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異世界恋護奇譚 〜聖女のオマケ転移、狙われ少女の自立と結婚〜  作者: 三多来定


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52/103

52.家を買おう

 ミコトの作成した請求書や申請書が全て通り、騎士団の財政は何とか安定した。


 一番の難関、決算報告会議も無事に乗り切り、ミコトは、騎士団長室で、次なる難関の予算案に手をつけていた。


 今日はロイは不在である。


 キダンと共に、尋問部門のお手伝いだと言っていた。


 先日の、闇組織の捕虜の尋問だろうか。


「ミコト、予算案は出来そう?」


 騎士団長の椅子に座っているリントは、ミコトが悩んでいるとみたのか、話しかけてきた。


 今日のミコトの護衛は、リントである。


「あ、はい、予算案の案なら」


 ミコトは書類を持って、補助杖でリントのところへ行く。


 と、ドタドタという複数の足音が騎士団長室に近付いてきて、ドアが激しくノックされた。


「うわぁ、イヤな予感…、どうぞー」


 心底嫌そうなリントの返事を待たない勢いで

ドアはバーンと開き、アレンとキダンとロイが入ってきた。


「大変なんだ! ミコト!」


 アレンはミコトを見て、大声を上げる。


「あっ! リント君! この間はよくも…」


 キダンはリントを見て、先日の恨み言を言おうとする。


「ミコト! また立ってる! 足が治らないよ!」


 ロイは素早くミコトを抱き上げる。



 ああ、これ、またぐちゃぐちゃになる予感がする。





 結局、リントが事務机の椅子に座り、アレンとキダンが来客時の簡易的な丸椅子に座り、ロイが騎士団長の椅子に座り、ミコトはロイの膝の上に座ることになった。


「なんで、また、膝…」


 ミコトが下を向いて呟くと、ロイは「椅子もうないし」と言う。


「それで、大変なんだ、ミコト!」


 アレンは、もうロイの行動はどうでもいいというように、ミコトに手紙を差し出した。


「第2のリオの奥様が、ミコトを見舞いに来るんだよ!」


 ミコトが手紙を開くよりも先に、アレンは手紙の内容を簡潔に言う。


「見舞い? 足の?」


 ミコトは首を傾げた。


 リオの奥様なんて、会ったことはあるが、話したことはない。


「実は元々ミコトに会いたいという手紙をもらっていたんだが、度重なる襲撃と怪我で臥せっていると返事をしたところ、ぜひお見舞いにって…、ああー!」


 臥せっているのなら、部屋、もしくは病院? で寝てればいいのだろうか。


 それにしては、アレンの困惑ぶりがすごい。


「私、どうすると一番いいですか?」


 相手は第2の代表の妻で国家特別人物の妻でもある。

 きっと国賓扱いだろう。


「今回リオ…さんは、同行しない、個人的な訪問になるんだ。そういう国家特別人物の妻同士の交流は、自宅に招待するのが通常なんだよ」


 アレンの言葉に、ミコトは頷いた。

 そういえば、ナラから習った気もする。


「自宅……、私、聖女の部屋に住んでるから、私の自宅はないですね。ロイの自宅? あれ? ロイってどこに住んでるの?」


 ミコトはロイを見る。


 アレンもキダンもリントも「あー」と言った。


「俺、家はないんだよ。あまり寝なくてもいいからさ。適当に、仮眠室とか、宿泊所とか?」


「え! そうだったんだ!」


 ロイの言葉にミコトは驚いた。


 国一番のお金持ちのロイは、住所不定有職だったのだ。


「今、そこ?」


 リントは呆れ顔だ。


「そう、そこなんだよ! 2人とも、家がないんだよ! 国家特別人物夫妻は家無しなんだよ!」


 アレンは叫んだ。


 言葉にすると、なんだか切ない。


「それでだ、ロイ。この機会に家を買え」


 アレンの提案に、ロイは顔をしかめた。


「えー、家買っても、管理できないし…」


 アレンは席を立つと、ロイの前に来た。


「そんなのは、人を雇えばいいんだよ。お前に経済の話をしても分からんだろうが、金を持ってる奴は消費、雇用して経済をまわすんだよ! ある意味、義務だ義務!」


 アレンの言葉に、キダンとリントは頷いている。

 

 アレンはカバンから通帳を取り出した。


 この世界にも、銀行があるのだ。

 ロイのお金の管理は、アレンがやっていたらしい。


「お前、この無駄な大金をどうするつもりなんだ!」


 アレンは通帳で、ロイをパシパシ叩く。


「普通に使ってますよ。食べたり、飲んだり?」


 ロイの主張に、アレンは「増えてく一方なんだよ!」と言った。


「そんな訳だから、家を買え。もう不動産屋も呼んである」


「いや、住まない家を買っても…」


 アレンはロイを睨んだ。


「住めばいいだろう? 別に毎日じゃなくても、週1でも住めば。大体迷惑なんだよ! 人目も気にせずイチャイチャしやがって! そういうのは、家でやれ!」


 イチャイチャ!?


 ミコトのショックをよそに、キダンとリントは先程より大きく頷いている。


 ミコトは膝に乗っていることが急に恥ずかしくなり、降りようとした。

 すると、ロイはミコトをギュッと抱きしめた。


「そういう事なら、買います」


 どういう事なの?


 アレンは「よし!」と頷いた。


「それでだ、このロイの金の管理も、ミコトに任せていいか? ミコトは自分の支給分は全て護衛雇用に使用しているんだ。今回のような妻同士の交流にはいろいろ準備が必要なんだよ。お前が買ってやれ」


 え!? 大金の管理?


 ロイは頷いて通帳をアレンから受け取ると、ミコトに差し出した。


「ミコト、好きに使っていいよ」


 好きに使っていいとか言っちゃったよ!


 ミコトは首を横にぶんぶん振った。


「無理!」


「無理じゃないだろう? 騎士団の決算報告書も政務棟の事務官は褒めていたぞ。計算も早いしな」


 アレンは褒めてくれたが、それは違う。


 足りないお金を何とかやりくりすることは出来るが、ありすぎるお金をうまく使うことは出来ないのだ。

 経済の知識はないのだ。


 どう言えばいいのか。


 ミコトはリントを見た。


「リント、助けて! 私の出来る管理は大金には通用しないの!」


 リントは話を振られて、ニヤッと笑った。


「別にいいんじゃない? ロイさんのお金で豪遊でもすれば?」


 ごーゆう?


 豪遊してもいいのか?


 ずっとセイラとマリーと行きたかった、町のケーキのお店で食べ放題とか、そんな事をロイのお金でやっていいのだろうか。


 それはちょっと財布的にもお腹的にもおいしい…?


「ミコトちゃん、何する気なの?」


 ミコトの顔色が変わった事に気付いて、キダンはニヤニヤしながら聞いてくる。


「ケーキの食べ放題…」

「ぶふー!」


 キダンは思い切り、吹き出す。


「確かに、大金は、無理かも…」


 リントは肩を振るわせながら笑っている。


「ミコト、ケーキいっぱい食べていいよ」


 ロイは笑顔で言う。


 完全にバカにされている。


「まぁ、そういうことで、よろしくな。ミコト」


 アレンも苦笑している。


 ミコトは流れで通帳を受け取ってしまった。


 でも、確かに、リオの奥様に会う時の、服やメイクやおもてなしを無一文では出来ない。


 ロイに出してもらうしかない。


「それで、当日の護衛なんだが、ロイはダメだから、リントともう1人、小隊長以上の奴でやってくれ」


 アレンの言葉に、ロイは驚いた。


「え! 俺は何でダメなの?」


 アレンは溜息をつく。


「あのなぁ、奥様同士の交流の場に旦那がいたらダメなんだよ。リオもいないんだ」


 確かに、横で旦那様が聞いている女子会は女子会ではない。


「基本、国家特別人物やその妻の護衛は、騎士団長クラスがやるんだ。おそらく今回の見舞いの護衛には、第2の騎士団長が来る。こちらもそのクラスで当たらなくてはならない。だから、リントは必ずだ。あとは、小隊長以上で、品がある奴にしてくれ」


 リントは頭を抱える。


「品のある奴なんかいないですよ。まさかこっちに面倒な話がくるとは…」


 ミコトを笑った罰である。


 ミコトがふっと笑うと、リントは顔を上げてミコトを睨んだ。

 ミコトはサッと目を逸らす。

 今回の話は、別にミコトのせいではないのだ。


 コンコンとドアがノックされる。


「不動産を管理しております、デルタと申します」


 アレンは「来たな」と言って、ドアを開ける。


 歳は50歳くらいだろうか。少し小太りの男が入ってくる。


「あれっ? ハリーの?」


 ロイは声を出す。


「はい。ロイさんお久しぶりです。ご立派になられて…」


 膝にミコトを乗せている状態の騎士団長を立派と言えるなんて、大人である。


「ハリーのお父さんなんだよ」


 第2小隊の副小隊長のハリーは、ロイの同期だ。


 ミコトとリントは会釈をする。


 ロイはミコトを抱えたまま立ち上がる。


「今回は、ハリーにも怪我を負わせてしまってすみませんでした」


 ロイは頭を下げる。


 デルタは両手を前に出して横に振る。


「いいえ、いいえ。息子の怪我はとても軽いものでした。それより、奥様をお守り出来なかった事を息子は悔やんでおりました。大変申し訳ございませんと」


 そんな事、全然いいのに。

 ミコトの勝手な行動がいけないのだ。


「不動産の管理をやってるんですね。知りませんでした」


 ロイの言葉に、デルタは苦笑した。


「息子が後を継ぎませんので困っていますよ。そうそう、新居でしたね。いくつか、候補がございまして、早速見に行きませんか?」


 アレンは頷く。


「行ってこい。キダンも行ってアドバイスしてこい。コイツは各国の国家特別人物の家を知っているからな」


 キダンはそれでここにいたのか。

 キダンのアドバイスは当てになるのだろうか。


「ちょっと2人とも信用してないよね?」


 ミコトとロイの疑いの目に、キダンは不満そうに言った。

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