51.アリアンの秘密
「順を追って説明すると…」
代表室内の小部屋で、アレンがロイに話した内容は、次の通りだった。
300年以上前に、魔物討伐のため、神から特別な力を授けられた人間が7人いた。
魔物は討伐したが、特別な人間7人は戦争を始めてしまった。
罪の無い人々を巻き込んで殺し、大地を焼き尽くし、エラルダの人口が100人以下になるまで、戦争は続いた。
戦争が終わった時に、残っていたのは、特別な人間の1人であるアリアンと、普通の人々100人だった。
アリアンと残った者たちは、エラルダの復興を試み、アリアンの家系の者は魔物を倒し続け、人々を守った。
その功績が認められたからなのか、約200年前、聖女がアリアンの前に現れた。
神の声を聞いたという大神官によると、聖女は10年毎に1人召喚されるという。
それから5回、聖女は召喚されたが、全員、アリアンのいる土地に召喚された。
アリアンは、自分の治める国を第1エラルダ国とし、聖女のための教会を建てた。
「ここまで、分かったか?」
アレンがロイに尋ねると、ロイはかろうじて、首を縦に振った。
「えーと、つまり、聖女は第1エラルダの教会に召喚される訳じゃなくて、アリアン? つまり、俺のいる土地に召喚されるってことですか?」
アレンは心底ホッとした。
ロイが何とか理解してくれたのだ。
ロイは腕を組んで、天井を見た。
「それなら、俺を殺す意味が、分からないんですけど…」
アレンも頷いた。
「ここからは、憶測なんだが、もしアリアンがいなくなったら、聖女はこの世界で一番強い人間のいる土地に召喚されるという可能性があるんだ。聖女は守られるべき存在だからな」
ロイは首を捻る。
一番強いとは?
「リント?」
「いや、この国だけで考えるな。実は第2に、凄腕の剣士がいるらしいんだ。第2の騎士団の騎士団長をやっている、ソマイという男だ。年は25歳で、ロイと同じだな」
「へえ。戦ってみたいですね」
アレンは苦笑した。
「先日の結婚式にも来ていたらしいぞ? リオの護衛で。披露宴にはいなかったな。別の団員が護衛をしていた」
ロイは分かった! という顔した。
「俺がいなくなったら、その男のいる土地に聖女が召喚されるかもってことか!」
アレンは喜んだ。
「ロイにしては、冴えている! その通りだ!」
あまり褒められた気がしないロイは、首を傾げた。
「いや、騎士にしては、せこくないですか? ミコトを狙ってないで、正々堂々と俺と勝負すればいいのに」
アレンは首を横に振った。
「せこいのは、リオなんだよ。ソマイは、やたら正義感が強く、部下にも慕われている、色男らしいぞ」
「うっ! 耳が痛い!」
最近のロイは、不在が多い上に、ミコトを放っておいた疑惑で、慕われているとは言い難いのだ。
「まあ、そんな訳で、リオはアリアンの者が愛する女だけを狙ってるんだよ。戦争をするつもりはないのさ」
そこで女性を狙うのが、本当に許せないのだが。
「リオに分かるんですかね? 俺がミコトを、その、愛してる? って」
ロイはさすがに少し言い淀む。
アレンは真面目な表情になった。
「リオの判断基準は分からないんだが、実は、お前になら、本当に愛しているか、判別できなくもないんだ」
ロイは驚いた。
判別とか、そういう問題なのかと。
「アリアンの者は、最強すぎるからな。一つだけ弱点があるんだよ」
アレンの言葉にロイは頷いた。
「あれですよね。思いの繋がりのある女性が亡くなると、死んでしまうっていう…」
アレンはロイを指差した。
「セタは生きている」
ロイは表情を曇らせた。
「そうですけど、でも…」
ロイは、泣き崩れ、心がない状態のセタを思い出した。
あの状態を、生きていると言っていいのだろうか。
アレンはロイを見て、声をひそめた。
「グレンさんも、セタも、お前も、ハッキリとは教えてくれないが、お前の家系は、病気にもならないし、怪我の治りが早いのではないか?」
ロイは、ハッとした表情をしたが、すぐに首を捻った。
「病気は、確かになった事ないですね。そういえば、酒にも酔わないです。怪我の治りは、怪我しないし、人と比べた事がないから分からないです」
アレンは予想通りという顔をした。
「グレンさんが自害した時、そのナイフを握っていたのは、2番目の奥方だったんだ。あ、奥方がグレンさんを殺したんじゃないぞ? グレンさんが、亡くなった奥方にナイフを握らせて自害したんだ」
ロイは父親に会った事がない。
このグレンの自害は、ロイが2歳の時の事で、記憶もない。
なので、この話を聞いても、あまり感傷的にもならない。
「わざわざ? ですか?」
アレンは頷く。
「これも憶測だが、アリアン家は、怪我の治りが早いため、自害できないのではないかと。そしてアリアンの弱点は、愛する者のみという事だ。愛する者に刺されたら、治りが遅い、もしくは、人並み、あるいは、治らない? なのではないかと」
ロイは愕然とした。
そんな事、考えた事もなかった。
「もちろん、憶測にすぎないし、ロイ自身に関わる重大な事だから、検証したとしても、報告する必要は全くない。むしろ、このまま忘れてくれて構わない。ただ、判別したいなら、くらいだな」
アレンはロイの肩を叩いた。
「大体、ミコトがお前を傷つける訳ないだろう?」
ロイは苦笑した。
「でも、ミコトは試合大好きだからなぁ。いつか、試合中にやられるかも…」
ロイはふと考えた。
さっき付けてもらった、キスマークは、怪我に入るだろうか、と。
「ロイ、セタに会いに行ったりは、しないよな…」
アレンはとても言いにくそうに、言った。
「あ、はい。そう、ですね…」
ロイも答えにくそうに、答えた。
5年も経ったのに、セタを思い出すと、辛い。
会いに行って、ロイの事を覚えていなかったらと思うと、勇気も出ない。
「だよな。すまん! そうだ、ミコトが待ちくたびれてしまうな」
「ああ、ミコトなら、寝てますよ」
アレンがドアを開けると、ロイの言った通り、ミコトは、ソファでスヤスヤと眠っている。
外を見ると、すっかり暗くなっている。
「午前中に来いって、こういう意味だったんですね」
ロイの呟きに、アレンは「そうだよ!」と言った。




