40.結婚式
ミコトはロイにお姫様抱っこをされたまま、教会に入場した。
先程までセイラが歌っていたという教会は興奮に包まれていて、かなり遅れての入場と異例のお姫様抱っこにもかかわらず、暖かい雰囲気で2人は迎えられた。
並んで立たなくてはいけない場面では、ロイがミコトの腰に手を回して、地面から数センチ浮いている状態にしてくれた。
ゼノマの誓いの問いに、ロイとミコトは誓いますと答えて、神様の御前で正式に夫婦となった。
教会にはたくさんの来賓がいたが、ロイの家族はなく、ミコトの家族はセイラだけだ。
そんな中で、ロイとミコトは、偽装とはいえ、家族になったのだった。
お姫様抱っこで退場し、再び救護班に戻ってきた時には、ミコトの顔は貧血で青ざめていた。
「披露宴は、ミコトは出なくてもいいってアレンさんも言っていたから、ゆっくり休んでね」
「ごめんなさい…」
ロイはベッドに座ったミコトの頭を優しく撫でる。
情けない。
足を斬られた時に、かなり出血していたようだ。
ロイがシーマにお願いしますと告げて立ち去ろうとしたので、ミコトはロイの騎士服を慌てて掴んだ。
「ま、待って! あの、披露宴終わったら、また会える? ちょっと話したい事があって、時間は取らせないから、仕事に行く前に…」
ロイは少し驚いた顔をしたが、ミコトの方に戻ってきて、ミコトを抱きしめた。
「うん。もう遠方には行かないから、終わったら会いに行く」
ミコトは、ほっとした。
抱きしめるのは、ロイのクセなのかもしれない。
懇親会で初めて抱きしめられた時はかなりパニックになったが、大分慣れてきた。
ロイを見送った後、ウミノとネルは、ドレスから楽なワンピースにミコトを着替えさせた。
「ミコトさん、もう部屋に行かれます?」
「部屋?」
ネルの問いにミコトが聞き返すと、ウミノはミコトの肩に手を置いた。
「今夜は、初夜ですよ! もう、夜着もメイクも決まってます!」
「あっ!」
確かに、そんな流れときいている。
でも、ロイとはそういう結婚ではないので、この初夜とやらにロイは来ないと思っている。
そのため、ミコトの予定の中から初夜は自然と省かれていた。
「いいですよ、何もしなくて。ウミノさんもネルさんも、今日は大変だったので、休んで下さいね」
ミコトが笑顔で言うので、ウミノとネルは愕然とした。
「何言ってるんですか! ダメですよ!」
ネルは声を張り上げる。
「え、でも、ロイは来ませんよ?」
ミコトは首を捻った。
「さっき、会いに行くって、言ってましたよ!」
さっきのシーンは何だったんだとばかりにウミノは言う。
「そっか、2人はロイをよく知らないから。確かにここに会いに来てくれると思うけど、部屋には来ないんですよ、ロイは」
ミコトは当然という様に笑った。
「な、どういうことなんですか? シーマさん!」
ネルは先程から黙って隣にいたシーマを問い詰める。
シーマは困った表情をしながら、ミコトに言った。
「ミコトさん、団長は必ず行かせますから、部屋で待っていてはもらえませんか?」
ミコトはシーマには、10歳の頃から、かなりお世話になっている。
シーマの頼みを断るという選択肢がない。
「はい。わかりました」
結局、ミコトは車椅子に乗せられて、ウミノとネルと一緒に国立宿泊所の部屋まで移動したのだった。
ミコトは3時間程、眠っていたようだ。
起きると、ウミノとネルにお風呂に入れられ、身支度を整えられていた。
「初夜のメイクは、あどけない少女風なのに、ちょっと手を出したくなる感じでいきます!」
ウミノはメイク道具を天井にかざしながら、宣言した。
なんだろう、そのコンセプトは…。
「あの、大人っぽいメイクじゃないんですか?」
ミコトが不思議そうな顔をすると、ネルはミコトの髪をタオルドライしながら言った。
「あの、変なオジサン、えーと、キダンさん? が、旦那様はロリコンだから、そういう好みだって言ってたんですよ」
「ロリっ!?」
ミコトは驚きすぎて、椅子から落ちそうになった。
この世界にも、ロリコンあるんだ!
というか、ロイは、ミコトと結婚させられるせいで、ロリコン扱いなのか!
「ロイはロリコンじゃないよ! その情報キダンさんだよね? それ、絶対ないから!」
ミコトは手を横にぶんぶん振って、絶対ないを主張した。
ウミノとネルは顔を見合わせる。
「でも、私たちも、そうなんじゃないかと思っていて、試しにこのメイクでいくのもいいかと思います」
ウミノは明るく答える。
ミコトは頭を抱えた。
ロイはイケメンなのに、何故こんなイメージがついてしまうのか。
キダンは、何を考えているのか。
「大丈夫ですよ! 私たちに任せて下さい!」
ネルも明るく言う。
2人のこの明るさ。
もしかしたら、この世界のロリコンは、別にいいのかもしれない。
成人を15歳にしている世界なのだから。
それに、ロイの場合、ミコトがどんな風にメイクしようが、きっと反応は同じだ。
ミコトは諦めて、2人にお願いしますと言った。
披露宴会場で、リントは、シーマがキョロキョロしているのを見つけた。
「シーマさん! 何かありました?」
シーマはリントを見ると、安心したような顔をした。
「副団長、もう披露宴は終わったんですね。ちょっと団長を捜していたのですが…」
「ロイさんなら、ミコトの様子を見に行くって、さっき出て行きましたよ」
リントの言葉にシーマはしまったという顔をした。
「すれ違いましたか。ミコトさん、今救護班にはいないんですよ」
リントは笑った。
「大丈夫ですよ。ロイさんは、ミコトを見つけるのは得意なので…」
「え?」
今度はリントがしまったという顔をする。
「あー、他にも報告があるんじゃないですか? 団長代理でききますよ」
シーマは真顔になって、声を落とした。
「実はキダンさんが先程来ましてね、あ、副団長はキダンさんとは面識はないですかね」
リントも真顔になる。
「襲撃前に会いましたよ。諜報員のキダンさんですよね」
シーマは頷く。
「襲撃犯の特徴と生死をきかれました。一方的に知っているとも…。一応、団長にお伝えしておこうかと…」
リントは頭を下げた。
「ありがとうございます。ロイさんには俺から伝えます。アレンさんにも伝えておきますね」
シーマはリントを見て、心配そうな表情になる。
「副団長、お疲れですね。顔色があまり良くないです」
リントは溜息をついた。
「聖女の護衛が大変で…。急に披露宴に顔を出すと言ったり、帰ると言ったり、ロイさんの悪口言ったり…」
シーマは笑った。
「いつもはミコトさんがいますからね」
リントもハハッと笑う。
ただ、今回は聖女に感謝もしているが。
「ミコトさんと言えば…、余計なお世話なんですが、何と言うか、団長の事を全く信用していませんよね…」
シーマが真顔で言うので、リントは苦笑した。
「あー、それは、ロイさんが悪いでしょうね。ミコトは傷つかない様に、ロイさんへの期待を全部捨てているんですよ」
シーマはなるほど、と頷く。
「ただ、今回はそれが悪い方に出ました。ロイさんが助けに来るという信用があったら、ミコトはあんな無茶をしなかったんです」
シーマは首を傾げた。
「でも、助けに来るかどうかは、分からない状況でしたよね」
「ロイさんは、絶対にミコトを助けに行きますよ。どんな状況でも」
リントは真顔でシーマに言った。




