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異世界恋護奇譚 〜聖女のオマケ転移、狙われ少女の自立と結婚〜  作者: 三多来定


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48/90

48.それぞれの言い分②

「不本意だけど、次は、お父さん」


 マリーは嫌そうな顔でキダンを促す。


「不本意って! 僕はミコトちゃんを臨時諜報員に勧誘に来たんだよ。癖で2階からコッソリね! 途中でロイ君が来て、騎士団も忙しいって断られていたところで、皆が帰って来たの」


 癖でコッソリ?


 全員は呆れた表情になる。


「でも僕は諦めないよ! ミコトちゃんは、難関と言われている騎士養成所を実技、座学ともトップ卒所、その後は優秀なのに、何故か地味な内勤。もったいないよ!」


「あの、だから、座学は10位ですって…」


 褒めてくれるのは嬉しいが、過大評価は困る。


 キダンはニヤリと笑う。


「それ、何でそうしたのかな。リント君」


「え?」


 全員、リントを見る。


 リントは、ハァーと息を吐いた。


「それ、私が頼んだの」


 セイラはそう言うと、ベッドから立ち上がった。


 今度は全員がセイラを見る。


「ミコちゃんに目立って欲しくなくて、私がリントに頼んだの」


 ミコトはセイラの言葉で、また、分かってしまった。


 セイラは知っているんだ。


 ミコトが世界を大きく変えることを禁止されている事を。


 でも、この場にいる皆には、それは分からない。


「ごめん、ミコト。聖女から頼まれたのもあるんだけど、カイルさんと相談して、そうしようって決めたのは、俺なんだ」


 リントは気まずそうに、ミコトに頭を下げた。


「え、何で?」


 ロイはリントを見る。


「いや、だから、目立つと良くないっていうか…」

「目立つと良くない?」


 首を傾げるロイをリントは睨んだ。


「だから、ミコトは女の子なんですよ。ダブルトップ卒所なんて目立ってしまったら、目をつけられるかもしれないでしょう? 騎士団は全員男です。俺の目の届かないところで、何かあったらどうするんですか! だから成績詐称してカイルさんの事務補佐にしたんですよ!」


 心なしか、リントの顔が赤い。


「リント、実は優しいんだな…」


 ロイがリントを褒めると、リントは両腕を組んだ。


「ロイさんは知らないと思いますけど、ダブルトップ卒所は歴代でセタさんしかいなかったんですよ! 目立つなんてもんじゃないんです!」


「え!? セタ兄と一緒! すごいね、ミコト!」


 ミコトは、ロイに褒められるとすごく嬉しいのだ。


 満面の笑みで頷く。


「うん! 結構頑張ったの!」


 その様子を見たキダンは、怪訝な顔をした。


「いやいや、なんかちょっといい話風になってるけどさぁ。結局それって、リント君自身が面倒にならない為にやったって事でしょ。それでいいの? ミコトちゃんは?」


 なるほど。

 外側から見ると、そういう風にとられてしまうのか。


「私、セイラの言う通り、本当に目立ちたくなかったんです。それに、リントは私を養成所に入れた後、しょっちゅう様子を見に来ました。実は、騎士団員は、講師を依頼されない限り、養成所には来ないんですよ。だから本当に心配してくれてたんだと思います」


 ミコトはキダンに言った後、リントを見た。

 リントは何故か呆れた表情をしている。


「見に行くたびに、ミコトにやられた男子たちに泣きつかれたけどね…」


 それでは、ミコトがいじめたみたいである。

 ちゃんと練習試合形式でやっつけているから、問題はないはずだ。


「目立ちたくないなら、何でそんなに努力したの? そもそも、ロイ君の妻ってだけで目立ってるよ?」


 キダンはまだ疑問が抜けないようだ。

 キダンには、嘘は通じないだろう。


「ロイの妻で目立つのは、ロイがすごいのであって、私じゃないから、いいんです。努力したのは、別に一番が欲しかった訳じゃなくて、その…、褒められたくて…」


 ミコトは下を向いた。


 隣にいたマリーはふふっと笑う。


「ロイに褒められたかっただけなのよね」


 ミコトは下を向いたまま、頷いた。


 実際、実技はその思いだけで頑張っていた。

 座学は、日本の勉強より簡単だったから、あまり苦にならなかった。

 ただ、それだけなのだ。


 チラッとロイを見ると、ロイも下を向いているようだ。


「もう、分かったよ! リント君にはいろいろ言いたい事があったんだけど、いい奴みたいだし、今日はもういいや!」


 キダンは天井を仰いで、手をヒラヒラとさせた。

 

 どうやら、マリーと仲良くするリントをいじめるつもりだったらしい。





「じゃあ次は、リント」


 マリーは目線をリントに向ける。

 リントは頷いた。


「単刀直入に言いますが、ミコトを臨時諜報員に勧誘するのは、今はやめて下さい」


 キダンは真顔になる。


「何でかな? 臨時員制度は、本人の意思が重宝される制度で、臨時で雇用している側には口出し出来ないはずだよね」


 リントも真顔で頷く。


「承知しています。だけど、騎士団の今年の決算報告書と来年の予算案が、出来ていないんです。」


 キダンは驚いた表情をした。


 ミコトも顔を上げた。


「度重なる襲撃で今年の決算報告書が大幅に変更しました。どう見繕っても赤字ですが、何とか体裁を整えて提出したいんです。そこで、ミコトです」


 キダンはゴクリと唾を飲む。


「何故、ミコトちゃん…?」


「ここ3年くらい、私が作成してるんですよ。決算書も予算案も」


 ミコトは横から口を出した。

 リントは頷く。


「俺では、もう、国債しか、思いつかないんだ」


 ミコトは首を横に振った。


「国債は返済期限までに返す目処が立たないよ。それは本当に最後の手段にしたい。明日考えてみる」


「よろしく」


 リントはキダンを見た。


「そういう訳なんです。本当に、引き抜くのやめてください」


 キダンは「えー?」と叫んだ。


「事務員は? 雇ってないの? 騎士団は?」


 ミコトはふっと笑った。


「キダンさん、騎士団はギリギリなんですよ。他部門より怪我も備品も桁違いに多いんです。食堂の食費もすごいんです。夜間勤務手当もバカになりません。ぶっちゃけ事務員を雇う余裕がありません!」


 ミコトは、自身満々に言い切った。

 女性の憧れの的の騎士団の内情は、こんなものなのだ。

 ミコトはさらに続ける。


「予算を増やす算段を昨年から取り入れているんです! それを今年の予算案にも組み込まないとといけません! 私、決算報告書と予算案を作成します!」


「良く言った! 移動にはロイさんを使っていいから、本当によろしく!」


 リントはそう言うと、ロイにも「よろしくお願いします!」と言った。


「えーと、俺は、ミコトの護衛と移動でいいの? ちょっと2人の話が分からなくて…」


 騎士団の予算の話が分からない騎士団長である。


「ロイさんは、3日後の決算報告会議に書類を持って出て下さい。ミコトを事務官として付けますので」


「ああ、それなら、了解」


 リントは、フーと息をついた。

 これで、ミコトの護衛問題と最難関の決算報告は何とかなりそうだ。


 キダンはリントをジロリと睨む。

 リントもキダンを睨み返す。


 何をやっているんだかと、マリーは笑ってしまっていた。





 ミコトは特に話すことはなく、マリーは一言だけ言いたいと言って、キダンの前に立った。


「今後、お父さんは、聖女棟に立ち入り禁止です。今日も、これで出て行って下さい!」


「マリー…」


 泣きそうなキダンをマリーは睨む。


 この親子の溝は深そうだ。


 ふと横を見ると、セイラはいつの間にか、横になってスヤスヤ寝ている。

 きっと話が面白くなかったのだろう。


「俺らも行きましょうか」


 リントの言葉に、ロイは頷いた。


「リント、お父さん連行して」


 リントは頷くと、キダンの腕を持った。


「おとーさん、行きましょうか」


「リント君のお父さんじゃないから! そう呼ぶの本当にやめて!」


 なんか、キダンとリントは、結構気が合うのでは…とミコトが思っていると、ロイがミコトの前にきて、しゃがんだ。


「明日朝、迎えにくるから、待っていて」


「うん…んっ!」


 ロイはミコトにキスをする。


 みんないるのに!


「じゃあ」


 ミコトは頷いた。


 ロイは歩いていって、キダンをひょいと担ぐ。

 ロイにかかると、キダンでも子ども扱いである。


「ちょっと! ロイ君!」

「帰りますよ。キダンさん」

「マリー、また」


 マリーは3人を見送ってドアを閉めた。


 なんか、大変な日だった…?


 それにしても、ロイは、人がいても、こういう事できちゃうんだな。


 マリーはミコトの隣に来て座る。


「仲がいいのね」


 マリーはミコトを見て、微笑んでいる。


 やっぱり、見られていた!

 ミコトは赤くなって下を向いた。


「マ、マリーは、リントと、その…」

「うん。付き合ってるの」


 やっぱり!

 でも、そうか。

 リント、良かったなぁ。


「ちょっと、ミコトたちが羨ましくなっちゃってね」


 ミコトは顔を上げた。


「私は、マリーが羨ましかったよ。一途に思われていて、いいなぁって」


 ミコトとマリーは顔を見合わせて笑った。


 

 ずっと、優しいみんなと一緒にいたい、とミコトは切に思うのだった。

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