代は、座学のノートを借りたりもした。
出来れば、上司と部下として話したくはない。
ハリーは黙ったまま、何も言わない。
回りくどいことが苦手なロイは、もう、ぶっちゃけるかと、椅子の背にもたれた。
「あのさ、ハリーとは同期だし、もう言うけどさ、辞めてほしくないんだよね。ミコトが連れ去られた上に怪我をした責任は、全て俺にある」
コランは大きく頷いている。
どうやら、全肯定である。
ハリーは顔を上げた。
「ロ…団長…」
「ロイでいいよ。敬語もいらない」
ロイの言葉に、ハリーはぐっと、顎を引き締めた。
「お、俺、罪悪感で、死にそうで…」
ハリーの目に涙がたまる。
「だから、責任は俺にあって、ハリーじゃ…」
「違うんだ! 俺が、俺が勝手に、ミコトの事を…」
これは、やっぱり、そうくるのか? とロイは身構えた。
コランも同じ事を思ったようで、目が泳いでいる。
「勝手に、妹と思っていて!」
ロイとコランは顔を見合わせる。
「い、いもうと…?」
ロイの言葉に、ハリーは頷いた。
「俺、10歳の時に、妹が生まれて…、でも養成所にいたから、あまり会えなくて、そうこうしているうちに、妹は、病気で亡くなったんだ。まだ1歳だった」
乳幼児の死亡率は高い。
こういう例も少なくはないが、ハリーの家もそうだったようだ。
「ミコトが入団してきた時、妹が生きていたら、こんなふうだったのかと思って、勝手に妹の様に思ってたんだ」
「そ、そうだったのか」
コランも知らなかった様で、驚いている。
というか、恋愛感情だと思っていたのだろう。
「だから、ミコトがドレスで出てきた時、妹を嫁に出す兄のように感動してしまって、それで、敵襲への対応が遅れて…、一番年下のノエルが気がついたら斬られていたんだ」
ノエルは、まだ14歳の見習い団員だ。
騎士団は養成所を卒所する13歳が最年少入団となるが、1年は見習い団員扱いとなる。
今回、ニアとソルを除けば、ノエルは第2小隊で一番重傷だった。
「俺は、ノエルの指導役で隣にいたのに、斬られる瞬間さえ見ていなかったんだ!」
そう言うと、ハリーは、ワッと泣き出した。
罪悪感は、ミコトではなく、いや、もちろんミコトへの罪悪感もあるだろうが、ノエルへのものだったようだ。
泣き続けるハリーの肩に、ロイは手を置いた。
「敵は、ミコトがドレスで出てくる瞬間を、わざわざ狙ったんだ。ハリーだけが油断していた訳じゃない。計画的だったんだよ」
あの闇組織は、そういう奴らだ。
ハリーは首を横に振る。
ロイとコランは、もう一度顔を見合わせる。
「あ、じゃあさ、ノエルのところに一緒にお見舞いに行こう。それから決めようか?」
ロイはハリーに提案をしてみる。
実は元々、重傷者のもとへは、見舞いに行く事になっている。
「あ、あわせる顔が、ないっ」
ハリーは泣きながら言う。
確かに、真面目な男である。
コランは、ロイに右手を上げて合図すると、んんっと咳払いをした。
「ハリー、ノエルはそんな事気にしていない。むしろ復帰した時に、指導役のハリーが辞めていたら、そちらの方が気に病んでしまうよ」
コランの言葉に、ロイは頷く。
さすが、年長者である。
ハリーも少し顔を上げる。
「お前は少し真面目すぎる。ほら、団長を見ろ。ミコトを放ったらかしでも、当日帰国して気にせず結婚できるんだぞ?」
「ぐっ…」
まだ、コランは怒っていたようだ。
「いや、ロイは、ロイはいいんですよ!」
ハリーがロイを庇ったので、コランは少し驚いている。
持つべきものは、同期だ。
「ロイは金持ちだから、何でもいいんです!」
『…え?』
ロイとコランの声が重なる。
「俺はミコトがロイと結婚して、本当に良かったと思ってます! 結婚で何が大切かって、お金ですよ、お金! 不動産屋を見ていると切にそう思います! 愛だの恋だのは、どうせそのうち薄れるんですよ。俺は妹を必ず金持ちに嫁がせると決めていました!」
ハリーの熱弁に、ロイとコランは呆然とした。
「それが証拠に、高額なプレゼント(家)を受け取った後のミコトは、幸せな気持ちになり、ロイを誘って消えたんですよ!」
「ち、ちょっと、ハリー!」
ロイは席を立ってハリーの口を両手で塞いだ。
「それ、違うから!」
流れだけ見れば、そう見えるのかもしれないが、それではミコトをお金で買ったみたいだ。
「団長、昨日いなかったのは、そういう…」
コランは呆れた目でロイを見ている。
「だから、違う! っていうか、ハリー元気だよね!? ノエルのお見舞い行く!?」
ハリーはハッとなって、小さく頷いた。
「あわせる顔はありませんが、ノエルもミコトを姉の様に思ってましたので…」
ロイはゲンナリした。
今度は弟が登場するのか…。




