53.家探し
昼下がりの街中を、貸切馬車に乗り、ミコトとロイとキダンとデルタは、新居の物件へ向かっていた。
馬車は6人乗りだが、ミコト以外は長身のロイとキダン、小太りのデルタのため、馬車内は狭く感じる。
「お二人は本当に仲がよろしいのですね」
デルタは微笑む。
キダンは笑いを堪えている。
言いたい事は分かっている。
ロイは馬車内でも、ミコトを膝に乗せているのだ。
「馬車の揺れは、足の怪我に響くので」
ロイはさらっと言う。
「いやいや、ロイ君。膝に乗せてたって、揺れるでしょ?」
キダンは笑いながらロイの膝を見る。
そして、顔色を変えた。
「う、浮いてる? ロイ君、ミコトちゃん、浮かせて抱っこしてるの?」
「だから、揺れないようにって言ったじゃないですか」
ロイは当たり前のように言う。
「ミコトちゃん、揺れる?」
キダンはミコトに尋ねる。
ミコトは小さい声で「揺れないです」と答えた。
そう、ロイは腕の力だけで、ミコトを抱っこしているのだ。
驚異的だが、恥ずかしい。
「相変わらず規格外だなぁ。力も愛も」
「す、すごいですね」
これは、イチャイチャするなって言われても仕方がない。
でも、ロイにとっては、普通に出来るから、しているだけなのだろう。
怪我が治ったら、当たり前のように、抱っこはしなくなるのだろう。
それを寂しいと思うほど、抱っこされるのが、当たり前になっていて、嬉しいのだ。
「こちらです」
馬車から降りて、デルタの案内で訪れた家は、騎士団から馬車で10分程の2階建の白い木材を使用した家だった。
広さは日本でいう4LDKといったところで、お茶の出来そうな庭がある。
2人で住むには広いが、変な豪邸ではなくてミコトは安心した。
実は、王族や貴族がいないというだけあって、この世界の家は、とてもこぢんまりとしていて実用的な造りをしている。
そういう意味では、この家は大きい方だし、聖女棟はかなり大きい。
「やっぱり重要なのは、ベッドルームだよね!」
キダンはニヤニヤと笑う。
ロイは溜息をついた。
「やっぱりキダンさんを押し付けられただけだったんですね…」
ミコトはキダンを無視して、部屋を一通り見る。
ずっと住む訳ではないから、来客用と考えていいだろう。
おもてなしスペースが一番重要である。
そういう意味では、リビング? が狭い。
1階に3部屋もある。
こんなに小分けの部屋は必要ない。
天気が良ければ庭でお茶もしたいが、ちょっと庭が狭い。
「デルタさん、あの…」
ミコトはロイに抱っこされたまま、デルタに要望を伝える。
デルタは「なるほど!」というと、持っていたノートをパラパラめくった。
「ああ、ここはどうですか?」
見せられた紙には、間取り図が書いてある。
よく、チラシで見たアレだ。
「いいですね! 1階の主部屋と庭が広いですね! 階段の位置も邪魔じゃないし…」
デルタは、ほう、と言った。
「ミコトさんは、間取り図を見たことがおありなんですか? 瞬時にご理解されるなんて、すごいです」
しまった。
間取り図は不動産屋の専門知識なのかもしれない。
「あ、いえ、なんとなくで言っただけで…」
ミコトがすごいと言われる大体の事は、日本にいた頃の知識なのだ。
小学生時の拙い知識ではあるが、世界を変えてはいけないミコトには、どこまでこの知識を人に話していいのか、よく分からない。
なので、結局、筆算や九九なども誰にも教えていない。
計算が早いなどと言われると、若干心が痛むのだ。
「早速行きましょう」
デルタは気にした様子もなく、馬車の方へ向かう。
「ミコトちゃんも、隠し事多そうだねぇ」
キダンはそう言いながら、ミコトとロイの横を通り過ぎる。
だって、仕方ないじゃないか。
オマケで来ちゃっただけなんだから。
特別な何かじゃないのだから。
ロイは、こういう時、何も言わない。
きっと勘でそうしているのだろう。
全部話せたらいいのに。
帰れないことも話してしまいたい。
そうしたら、ずっと一緒にいてくれるかもしれない。
ミコトはロイの背中に手を回した。
「疲れた?」
ロイの優しい声に、ミコトは首を横に振る。
こんなに隠し事だらけで、夫婦と言えるのだろうか。
「ミコトさ、俺はミコトがいてくれればそれだけでいいんだ。だから何も心配しないで」
すごいな。
何も分からないはずなのに、安心させてくれるんだ。
ミコトは奥歯を噛み締めると、両手で自分の頬をパンッと叩いた。
「ありがとう、ロイ! 私、いい家を選ぶね!」
ロイは苦笑した。
「顔は叩かなくていいのに…」
お客様をおもてなしするのに、いい家。
リオの奥様以外にも、交流はあるのだろうか。
ミコトは首を捻った。
「リオさんの奥様は、何で私に会いたいんだろう。古代魔法に興味でもあるのかな…」
ロイは少し声を落として「あー、何でだろうね」と言った。
「私はどちらかと言うと、第2の騎士団長が気になるけど」
ミコトの何気ない言葉に、ロイはかなり驚いた顔をした。
「えっ!? な、何で?」
「強いのかなぁって。交流戦とかやってもらいたい…」
ロイはミコトを抱きしめる。
「ダメ! 何考えてるの! 絶対ダメだから!」
「そ、そんなに?」
「まーた、イチャイチャしてる!」
振り向くと、先に行っていたはずのキダンが目の前にいる。
「ミコトちゃんさぁ、ロイ君の前で他の男が気になるなんて、言っちゃダメだよー」
ミコトは赤面した。
そんな意味で言ったのではなかった。
「ミコトちゃんだって、ロイ君が、リオの奥様が気になるって言ったら、嫌でしょ?」
「ちょっと、キダンさん!」
ロイはキダンを軽く睨む。
リオの奥様って、30代半ば? だった。
うろ覚えだが、美人だった。
ロイは25歳だから、30代の美人…。
そういえば、ミコトの父と母である大吾と琴子は、琴子が7歳年上である。
ミコトは青ざめた。
15歳で子どものミコトなんて、全然敵わない。
「あ、本気にしちゃったかな」
キダンは再びニヤニヤする。
「何で話をややこしくするんですか! 元々そういう話ではないんです!」
「えーだってさ。ミコトちゃんが第2の騎士団長に、あなたの事が気になります! とか言って、ソマイ? だっけ? が本気にしたらどうするの? 略奪愛とか、ダメでしょ」
キダンの言葉にロイは呆れた。
キダンは、人妻に手を出した、正真正銘の略奪愛なのだ。
「キダンさんが、それを言うんですか…」
「あのう、そろそろ次に行きませんか?」
デルタは困ったようにロイとキダンを見ていた。




