54.二人きりになりたい
ミコトとロイは、不動産屋のデルタと押し付けられただけのキダンと一緒に、全部で3軒の家を見学し、結局二番目に見た家を購入することになった。
決め手は、庭の広さとリビングの広さだ。
木造2階建、1階にはキッチンとリビングとお風呂とトイレ。
2階には2部屋というシンプルな造り。
リビングは20畳程あり、お客様と護衛がいても、十分対応できる。
庭も広く、バーベキューも出来そうだ。
帰りの馬車の中で、ミコトは、デルタにいろいろ斡旋を頼む事にした。
「家の管理人ですね。あと、当日の料理人。菓子職人。庭師。ええ、全てこちらで斡旋いたしますよ」
「庭にお花がたくさん欲しいです。あと、管理人と料理人と菓子職人は、出来れば女性がいいです」
ミコトの言葉を、デルタは書き留める。
「概算で、おいくらになりますか?」
デルタはノートにサラサラと数字を書く。
さすが不動産屋。
計算が早い。
ミコトは数字を見て、ウッとなる。
金貨約5000枚だって!
ミコトが一生かかっても無理なヤツだ。
しかし、ロイの通帳には、それ以上に入っているのだ。
ミコトはロイを見る。
「ミコトがいいなら、いいよ」
ロイは笑顔である。
ロイはよく、このセリフを言うが、ミコトがいいなら、何でもいいのだろうか。
ミコトが頷き、商談成立である。
「ロイ君、お金持ちー! 僕にも何か買ってよー」
キダンは馬車内でロイに抱きつこうとする。
ロイはキダンの顎をパシッと片手でとめた。
「ミコト以外に何かするつもりはありません!」
「本当に仲がよろしくて羨ましいです。ハリーにもいい人がいるといいのですが…」
デルタは、ふぅと溜息をついた。
ハリーは独身だ。
騎士団員は、それだけでモテるはずなのに、奥手が多いので、独身者が多いのである。
ミコトはウミノとネルを思い出した。
彼女たちの友人も肉食女子かもしれない。
「あの、私の友人の女の子が騎士団員を紹介して欲しいって言ってるんですけど…」
「そうなんですか? ぜひ!」
デルタは喜ぶ。
「ミコトちゃん、じゃあ、リント君も紹介してあげてよ」
キダンは、何気にリントとマリーを引き離そうとしているようだ。
「リントはダメですよ。それに、ニアとソルを紹介するってもう約束したんです」
「えっ!」
ミコトの言葉に、ロイは驚く。
「ウミノさんたちが、ニアとソルをかっこいいって。紹介するって言ったら、すごく喜んでくれて…」
「あー、そう…」
ロイは馬車の天井を見た。
これは、口を出すべきなのか。
もう、放っておくことなのか。
カイルではないが、ロイは、こういう事は、苦手である。
「ニア君とソル君って?」
ロイの反応が面白いので、キダンは興味津々でミコトにきく。
「私の護衛をやってくれてた…、あ、キダンさんが新婦控室に侵入した時、一番に入ってきた2人です」
キダンは、「あー、あの2人ね」と言った。
「ミコトちゃん、知ってた? 騎士団って、女の子を紹介するの、暗黙の了解で禁止なんだよ」
「え! そうなんですか?」
「え!?」
ミコトとデルタは同時に驚きの声を上げた。
キダンは頷き、ロイはそんな暗黙の了解あったのかと首を傾げた。
「これは27年前の騎士養成所の話なんだけど、卒所する13歳の男の子に、先輩の騎士団員が、お祝い? みたいな感じで女の子を紹介したんだよ。でもその男の子は、その子に手だけ出して、ポイ捨てしたの。そこから、何でこんな男を紹介したんだ! って大問題になったんだよ」
ミコトは開いた口が塞がらなかった。
「じ、13歳で、手だけ出して、ポイ捨てって…」
ちょっといろいろ、早すぎだ。
「ま、僕の話なんだけどね」
「なっ!?」
ミコトは愕然とし、ロイとデルタは肩を落とした。
「そんな訳で、紹介には、責任問題があるってことなんだよ。相手がクズだったら、大問題!」
ニアとソルはクズじゃない。
でも、これは、そういう意味じゃない。
「分かりました」
ミコトがハッキリ分かったと言うので、キダンは笑った。
「えー、僕がクズだって分かっちゃった?」
「それもですけど、そんな自分の話を持ち出すほど、紹介はしない方がいいって事ですよね。私もちょっとお節介かなぁと思ってましたし、紹介はやめます」
キダンとロイとデルタは真面目な表情になる。
「あ、あーそう。ミコトちゃんはやっぱり賢いね…」
キダンは頭をかいた。
ミコトは少し間違ったと思った。
キダンはわざとおどけていたのに、真面目に返してしまったのだ。
謝るのもおかしいし、賢いと言われたことも的外れすぎる。
ミコトは少し考えて、抱っこしてくれているロイにさらにピッタリとくっついた。
「ロイ、2人きりになりたい」
「えっ!?」
ロイは驚いて、デルタとキダンは顔を赤くした。
「す、すみません! 長い事ご一緒してしまって…」
「あー、ロイ君、もう降りたら? 降りた方が早いでしょ、ロイ君の場合」
「降りたいです」
ミコトはキッパリ言う。
ロイの答えをきかず、貸切馬車から、ミコトを抱えたロイは降ろされてしまった。
ちょうど街中のちょっとした広場になっている場所だ。
ロイはミコトを抱えたまま、隅にあるベンチに腰を下ろした。
「どうしたの? ミコト…」
「だって、賢くないし…。キダンさんが傷ついて見えたし、デルタさんをぬか喜びさせちゃったし、2人きりになりたかったし…」
ミコトはロイにしがみついた。
「私、驚くほど子どもなの。本当は、ワガママなの。ロイ、嫌になるよ?」
ロイは微笑んだ。
「ならないよ」
ミコトは首を横に振る。
「んー、そうだなぁ。ミコト、前にあげた短剣あるでしょ?」
ミコトは顔を上げて、ロイを見た。
今、あの短剣の話をする意味が分からなかった。
「プロポーズに使うって知っていて、あげたんだよ」
ミコトは目を見開いた。
「え、だって、あれって…」
確か、再会した翌日だ。
「受け取ってもらえるなら、何でもいいやって思ったから、特に何も言わなかったけど」
ミコトは困惑した。
再会した翌日に、プロポーズ?
「男と思ってたんじゃ…?」
「思ってたよ。だから、リントに嫁候補じゃなくてミコトだって言われて、結婚しようと思ったのに男の子だったってショックで…」
「ま、まった! それだと、再会したその日にって事になっちゃうよ!」
ロイはふっと笑った。
「そうだよ。本当は気持ち悪いって思われたくなかったから、言うつもりなかったけど」
ミコトは呆然とした。
「じゃあ、なんで、黙って、国外に行っちゃったの…」
「あー、それは、キスした事、怒ってるのかなって…。もっとちゃんとって思ったら断られたし、送らなくていいって言われたから、とうとう嫌われたかなって…」
ミコトは首を横に振った。
「わ、私は、ロイの気持ちが私にないと思って悲しくて…」
ロイは苦笑した。
「見事にすれ違った訳か…」
ミコトはだんだん涙が溢れてきた。
「な、なんで、結婚式の当日に帰国…」
「それは、第2の…」
ロイは自分の頭を押さえた。
第3じゃなくて、第2って言った。
ミコトはこの時初めて、第2にも狙われていた事を理解した。
そして、それは終わっていなくて、リオの奥様が来る事も、ミコトを狙う一環という事を理解した。
ロイは、第2で、ずっとそれを調べていたんだ。
ミコトは顔を覆って泣き出した。
ロイは、道行く人から、女性を泣かせている男として見られている。
しかも、騎士団の制服だ。
「なるほど。こういう時に、家がいるのか」
ロイは呟いて、ミコトを抱きしめた。




