5.聖女の護衛
第1エラルダ国 中央政務棟の中にある会議室。
時はミコトとセイラがエラルダに転移してくる少し前に遡る。
この会議室では、聖女の護衛についての話し合いを、第1エラルダ国代表と騎士団長、副騎士団長、神官長の4人でしているところなのだが…。
「だから、俺は聖女の護衛は辞退しますって言ってますよね、さっきから」
第1エラルダの副騎士団長であるロイは、会議室の机を指でコツコツと叩いた。
会議室にいる他3人は交互に顔を見合わせて、今日何度目かの溜息をついた。
「代々聖女の護衛は騎士団で一番強い者、もしくは副騎士団長と決まっているのは知っているだろう?」
騎士団長であるカイルは、たしなめる様に言った。
カイルは騎士団長になって30年の騎士団最年長の60歳だ。
長身で体格も良いが、元々茶髪だった髪の殆どは白髪になっている。
本当ならもう引退している歳で、今現在騎士団では、副騎士団長のロイが一番強い者なのだ。
「そんな決まりは変えればいいじゃないですか。それに、聖女を害する者なんていないんだから、護衛なんて誰でもいいし、何なら日替わりでもいいと思います」
ロイの言葉に、代表のアレンは「聖女というのはな」と話し始めた。
「このエラルダ全体で最も礼を尽くしてお迎えする方なんだよ。300年前の悲劇を繰り返さないためにもな。それに、歴代聖女は他人をとても怖がっている方が多かった。今にも倒れてしまいそうな可憐な方ばかりだったじゃないか。それなのに護衛を適当に決めたり毎回変えるのは如何なものかと…」
うんうん、とカイルと神官長のゼノマは大きく頷く。
アレンとゼノマとカイルは同年代である。
アレンは長身だが細身、ゼノマは中肉中背で、2人ともカイルと同じく白髪混じりである。
20歳のロイには、3人の考え方は、古く固執してしまっているように思えてならない。
「それなら、二番手のリントはどうですか…」
ロイが3つ下の後輩であるリントの名前を出したところで、ゼノマは口を開いた。
「やはり、セタのことがあったから…」
「セタ兄は関係ない!」
ロイはゼノマを睨みつける。
セタというのは、ロイの5歳上の異母兄だ。
一緒に暮らしてはいなかったが、セタとロイは仲が良かった。
前の聖女の護衛は、当時副騎士団長になったばかりのセタであった。
セタは本当に優秀で、15歳にして聖女の護衛を任されたのだ。
カイルはまた溜息をついた。
「当時のセタが聖女の護衛をやるのは若すぎた。まさか、あんなことになるとは…。でもお前はもう20歳なんだから、さすがに…」
ロイは今度はカイルを睨みつける。
「どう解釈してくれてもいいけどさ。俺は北の大地の魔物討伐に行きたいんだよ」
ロイの態度に、カイルは眉をひそめた。
「いい加減にしないか、ロイ! 聖女が祈れば魔物はかなり弱まるんだ。わざわざ副騎士団長のお前が北の大地に行くほどではない!」
カイルの低い重い声が会議室に響いた。
この感じはかなり怒っている時のカイルである。
ロイが仕方なく黙った時だった。
ドンドンドン!
会議室のドアを焦った様子で叩く音が聞こえた。
「騒々しいな。入っていいぞ」
アレンが言うと同時に、ドアが勢いよく開いて、かなり慌てた様子の白いローブを着た神官が入ってきた。
「会議中申し訳ありません。先程聖女が召喚されまして…!」
ロイ以外の3人はガタッと席を立った。
「本当か! 予定より早いが、朗報だな!」
アレンの言葉にゼノマは「本当に!」と頷いた。
喜ぶ代表や神官長の言葉を遮るかの勢いで、白ローブの神官は叫んだ。
「とにかく来て頂けませんか!? 今度の聖女は護衛を連れてきているんです!」
「護衛!?」
ロイも驚いて席を立つ。
「はい! 少年と少女、2人で転移してきたんです!」
薄暗い石造りの教会に、先程慌てて出て行った白ローブの人と男性4人が入ってきた。
(たぶん、この国の偉い人たちだ)
ミコトは少し身構えた。
セイラはというと、相変わらず熟睡している。
よくこの状況と固い石の上で寝られるものだ。
「本当に2人…」
アレンはそうつぶやいた後に、ミコトに向き直り跪いた。
「私は第1エラルダ国代表のアレンと申します。聖女様と護衛の方で間違いはないでしょうか」
ミコトは、緊張なのか恥ずかしさなのかわからないが、カァッと顔が熱くなった。
すごく偉い人みたいな扱い!
私たち本当はただの子どもなのに…。
「は、はいっ! こっちの寝ている子が聖女のセイラで、私が護衛のミコトです!」
この雰囲気では、とても聖女のオマケとは言えない。
「ミコト様、大変失礼ではあるのですが、聖女様を起こしていただくわけにはまいりませんか」
ミコト様って、オマケなのに何だか申し訳なさすぎる!
「そ、そうですよね! セイラ起きて、セイラってば!」
セイラは朝がとても弱い。
声かけや少しのゆすりで起きる訳がない。
「おーきーてーっ!」
ミコトはセイラの顔を両手でペチペチと叩く。
途端に、まわりがザワついた。
「たかが護衛が聖女様になんたる事を…」
あれ、これ、聖女様に酷い事してるって思われてる?
「あの、私とセイラはイトコなんです。一緒に暮らしているので、家族なんです。だから、起こす時はいつもこうしてるっていうか…」
さらにまわりがザワつく。
ヤバイ。
いつもいじめてるって思われたかもしれない。
もしかしたら処刑…!?
「あのさ、いい大人が大勢で子どもをいじめるなよ。兄弟同然ってことなんだよ、2人は」
ミコトのおびえた様子を見て、ロイはアレンとミコトの間に入った。
ロイは、この、関係のない大人が、兄弟間に勝手に入ってくる感じがとても嫌だと思っている。
子どもの時のセタとロイの間にも、関係のない大人がたくさんいた。
「ロイ! お前はまたっ…」
カイルがロイを叱ろうとした時だった。
「うぅーん…。あれ、ミコちゃん、おはよー」
セイラが目を覚ました途端、まわりにいた大人全員が、ザザーッと跪いた。
うわ、すごい!
なんか、セイラがすごいよ!
「お、おはよ、セイラ。あの今の状況わかるかな?」
神様が聖女となる女性には、説明した上で転移させてるって言っていた。
もしかしたら、先程神様から事情をきいただけのミコトより、セイラの方がいろいろ理解しているかもしれない。
「ん〜?」
セイラはまわりを見回した。
石造りの教会に、跪いているたくさんの大人たち…。
「ああ! 聖女?」
「そう! そうなんだよ!」
ミコトは少しホッとした。
「聖女様、この度はエラルダに来ていただき、誠にありがとうございます。早速ですが、質問をしてもよろしいでしょうか」
先程の代表のアレンがセイラに話しかける。
「いいよー」
セイラは軽く答える。
ミコトは内心ハラハラしつつ、この状態でもオロオロしないセイラって、実は大物かもと思っていた。
「ミコト様は聖女様の護衛ということでよかったでしょうか?」
どうやらミコトの存在は疑われてるらしい。
確かに本当はオマケだけども。
護衛の話はセイラと打ち合わせしていない。
セイラ、護衛だって言って!
ミコトは願う様にセイラを見つめた。
「ミコちゃんは私の大切な人だよ。護衛は…、うん、ミコちゃんに護衛してほしい。あと、ミコちゃんに酷い事言う奴は、絶対に許さない」
セイラは睨む様な冷たい目をアレンに向けた。
美少女が睨むとすごく怖い。
「承知いたしました!」
アレンとその他の大人たちは、さらに頭を下げた。
その中でロイだけが、小さく「やった」と呟いていた。




