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異世界恋護奇譚 〜聖女のオマケ転移、狙われ少女の自立と結婚〜  作者: 三多来定


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55/109

55.リントの思い

 落ち着かせたミコトを聖女の部屋まで送り、夜間の護衛が来るのを待って、ロイは夜の9時に騎士団に戻ってきた。


 騎士団長室を開けると、リントが事務椅子に座って、腕を組んでいた。


「お早いお帰りで!」


「あ、まだいたんだ」


 ロイがヘラッと笑うと、リントは深い溜息をついた。


「ミコトに二人きりになりたいって言われてからの時間が、やたら長いんですけど?」


 キダンがリントに言ったのだろう。


 意味深な流れではあるが、話をしていただけで、特に何もなかったのだ。


「ごめん。後はやるから、リントは帰っていいよ」


 ふと見ると、書類があらかた片付いている。


「あー、ありがとう」


「ロイさんたちがイチャイチャしてる間に終わりましたよ!」


 ロイは苦笑した。


「いや、話をしてただけだよ」


 リントは疑いの目を向ける。


「本当に、話だけだったんだ…」


 ロイは呟くと、団長椅子に腰掛けて目を伏せた。


 二人きりになりたいなどと言われたら、ロイだって少しは期待してしまう。

 だが、ミコトの意図は完全に違っていた。


「……そりゃ残念でしたね」


 リントは察したかのように、呟いた。





「聞きましたよ。ミコトが団員に女の子を紹介する話」


 どうやらキダンは全てをリントに報告したらしい。

 実は仲が良いのではないだろうか。


「結局はなくなったけどね」


 ロイは苦笑する。


 リントは事務机の引き出しから一通の手紙を取り出した。


「なくなって良かったですよ。これ、ハリーさんからです」


 手を思い切り伸ばしたリントから、ロイも手を伸ばして手紙を受け取る。


 手紙には、辞団届と書いてある。


「…辞団…!?」


「夕方、コランさんに連れられてハリーさんがここに来て、渡されました。俺じゃ受理出来ないんで、後日団長から話をするって言ってあります」


「なんで…」


 騎士団は、他の仕事と違い、命の危険を伴う。

 夜勤や遠方への派遣もあり、決して楽な勤務ではない。

 その分給金はいいのだが、やはり途中で団を辞する者はいる。


「親の仕事を継ぐことにしたと言ってました。表向きは…」


 リントの表向きという言葉に、ロイは頷いた。


 今日、正にハリーの父親のデルタに会っていたのだ。

 デルタの言動に、ハリーが後を継ぐ雰囲気などなかった。


「闇組織の襲撃に、恐怖心が芽生えた…のかな…」


 ロイは溜息まじりに言う。


 リントは「いえ、そうじゃなくて」と言った。


「ロイさんも同期だから知っていると思いますけど、ハリーさんはそこそこ強いんです。あの襲撃でも、全員が倒された中、1人最後まで立っていました」


「あ、そうだった。え、じゃあ何で…」


 リントは事務椅子の背にもたれた。


「ミコトを守れなかった責任を感じているんだと思います」


「ハリーの責任じゃない…」


 ロイの言葉にリントは頷いた。


「責任というなら、俺とロイさんでしょう。それは、俺もコランさんも伝えました。でも、真面目というか、ミコトへの気持ちが別方向にいっているというか…」


 ロイは瞬きをした。


「え?」

 

 リントは苦笑した。


「最初に女の子をハリーさんに紹介しなくて良かったって言いましたよね」


「えーと、ニアとソルの話だよね?」


 ロイの言葉に、リントは呆れた表情をする。


「その2人はもういいですよ。ミコトと仲良く友だちしてましたよ。女の子でも何でも紹介して、トドメを刺して、次に行けばいいんです」


 ロイは「うわぁ」と呟いた。


「でもハリーさんは真面目すぎて、ダメです。年齢差があるので友だちにもなれません。ハリーさん自身も、ミコトを好きなのか分かっていません」


 ロイは首を傾げた。


「ハリー自身も分かってないのに、何でリントは分かるの?」


 リントは腕を組んだ。


「いやもう、ずっと目で追ってるから。ミコトが入団した13歳の頃からずっと!」


「……13歳」


 ロイの13歳と言う呟きに、リントは顔をしかめた。


「ハッキリ言って、13歳のミコトは全っ然でした! 髪も短くてパッと見男子だったし、胸もありませんでした」


 ロイは5年前のミコトを思い出した。


「妹みたいな、ってこと?」


「多分? もしくは、そういう趣味かと…」


 リントの言葉にロイは頭を抱えた。

 ロリコン、か。


「ミコトもよくハリーさんに話しかけてましたからね。それも良くなかったんだと思います」


「よく話しかけ…?」


 ロイは頭を抱えながら顔を上げた。


「ロイさんの同期だから、ロイさんの養成所時代の話を聞きたかったんでしょう」


「俺の養成所時代なんて、ロクな話ないけど…」


 複雑な気持ちとは、こういう事か。


「ホントですよ。ロクな話ないのに、聞きたがって!」

「肯定されると、ちょっと…」


 リントはロイを軽く睨んだ。


「とにかくですね。ミコト程度でも、女子がいると、こんなに面倒なんだと、思い知らされましたよ! もう絶対、騎士団に女性は入れません!」


 ミコト程度とは酷いが…。


 なるほど、ハリーにとって、ミコトは守るべき存在だったということだ。


 ロイはフーと息を吐いた。


「もうコランさんとハリーは復帰してるんだよね。明日、話してみるよ」


「よろしくお願いします。あ、それと、この流れで、リオの奥様のお見舞い? の護衛は、コランさんに頼みました。品がまだある方と判断しましたけど、いいですか?」


 ロイは苦笑した。


「確かに、イワンさんよりは、品あるかな?」


 リントも頷いた後、声を落とした。


「あと…、アレンさんから、聞きました。ミコトが第2に命を狙われているって…」


 ミコトの護衛を騎士団に頼んでいるが、団員たちは詳細を知らず、リントにさえ、古代魔法のことまでしか伝えていなかった。


「あー、そうなんだよね…」


 アレンがどこまで伝えたのか分からず、ロイは曖昧な返事をした。


 リントは席を立って、ロイの前に来る。


「アレンさんも、誤魔化してたから、もうハッキリ言いますね。俺、ロイさんがミコトがいなくなったらダメになる可能性のある事を知っています」


 リントの表情は真剣だ。


 ロイも真剣な顔になる。


「そっか。まあ、予想つくよね。父やセタ兄のことがあるし。第2にもバレてるし…」


 ロイは両肘を机について、目線を落とした。


「ミコトを守るつもりで結婚したのに、逆に危険に晒しちゃったんだよね…」


「ロイさん…」


 リントは少し言い淀んだが、顔を上げた。


「でも可能性ですよね? そうなるなんて、誰にも、リオにもロイさんにだって分からないですよね」


 ロイは、「んー」と言って、天井を見た。


「リントに心配かけたくはないけど、その可能性は高そうだなぁと…」


 リントは顔を曇らせた。


「いつもの、勘ですか?」


「いや、もっと確信を持てるやつなんだけど…」


 ロイはミコトに付けてもらったアザが、今も薄く残っていることを思い出していた。


 でも、この話をリントにしても、重いだけで、ロイ自身にも、得はない。


 間違って、ミコトに伝わっても…。


 ふと、そこまで想像して、ミコトに伝わって、ミコトがロイを殺そうとしたとしても、全く辛くない感覚がある事に気がついた。


 むしろ、ミコトの手で殺されるのなら、幸せだと感じているのだ。


「ロイさん?」


 リントの声に、ロイはハッとした。


「今、確信したよ。ミコトがいなくなったら、俺はダメになる!」


「なっ!」


 リントはロイの両肩を両手で掴んだ。


「なんで、嬉しそうに言うんですか!? 顔とセリフがあってません! 俺は嫌ですよ! ロイさんが仕事出来なくても、面倒事ばかり持ち込んでも、団員の人間関係全く分かってなくても、それは嫌です!」


 ロイは笑った。


「結構悪口だけど、ありがとう」


「だから、俺は笑えないですよ!」


 リントにはロイの笑顔を理解出来ない。


「リントさ、他には、何を知ってるの?」


 ロイの言葉に、リントはギクっと体を震わせた。


「やっぱり何か知ってるんだ。俺が言いたい事と同じかな?」


 リントはロイの肩から両手を離した。

 ロイは勘が鋭い。

 もう、知らないとは言えない。


「せーので言おうか?」

「い、いや、ちょっと待って下さい! これは、俺の一存では言えなくてですね…」


 リントが言い淀むと、ロイは首を捻った。


「あー、同じじゃなさそう…。逆に気になるけど」


 リントは回れ右をすると、自分の荷物を抱えてドアへ向かった。


「お先に失礼します!」


 ロイは、リントの肩を掴む。


「は、離していただけると…」

「リントなら、逃げられないこと、分かるよね? 捕虜にやった拷問スタイルでもいいんだけど?」


 ロイは本気だ。

 そもそもリントは、ロイに敵うとは思っていない。


「無理なんですよ。聖女に口止めされていて…」


 ロイは顔をパッと明るくした。


「聖女ということは、ミコトに関してか! じゃあなんとなく分かったよ」


 リントはごくんと唾を飲み込んだ。


「ミコトは5年後、元の世界に帰らない! じゃない?」


 ロイは笑顔で言う。


 リントは大きな溜息をついた。


「勘だけで、生きていけそうですね…」 

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