45.臨時員制度
結婚式から一夜明け、ロイは通常通り、騎士団に出勤していた。
昨晩は尋問の後、アレンとキダンと話し込んでしまった。
結局ロイは、キダンの闇組織調査にも協力する事にした。
ケイというリオの側近の男の件で、第2を糾弾出来ないかという話もしたが、ケイは実質、第3の人物ということになっているらしく、ケイの名前を出しても、リオには逃げられる可能性が大きいとのことだった。
本当に抜け目のないヤツである。
とりあえずは、ミコトが斬った襲撃犯2人の回復を待つ事になり、第2の動きは、キダンの部下が逐一教えてくれる事になった。
「ロイさん、ロイさんってば!」
顔を上げると、リントがいつのまにか騎士団長室に入って来ている。
「さすがに疲れてますか?」
心配そうなリントに、ロイは笑った。
「疲れてはいないけど、考える事が多くて」
リントも笑って「ですね」と言った。
騎士団は、ニアとソル、第2小隊が全員負傷だ。
ミコトの護衛もまだ続けなくてはいけない。
はっきり言って、人手不足である。
「ミコト、騎士団に来れませんか? 事務仕事だけでもやって欲しいし、ロイさんがいれば護衛要らないから、その方が効率がいいので」
確かに、書類が積み上がっている。
リントの提案に、ロイは頷いた。
「今日様子を見に行くから、その事を言ってみるよ」
「お願いします」
リントは騎士団長室を出ていこうとするので、ロイは「待った!」と引き留めた。
「あのさ、臨時員制度って、何?」
リントは呆れた顔をする。
「何で知らないんですか? 養成所卒所してますよね?」
昨夜、アレンとキダンは、臨時員制度について教えてくれなかったのだ。
おそらく自分で調べろとでも言いたいのだろう。
「卒所はしているけど、いろいろ覚えてないんだよ」
ロイにすがるような目を向けられて、リントは溜息をついた。
「公的な職務に就いていても、もう一つ公的に副業が出来る制度ですよ。多方面に才がある人を有効に使おうという……あ、分かってませんよね?」
ロイは真顔で頷いた。
「えーと、騎士団でいったら、シーマさんですね。騎士団員ですけど、医師団の臨時団員です」
「そうなんだ!」
団長なのに、何故知らないのか。
リントは呆れながらも続けた。
「あと、コランさんも、隣町の臨時自警団員ですね。名前だけみたいですが」
ロイはふんふんと頷く。
「ミコトは騎士団では珍しい例で、臨時団員だけをやっています。臨時団員だけの場合、3つまで掛け持ち出来ますね。例えば、宿屋の掃除係と臨時騎士団員と臨時諜報員とか。まあ、あり得ない例ですけど」
ロイは右手を上げた。
「何でミコトは臨時団員なの?」
リントはうーんと腕を組んだ。
「女性の騎士団員が初めてで、採用枠がなかったんですよ。法律を変えるのが難しかったので、臨時員制度で採用したんです。ちょっとその頃には、ミコトに仕事を振っていたので…」
ロイは驚いた。
「ミコトは養成所にいた頃から、仕事してたの?」
リントは少し罰が悪そうにする。
「ロイさんが北の大地に行った後、やたら稽古してほしいって付きまとってきたので、面倒になって、養成所に放り込んだんですよ。ロイさんの妹だから、いじめるなって言って。そしたら、養成所の男たちを全員やっつけて、座学もトップで、俺にまた付きまとってきたんです」
「え、すご…」
「俺、ロイさんのせいで副団長代理で忙しかったんで、適当に断ってたら、俺の仕事を手伝ったら相手してもらえると思ったみたいで、養成所終わったら、仕事の手伝いにきて、を繰り返したら、いつの間にかって感じですね…」
ロイは呆然とした。
「なんか、リント、冷たいね」
「そっちですか? 5年帰って来なかった人に言われたくないですよ」
リントはロイを睨んだ。
「ミコトは、ずっと、ロイさんの帰りを待ってましたよ。強くなって、褒めてもらうんだって言って、誰よりも努力していました。報われたなら、良かったですよ」
リントの言葉に、ロイは「うん」と言って下を向いた。
「臨時員制度が分かったのなら、もう行きますね」
「待った!」
ロイは出ていこうとするリントを再び引き留めた。
「今度は何が分からないんですか!」
ロイは深緑の結び紐を出した。
「髪の結び方が分からない!」
「切って下さい! 結べないなら!」
「そういう訳にもいかなくて!」
リントは腰に帯剣していたナイフを出す。
「切ってあげます」
「いや、ホント、やめて…」
2人が言い合っていると、コンコンとドアがノックされた。
「シーマです」
「どうぞ」
ロイが答えると、リントはナイフを腰に戻した。
シーマはドアを開けて2人を見る。
「打ち合わせ中でしたか?」
「いいえ、全く」
リントはズバッと答える。
シーマは微笑んで、杖を2本差し出した。
「団長、ミコトさんのところに行かれるって言ってたので、補助杖を渡してもらってもいいですか?」
「ああ、はい。ありがとうございます」
ロイは補助杖を受け取って、シーマをじっと見た。
「あの、シーマさん、髪結べますか?」
シーマは「ああ!」と表情を明るくした。
「ミコトさん、喜んでましたからね。紐ありますか?」
シーマは結び紐を受け取ると、器用にロイの後ろ髪を結ぶ。
「このタイプの結び紐は、自分で結ぶのは難しいですよね。ミコトさんにやってもらうといいですよ。ご夫婦ですし」
「そっか。そうすればいいんですね」
ロイは照れ笑いをした。
シーマは騎士団長室を出ていき、リントは呆れたようにロイを見た。
「そう言ってくれれば、切らないですよ!」
リントの言葉にロイは少し驚いた。
「そうなんだ?」
「言っておきますが、騎士団員は殆どミコトの味方ですよ? 襲撃されても一途に団長を思っているのに、放っておかれる天涯孤独の少女って感じでね。俺はそこまでは思ってないですけど、ミコトとの信頼関係は必須ですよ」
そう言うと、リントは今度こそ騎士団長室を出て行った。
「なんか、ミコト、すごいなぁ…」
ロイは天井を見上げて呟いた。




