50.代表室にて
政務棟の代表室にアレンとロイとミコトはいた。
「遅かったな、ロイ。午前中に来いって言ったろう?」
アレンはそう言うと、代表室にある応接セットの黒いソファに腰掛けるよう促した。
「すみません。さっき思い出したんです」
どうして素直に言っちゃうのだろう。
「お前の頭、忘れすぎなんだよ!」
アレンは案の定怒りながらソファに座る。
ロイもソファに座り、ミコトを膝に乗せた。
アレンの前でも、膝なのか。
「ロイ、あの、隣に座りたいです」
ロイは首を横に振る。
「ミコトは怪我してる事を忘れて立ち上がるから、ダメです」
そうだけど。
ミコトはチラッとアレンを見た。
アレンなら、ロイを説得してくれるかもしれない。
アレンは溜息をついた。
「キダンから聞いた通りなんだな。お前がミコトから離れないって。まぁいいわ。呼び出したのはな…」
普通に話が始まってしまった。
「前回の襲撃の件で、第3から賠償金が入ってきてな、騎士団からも請求をして欲しいから、近日中に書類を…」
おお! タイムリー!
「書類、あります!」
ミコトは立ち上がろうとして、ロイに抑えられる。
「…すみません、立ちません」
ロイは頷くと、カバンから書類を出して、応接セットのローテーブルに置いた。
3週間前の襲撃に対する騎士団からの賠償金請求と、ミコトからの賠償金請求、診断書、ついでに一昨日の襲撃分も3枚、ここで出す必要はなかったが、国家特別人物の妻の金貨30枚の申請書を前月分と今月分の2枚だ。
アレンはそれを1枚ずつ確認をして、驚いた顔をした。
「こんな、いつ作成したんだよ…」
「ミコトが、さっき作成しました」
ロイの回答に、アレンは「は?」と言った。
「いや、まあ、そうか。えーと、つまり、ミコトは賠償金で騎士団から護衛を雇うってことだな」
さすがアレンである。
察しが良い。
「はい。国家特別人物の妻の支給分も全部護衛に充てたいんです」
ミコトは申請書を指差した。
アレンは腕を組んで、ソファにもたれた。
「いいのか? 他国の国家特別人物の妻は、服やアクセサリーやメイクに使って、自分を着飾ってるんだぞ?」
そうなのか。
ミコトはキョトンとした後、ハッとなった。
いや、そうなんだ!
国家特別人物の妻は美人限定だった!
この金貨30枚は、美人でいるための資金だったのだ。
今回、ウミノとネルにヘアメイクをしてもらって分かったが、綺麗はある程度作れるものである。
このままだと、ロイに恥をかかせてしまう!?
「そ、それは、自分のお給料で、精一杯頑張りたいと…」
ミコトはしどろもどろに答える。
でも世の中の女性は、みんなそうやって努力しているのだ。
働いて、綺麗になる!
「いっぱい働いて、善処します!」
ミコトの宣言に、アレンとロイは首を傾げながらも、頷いた。
アレンはゴホンと咳払いをすると、ロイに合図した。
どうやら、内緒の話のようだ。
「私、ここで待ってます」
「立ったらダメだよ」
ロイはミコトを静かに膝の上からソファに下ろす。
アレンとロイは、代表室の中にあるドアを開けて入っていった。
代表室には、続きの部屋があるようだ。
ミコトは、ハァと息をついた。
窓の外を見ると、日が傾きかけている。
書類を作成するのに、結構時間がかかってしまった。
「何なんだ、ミコトは! あの書類の量と質なら、政務棟の事務官でも3日はかかるぞ!」
代表室の続きの部屋に入るなり、アレンは言った。
続きの部屋は簡易的な会議室で、4人用の机と椅子が置いてある。
「そうなんですか? 俺だったら、一生かかっても出来ないです」
ロイは、椅子に腰掛けながら言う。
「お前はな!」
アレンはロイを睨むと、椅子に腰掛けた。
「はあ、キダンが執着する意味が分かったよ…」
アレンは溜息混じりに言う。
「キダンさん、ミコトを臨時諜報員にしたいみたいですね」
ロイは苦笑した。
「いや、もう、キダンはいいんだよ。放っておこう。第2だよ! 第2のリオの奥様がな、ミコトに会いたいんだってさ!」
アレンはそう言うと、第2からの手紙をロイに差し出した。
「罠ですね」
ロイは手紙を読むこともなく言う。
アレンは頷いた。
「とりあえず、怪我があるからな。それで引き伸ばそうとは思っている。だが、会わない訳にはいかない。こっちが警戒していることを、悟られたくない」
「もう、やっちゃいましょうか」
ロイはあっさり言い、アレンは青ざめた。
「ホント、それだけは、やめて…」
「俺、許せないんです。ミコトはあの襲撃で、死ぬ覚悟までしていたんですよ? 国家間の関係を保つ必要あるんですか? ミコトを殺して俺を殺したら、攻め入って来るんじゃないですか?」
ロイの冷たい目に、アレンは頭を抱えた。
「キダンはそう言ったのかもしれないが、攻め入っては来ないんだ。リオは戦争をしたい訳じゃないんだ」
ロイもそれは分かっている。
1ヶ月、リオに張り付いていたのだ。
戦争準備をしていないことくらい理解している。
「リオは聖女の召喚される国が、欲しいんだよ。驚くほど執着しているんだ」
「じゃあ、国を交換しましょうか」
ロイの交換という言葉に、アレンは「そうじゃない!」と言った。
「キダンから少しは聞いたんだろう? アリアン家なんだよ。全ては、300年前に残されたお前の家系なんだ!」
ロイは呆然とした。
何を言われているのか、全く分からなかった。




