43.尋問
政務棟の尋問室の前に、警備の騎士団員2人と尋問部門の男性2人が立っている。
薄暗い廊下ではあるが、4人とも、顔が青ざめているのが分かる。
アレンは溜息をつき、ロイは騎士団員2人に「お疲れ様」と声をかけた。
「団長…」
第10小隊に所属する20歳の2人は、ロイを見ると、ホッと表情を緩めた。
「2人は今日はもう休んでいいよ。後は俺がやるから」
2人は了解と言い、会釈をすると、足早に去っていた。
「すみません。私たちではキダンさんを止められなくて…」
尋問部門の2人は、アレンとロイに頭を下げる。
2人とも、キダンと同年代に見える。
そもそも、尋問部門は、文官である。
一応騎士養成所を出たキダンを止められる訳がない。
騎士団員は各所の警備に交代でつくが、警備以外で手出し口出しは原則禁止である。
騎士団員の2人にも、どうしようもない。
「お二人とも、今日はもう休んで下さい。アレンさんと俺で大丈夫ですので」
尋問部門の2人は顔を見合わせる。
「調書なら、私が取るよ。尋問部門にいた事があるから分かる」
アレンの言葉に、2人は何回も会釈をして去っていった。
「すみません、調書の事考えていませんでした。アレンさん、尋問部門にいたんですね」
アレンはニヤリと笑った。
「お前が調書を知ってるなんて思っていない。それに俺は騎士以外は大体経験している。一応代表だからな」
「頼もしいですね」
ロイは笑うと、尋問室のドアを開けた。
簡易的な机と椅子があり、各種資料が収納されている本棚がある。
その奥にさらにドアがあり、そのドアを開けると、むあっと血の匂いがした。
キダンが虚ろな目で椅子に座り、コランに気絶させられたという襲撃犯の男が、手足を縛られた状態で床に転がされている。
襲撃犯の男は身体中血だらけで、意識はあるようだが、目の焦点が合っていない。
アレンはウッと口元を抑える。
ロイはキダンの肩に手を置いた。
「キダンさん、これは尋問ではなく、拷問です。拷問は第1の法律で禁止されています。もうやめましょう」
キダンは、ハハッと笑った。
「ロイ君に言われたくないなぁ。3人殺しちゃってるじゃん」
ロイは「はい」と答えた。
「でも後悔しています。簡単に殺すんじゃなかったって」
ロイの声に怒気がこもっていることに気づいて、キダンは息を吐いた。
「何それ、矛盾してるでしょ…」
「そうですね」
しばらく沈黙が続く。
「あーもう! 分かったよ! やめればいいんでしょ? ロイ君に敵う訳ないじゃん!」
キダンは手に持っていた鞭のような物を放り出した。
「ありがとうございます」
ロイは会釈をする。
アレンもハァと緊張を解いた。
「大体さ、何でロイ君はココにいるの? 今夜は初夜でしょ? ミコトちゃんのロリコン用メイク、気に入らなかった?」
キダンはいつもの調子でロイに言った。
ロイはハァーと溜息をついた。
「キダンさんの差し金ですか…」
この根回しは、計算なのか、天然なのか。
「ミコトは怪我人です。そういう事はしませんよ」
ロイの言葉に、後ろでアレンは「はあ?」と言った。
「お前、よく、そんな、さっき邪魔したとか言って…」
ロイは、この親子面倒だ…、と目を逸らした。
元々、怪我人であるミコトに、手を出す気なんて一切なかった。
ミコトの話も、恨み言か説教だと思っていた。
ミコトに嫌われても、絶対に守り抜く決心はしていたが、ミコトの話は予想外の感謝と告白だった。
あんな可愛いミコトに、ベッドの上で好きだと言われて、何もするな…なんて、無理である。
「そ、その話はいいでしょう! 今は、こっちです!」
ロイは襲撃犯の身体を起こして、背中をグッと押す。
襲撃犯はゴホゴホと咳き込んだ。
「キダンさん、おそらく何も言わなかったんですよね? 同じ質問をしてもらってもいいですか?」
キダンは真面目な表情になって、頷く。
「19年前、ルリという名前の女性を攫った奴らを知っているか?」
キダンはしゃがんで襲撃犯の男の目を見る。
男は何も言わない。
キダンはロイを見る。
「本当に知らないですね」
ロイがハッキリ言うと、襲撃犯の男はバッと振り向きロイを見た。
キダンは気にせず、質問を続ける。
「お前は闇組織『黒鳥』の一員か?」
やはり男は何も言わない。
「一員ですね」
ロイは、またハッキリと言う。
男はガタガタと震え出した。
「今回の襲撃は、第3エラルダ国の国家特別人物のサンドとその妻のライラに依頼されたのか?」
男は震えたまま、何も答えない。
「その2人もですが、だけじゃないですね…。キダンさん、名前あげていってください」
キダンは頷くと、第3の代表、その側近、そして第2の代表リオ、リオの側近の名前を次々と上げる。
リオの側近のケイの名前を上げたところでロイは頷いた。
「ケイですね。やっぱり第2も絡んでます」
「あ…う…」
襲撃犯の男は白目をむいて気絶した。
「あー、これ以上は無理ですね。日を改めてまたやりましょうか」
ロイは男を床に置く。
キダンとアレンは青ざめて顔を見合わせた。
「ロイ君の方が、拷問でしょう…」
キダンが呟くと、アレンは何度も頷いた。
ロイは少し考えて、キダンを見た。
「そういえば、何でキダンさんは尋問部員でもないのに、尋問してたんですか?」
キダンは驚いた。
「ええ? 今その質問? 僕は諜報部門に席を置いているけど、臨時尋問部員なんだよ! 臨時員制度、習ったでしょ?」
ロイは首を傾げた。
そういえば、ミコトも臨時団員だが、どんな制度なのだろうか。
「習いませんでした」
キダンとアレンは、「あーっ」と言って頭を抱えた。
この2人はよく似ていると、ロイは思った。




