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異世界恋護奇譚 〜聖女のオマケ転移、狙われ少女の自立と結婚〜  作者: 三多来定


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38/50

38.救出

 国立宿泊所の新郎控室となっている従業員仮眠室で、ロイは立ち上がった。


「ミコトが、攫われた!」


 一言そう言うと、ロイは驚きの速さで部屋を飛び出して行った。


「ロイ! どうした!?」


 カイルが声をかけた時には、もうそこにロイはいなかった。


 床に寝そべっていたキダンは、カイルのズボンの裾を引っ張る。


「カイルさん! ミコトちゃんの事は、ロイ君だけでいいでしょう。聖女棟の様子を早く!」


「キダン! お前起きて…いや、わかった!」


 カイルは国立宿泊所の外に出て、各所の警備に当たっている騎士団員に声をかける。


「僕は父のところへ行きますね」


 走り去ろうとするキダンの肩を、カイルは掴んだ。


「キダン、お前…」


「ロイ君が、ミコトちゃんを嫌ってるとか、ありえませんよ? 僕から見たら、溺愛です」


 キダンはニヤリと笑うと、さっさと教会の方へ走って行った。


 カイルは両手で顔を覆った。


「俺はそっち方面、苦手なんだよ!」





 男たちに担がれながら、ミコトは何とか意識を保っていた。


「第3にすぐに引き渡さなくてもいいよなぁ」

「生きていればいいんだろ? 森の中の小屋でやるのはどうだ?」


 下衆な会話。


 少し前のミコトだったら、全然意味が分からなかっただろう。


 でも、ナラに教えてもらったから、分かってしまう。


 こんな奴らになんて、死んだ方がマシだ。


 眠気のせいか、今のミコトには「死」がとても身近なものに思える。


 そうだ。

 そんな目に遭うくらいなら、そっちを選ぼう。


 街外れに馬が用意されているようだ。


 馬に乗せられる前の今しかない。


 ミコトは眠気に最大限抗いながら、前の長身の男の首元に噛み付いた。


「イッテェ!」


 瞬間、体を思い切り捻る。


 バランスが崩れて、ミコトは地面に落ちた。


 頭はクラクラするが、這いつくばってでも逃げてやる!


 それで男たちが腹を立てて斬りつけてきたら、その剣に向かっていって、死んでやる!


「この女っ!」


 案の定、剣を抜くスラリとした音が聞こえる。


 次の瞬間、右ふくらはぎに熱い何かが走る。


 どうやら、足を斬られたらしい。


 幸か不幸か、眠気で、痛みが脳までまわってこない。


 大男がミコトの髪をガシッと掴んだ。


 その瞬間、3人の男たちは、ドサッと倒れた。


 これは、この魔法みたいな力は…。


「ロ…イ…」


「ミコト!!」


 ロイはミコトに駆け寄って抱き起こす。


 ああ、ロイが助けに来てくれた!


 でも、神様ひどいよ。


 さっきまで、すごく美人だったのに。


 ドレスは血と泥でグチャグチャだし、髪も掴まれたせいでボサボサだし、きっとメイクも落ちちゃっている。


 こんな再会、ひどすぎる。


「ミコト! ごめん! ミコト!」


 ロイはミコトを抱きしめる。


「ロ…イ、私…」


 いっぱい言う事考えていたのに。


「眠い…」


 ミコトの意識はそこで切れてしまった。



 本当にひどいよ。

 助けに来た旦那様に最初に言う言葉が、眠い、だなんて…。





 ニアとソルは、ミコトを死んでも守るって言っていた。


 そうは言っても、ミコトのために死んだりはしないだろう。


 でも違った。


 2人はミコトを守るために、あの大男が敵わないほど強いと分かっていて、向かって行ったんだ。


 血が、いっぱい出て…。


「ニア! ソル!」


 ミコトは2人の名前を叫んで飛び起きた。


 直後、頭を何かにゴチンとぶつけた。


「ったぁー!」


「ごめん、ミコト! 大丈夫か?」


 目の前に、ロイの顔があった。


 どうやら、飛び起きたせいで、顔を覗き込んでいたロイの額に頭をぶつけたらしい。


「ミコトさん! 気が付きましたか?」


 救護班のシーマが、ベッドを仕切るカーテンを開けて入ってくる。


「ここ、救護班…? 私、何して…?」


 いや、そんなことよりーー


「ニアとソルは!? 第2小隊は? ウミノさんとネルさんは!?」


 なんか、頭がクラクラする?


 ミコトはロイの方に倒れ込んだ。


「落ち着いて、ミコト。ニアとソルは無事だから」


 ロイはミコトを抱き止めて言う。


「ミコトさん、ニアさんとソルさんは、かなり出血されていたので、今は眠らせていますが、命に別状はありません。もちろん、軽い怪我ではありませんが…。第2小隊の皆さんも、怪我の大小はありますが、全員無事です。ウミノさんとネルさんは、ショックが大きいようでしたが、怪我はありませんでした」


 シーマは、素早くミコトの知りたい情報を簡潔に話した。


「みんな、生きてる?」


 ミコトの言葉にロイとシーマは頷いた。


「よ、よかった…」


 ホッとしたところで、ミコトはハッとなった。


 そういえば、結婚式は、どうなったのだろう。


 ミコトは、先程の血みどろのドレスを着用したままである。


「ミコトが眠っていたのは、ほんの10分くらいなんだ。結婚式はまだやっていない」


 察したロイは、ミコトに説明する。


「私は結婚式は反対です。ミコトさんの右足では立つ事も歩く事もできません」


 すかさず、シーマが言う。


 右足?


 そうだ、右ふくらはぎを斬られたような…。


 ミコトはドレスの裾を捲って、右足を見た。


 ふくらはぎに包帯が巻かれている。


「私、判断を間違えた…」


 ミコトはいろいろ思い出した。


 ロイが助けに来てくれるのなら、あんな無茶をする必要はなかった。


 ロイに敵う奴なんて存在しないのだから。


 あの時、ミコトは死のうとしていた。


 ナラにも、リントにも、死んだらダメだと言われていたのに。


 コランの言う事も聞かず、頭に血が昇って、大男を斬って、ドレスを血だらけにしたし、ウミノを助けるためとはいえ、進んで腹面男たちに捕まってしまった。


 全部、台無しにしてしまった。


「ごめ、ごめんなさい…」


 ミコトの目から涙が溢れ出す。


 ロイはミコトを抱きしめた。


「違う、ミコトのせいじゃない。俺が、俺が悪いんだ」


 ロイは先程ミコトを見つけた時、血だらけで3人の男たちに斬られて髪を掴まれている酷い状態のミコトを見た時、生きた心地がしなかった。


 こんな絶望があるのかと、本当は生け捕りにしなければいけなかった男たちを殺してしまった。


 ミコトはロイを見て驚いていた。


 まさか助けに来てくれるなんて、という顔だった。


 ミコトの中では、ロイが助けに来る事は、想定外だったのだ。


 だから、1人で何とかしようともがいてしまった。


 そんな信用も、全くない状況にしてしまっていたのだ。


「私、今からでも、結婚式やります」


 ロイの腕の中で、ミコトはポツリと言った。


「ミコトさん!」


「アイツら、私の事を第3に引き渡すって言っていた。結婚式を伸ばしたら、また、襲撃があるかもしれない」


 これ以上襲撃があるなんて、絶対にごめんだ。


「シーマさん、ミコトは俺が支えます。足には絶対に負担をかけません」


 ロイは真っ直ぐシーマを見る。


 シーマは頷いた。


「承知しました。今すぐ介添の2人を呼びます」


 シーマはカーテンの外へ出ていく。


「ミコト、奴ら、他には何か言っていた?」


「他は、えーと…」


 ロイの質問にミコトは男たちの会話を思い出そうとした。


 眠ったら、楽しむ。

 森の中の小屋で…


「うぐっ…」


 気持ち、悪い!


 込み上げる吐き気に、ミコトは口を両手で押さえた。


「ミコト!?」

 

 ロイは驚いてミコトの背中をさする。


「気持ち悪い? 眠剤の解毒剤か!?」


 ミコトは首を横に振った。


 しっかりしなくては。


 言葉だけだ。

 本当にそういう目にあった訳じゃない。


「だ、大丈夫。他は別に、何も、言ってなかった…と思う…」


 ミコトはロイから目を逸らした。


「ミコト、震えて…」


 ロイがミコトに手を伸ばそうとした時、カーテンがシャッと開いた。


「ミコトさん! すぐにメイクとお着替えしましょう!」


 そこには、ひどい目にあったのに、笑顔のウミノとネルがいた。


 手にはメイクの箱と純白のドレスを持っている。


「ウミノさん! ネルさん!」


「はーい、男性は出て行ってくださーい」


 ネルはロイをぐいぐいと押して追い出す。


 ウミノは箱から、道具を取り出す。


「え、ちょっと、ミコトの様子が…」


 言い淀むロイを無視して、ネルはロイとカーテンの外にいたシーマを救護班室の隅に連れて行った。


 そして、極小声で、おしころすように声を出した。


「アイツら、ミコトさんを犯す話をしていました。ミコトさん、おそらくずっとそれを、聞いていて…」


「…っ!?」

 

 ロイとシーマは絶句した。


「女性は、言葉だけでも、本当に、そういうの、怖いんです。だから、ここは、女性の方がいいかと…。私たちに任せてください」


 ネルは2人の返事を待たずに、ミコトのベッドの方へ歩いて行った。


「団長…」


 シーマはロイを見上げて、ロイの表情に驚いた。


 ロイは普段、明るく穏やかで、ヘラっとしている。


 こんなに怒っている顔は見たことがない。


「簡単に、殺すんじゃなかったな」


 ロイの呟きに、シーマは背筋が凍りつく程の恐怖を覚えた。

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