56.食事処にて
ロイとリントは、騎士団を出て、街の食事処に入った。
割と大きな食事処で、お金を払えば、個室を用意してくれる。
2人は個室を希望し、ある程度のお酒と食べ物を注文した。
「まあ、飲んで。悪かったよ。無理に聞き出して」
ロイは謝りながら、リントのグラスにお酒を注ぐ。
「俺は一言も話してないから、聞き出した事にはならないですよ」
リントの言葉に、ロイは確かにと頷いた。
ロイは自分のグラスにもお酒を注ぐ。
「お疲れー」
「お疲れ様です」
2人はお酒を何口か飲んでから、運ばれていた食事に手をつける。
「ロイさん、知っていた訳ではないんですか?」
リントは店で人気の唐揚げを食べながら、言った。
「知らなかったんだけど、なんとなくそうかなって思う事が3つあったんだ」
ロイは人差し指をたてる。
「結婚が決まった時に、リントにそうなればいいと思っていたと言われた事」
リントは唐揚げを詰まらせる。
「うぐっ、そんな前か…」
「リントは俺の事を心配してるのに、いなくなるミコトとそうなればいいっていうのはおかしいよね」
ロイは2本目の指をたてる。
「ミコトから、いなくなったら探しに来てと言われた事。異世界には探しにいけないと思うから、いなくなる場所は異世界じゃないなぁと」
リントは頷く。
それを5年後と確信しているのが勘だろうか。
ロイは3本目の指を立てる。
「ミコトが冒険者登録をしている事」
「えっ!?」
リントは目を見開いた。
ミコトは臨時団員なので、違反ではない。
違反ではないが、なんの相談もなかった。
「あいつ、勝手に…」
ロイは笑った。
「教えてくれたキダンさんは、特に不思議に思ってなかったよ。臨時団員なら他にも登録していても普通って感じで。でも、リントや俺からすると、不自然だよね」
リントは頷く。
「ミコトは帰れないけど、聖女がいなくなった後も騎士団に置いてもらえるか分からなかったんじゃないかな。だから今のうちに生活の基盤を作ろうと思って登録した」
リントは、ハァーと大きく息を吐いた。
「お金を貯めてるところから、俺らも気づいたけど、何で頼らないかな…」
「あ、マリーが気付いたのか」
リントはお酒を飲み干した。
「もう、勘の鋭い人と話したくないです!」
ロイもお酒を飲み干す。
でも、酔わないので、わざわざお酒を飲む必要はないのだが。
「でも、ミコトにはあんまり勘が働かないんだよ」
ロイは串に刺した肉を皿から取って、それを回した。
「そうなんですか?」
ロイは頷いて、串の肉を頬張る。
「結構すれ違ってるんだよねー。プロポーズの短剣も全然本気にしてなかったし、結婚も義務感でしてもらったとミコトが思っていたことに気づかなかったし…」
そこは普通の恋人同士みたいなんだな、とリントは思って、ハッとした。
「プロポーズの短剣って、プロポーズだったんですか?」
「え? 普通そうだよね。あの手の剣は…」
ロイはキョトンとするので、リントは「いやいや」と言った。
「あれ渡したの、ロイさんが戻ってきた次の日ですよね!? 再会した次の日にプロポーズしたってことですか?」
「おお! リントは何でも知ってるなぁ」
ロイは驚くと、自分のグラスにお酒を注ぎ足した。
「とりあえず、受け取ってもらおうと思って、何も言わなかったことが、すれ違いに…ね」
ロイはリントのグラスにもお酒を注ぎ足す。
このペースで飲んだら、危ないと思いつつ、リントはお酒に口をつける。
「次の日って、早いですよ! まさか一目惚れ!? いや、一目じゃないか。ちょっと意味が…」
「俺、一目惚れがよくわからないんだけど、女の子見て、初めて、この子だとは思ったんだけど、これが一目惚れ?」
リントは右手で頭を押さえた。
「再会した日か…。確かに今思うと様子がおかしかったですね。もう、一目惚れでいいんじゃないですか」
ロイはお酒を再び飲み干した。
「じゃあ一目惚れって言えば良かったな。一目惚れなら、気持ち悪くなかったのに」
「気持ち悪いって、やけに気にする…ちょっと、ペース早すぎですよ!」
さらにお酒を注ぐロイを見て、リントはストップをかける。
「大丈夫。俺は酔わないから。リントが酔い潰れたら、ちゃんと運ぶね」
リントは、ミコトの様にロイに抱っこされる自分を想像した。
そんなの絶対嫌である。
「俺はもう飲みませんよ! 食べる方で!」
リントは席を立つと個室のドアを開け、果実水と食事を注文した。
ロイはくっくと笑い、そういえば、リントと飲むのも5年ぶりだなと思っていた。




