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異世界恋護奇譚 〜聖女のオマケ転移、狙われ少女の自立と結婚〜  作者: 三多来定


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36.結婚式の朝

 結婚式当日。



 ミコトは早朝から、新婦控室になっている聖女棟の1階で準備に追われていた。


 新婦控室は男子禁制なので、先程帰国したらしいロイとは会えていない。


 まさかの、結婚式場である教会で再会ということになる。


「ミコトさん、コルセット苦しくないですか?」


 ミコトのメイク等の準備と介添のウミノが心配そうにきいてくる。


 ウミノは16歳だが、凄腕のメイク技術があり、今回大抜擢だそうだ。


 黒に近いグレーの髪で、早朝なのに、バッチリメイクをしている。


「えーと、苦しいです…」


 ミコトはぶっちゃけてみる。


 これでコルセットを緩めてもらえるとは思っていないけど。


「少しだけ、緩めてみましょう」


 もう1人の介添のネルがコルセットの紐を少しほどく。


「いいんですか?」


「ミコトさんが、辛かったら、意味がありませんので」


 ネルは微笑む。


 ネルは17歳で、ヘアセットの達人だ。


 ネルの茶色の髪は、複雑に編み込みされている。


 2人ともミコトと同年代なのに、女子力が桁違いである。


 新婦控室には、今この3人きりだ。


 外には護衛のニアとソル、同じく護衛の第2小隊がいる。




 あの襲撃から結婚式まで、不審な冒険者は何人かいたらしいが、目立った襲撃はなかった。


 このまま、何も起こらないといいのだけど。


「ミコトさん、不安ですか?」


 ウミノは心配そうな顔をしている。


「あ、すみません。少し緊張していて…」


 本当は、セイラとマリーが近くにいてくれたら…と思っているが、セイラは聖女なので、すでに教会の特別席にいなくてはいけないらしい。


 マリーは聖女の侍女なので、セイラの側に控えている。


 リントは聖女の護衛なので、今日は聖女に付きっきりだ。



 日本で挙げる結婚式だったら、ママとセイラが近くにいてくれたに違いない。


 そして、バージンロードをパパと一緒に歩いたのだろう。


「そうですよね。こんなに各国から、要人が招待される結婚式なんて、あまりありませんから」


 ウミノの声もワントーン沈む。


「ミコトさんを余計に不安にさせてどうするの!」


 ネルはウミノを注意する。


 2人に気を使わせてしまっている。


「それにしても、ミコトさん! 護衛のお二人、いい男ですね?」


 ネルは純白のドレスを用意しながらニヤリと笑う。


「私もそう思ってました! 騎士の方って本当に素敵ですよね!」


 ウミノも目を輝かせる。


 実は騎士はエリートなので、給料もいいし、結構モテるのだ。


 ネルとウミノは、ニアとソルが気になるらしい。


「あの2人は、すっごく性格もいいんですよ!」


 今回、護衛で2人にはかなりお世話になった。


 ウミノもネルも美人だし、しっかり2人を売り込んでおこう。


「カッコよくて性格もいいなんて、ぜひ紹介して欲しいです!」


 ネルは食い気味に言う。


 肉食系女子だ!


 いや、ニアもソルも奥手そうだし、これくらいの方がいいかもしれない。


「はい! 紹介します!」


 きゃー、やった! とウミノとネルは手を取り合って喜ぶ。


 か、かわいい!

 女子校みたいだ。


「あ、もちろん、ミコトさんの旦那様が一番素敵ですよ?」


 ネルは本気の顔で言う。


 女性に大人気の騎士のトップ、国家特別人物であり、若くして騎士団長になった凄腕長身金髪イケメンのロイの事ですよね!


「もう、ほんっとうに羨ましいです! ミコトさん、全女性の憧れです!」


 ウミノも天井を仰ぐように言う。


 二人の気持ち、ミコトもよく分かる。

 

 こんな結婚、本当だったら、憧れてしまう。


「あ、ありがとうございます」


 ミコトは何とか笑顔をつくる。


 しかし、残念ながら、偽装結婚な上、その旦那様とはかれこれ1ヶ月も会っていない。


 もしかしたら、この結婚式が終わったら、またすぐに仕事に行ってしまうのかもしれない。


 想像したくもないが、5年間会っていなかったのだから、あと5年放っておかれる可能性だってゼロではない。


 そんな訳で、5年後、円満に離婚して、1人でひっそり冒険者をやっているミコトの姿が安易に想像できてしまうのだ。


 全女性の憧れなんて、実際にはこんなものである。


「それでは、ドレス、着せていきますね!」


「は、はい!」


 ここから、ドレス、メイク、ヘアセット。


 その後教会で結婚式に、国立宿泊所のホールで披露宴。


 落ち込んでいる暇はない。


 ミコトは気合を入れた。





 ミコトとセイラが5年前に転移してきた教会に、続々と人が集まってきている。


 結婚式は2時間後だが、聖女であるセイラは、祭壇の横の特別席とやらに座らされていた。


 隣には神官長のゼノマ、後ろには侍女のマリーと護衛のリントがいる。


 代表のアレンは、教会入り口で、来客対応に忙しい。


 チッとセイラは舌打ちをした。


「何でミコちゃんのところに行っちゃダメなのよっ!」


 セイラはゼノマを思い切り睨む。


「き、教会に聖女がいる事に、意味がありまして…」


 ゼノマは明らかにセイラに怯えている。


「私はミコちゃんの唯一の家族なんだよ!? 本当だったら、私がバージンロードを一緒に歩かなくちゃなの!」


 セイラはギリギリと歯ぎしりをする。


「ば、ばーじんろ…?」


 この世界の結婚式に、バージンロードという概念は存在しないため、ゼノマは首を傾げる。


「新婦と一緒にあの道を歩いて、新郎に引き渡すの!」


 セイラは教会入り口から祭壇へと続く道を指差した。


 ゼノマはミコトとセイラが2人であの道を歩いてロイのところまで行く図を想像した。


「いや、それでは、どちらが新婦なのか分からないですよ!」


 至極真っ当な指摘だが、セイラはブチギレた。


「なんで私がアイツの新婦なのよっ! 冗談じゃない! ていうか、アイツ、帰国が今朝ってふざけてんの? ホント殺したいっ!」


 ゼノマはアワアワする。


「聖女様、落ち着いて下さい! リント、マリー、何とかしてくれ!」


 リントとマリーは溜息をついた。


 ブチギレの聖女を何とか出来るのは、ミコトだけだ。


 それに、セイラが怒る理由もよく分かる。


 ロイは何故もう少し早く帰国出来なかったのだろうか。


 マリーはセイラに耳打ちをする。


「セイラ、私、ミコトの様子を見てくるわ」


「マリー! ミコちゃん、絶対不安だと思うの! お願いね! リントもほら、マリーと行って!」


 セイラはマリーとリントを促す。


 リントは手で合図を送り、教会警備のイワンを呼び寄せる。


「ちょっと外すので、聖女をお願いします」

「了解」


 セイラはマリーとリントが出ていくのを見送ると、ゼノマとイワンに向き直った。


「どこからだったっけ? アイツの悪口!」


「し、式まで悪口ですか?」


 ゼノマは泣きそうな顔をする。


 セイラだって、できればロイの話なんかしたくない。


「ミコちゃんがどれだけカッコいいか話でもいいけどっ?」


 ゼノマはうなだれた。


「そっちの方が、まだ…はい」


 イワンも肩をすくめ、ミコトが襲撃されたときの話を聞く羽目になった。





「次はメイクしますね!」


 新婦控室で、ウミノは大きな箱からメイク道具を取り出しながら言った。


 ドレスを着用したミコトは大きく頷いた。


「実は私たち、半年前のお祭りで、ミコトさんの模擬戦を見たんですよ」


 ネルは、ミコトが着ていた服を片付けながら、話し出す。


 ネルもウミノも、雑談を交えてミコトの緊張をほぐそうとしているのだ。


「カッコ良かったよねー。女の子であんなに強いんだって、びっくりしました」


 ウミノは思い出しながら、微笑む。


 あのお祭りは、春の花祭りだった。


 余興が少ないからと、騎士団に依頼がきたので、ミコトが模擬戦を提案したのだ。


 もちろん、ミコトはリントと試合をしたかっただけだが、意外にも反響があったようで、ミコトとリント目当てに騎士団の見学に来る女の子たちが何人かいた。


「あれ、リントに二度とやらないって言われちゃったんですよね。だから来年はないと思います」


 ミコトは苦笑した。


 リントは基本、面倒臭いことはしない。


 仕方なくやった模擬戦で、本気で向かってくるミコトに嫌気がさし、その後のファン? の女の子たちの対応をするのも、仕事の邪魔だし、ものすごく嫌そうだった。


「えー! 残念です」


 ウミノはしゅんとする。


 と、その時だった。


「えー! 君がミコトちゃんなの!?」


 聞いたことのない男の声がして、後ろを振り向くと、40歳くらいの長身で銀髪の男が立っていた。


「なっ!?」


 新婦控室は男子禁制だ。


 外には護衛が何人もいる。


 というか、この男、何の気配もしなかった!


 ミコトはサッと身構える。


「わ、ちょっと待って! 僕は怪しい者じゃないから!」


 怪しさしかない!


「キャアアアー!」


 隣にいたウミノが大声を上げる。


 直後、ドアから、ニアとソルが入ってくる。


「うわっ、ホントに待って!」


 ニアとソルから後ずさった男をミコトは羽交い締めにする。


「動き早っ! 力強いっ! ロイ君の言ってた通り…!」


 え? ロイ?


「お父さんっ!?」


 ドアからマリーとリントが入って来ている。


 お父さんと言ったのは、マリーである。


「そう! マリーのお父さんです! 怪しい者じゃないんです!」


 男は必死で全員に訴える。


 第2小隊も入ってきて、小隊長のコランが大声を上げる。


「キダンじゃないか! お前、何やってるんだ!」


「コラン、久しぶり! ね? コランの同期なの。仲間だから、信じて? ミコトちゃん」


 ようやく、ミコトはキダンから離れた。


 マリーはツカツカとキダンに近寄り、右手をグーにしてキダンのお腹を思い切り殴った。


「ぐふっ」


 えー!?


 マリーがお父さん? を殴った!


「つっ!」


 マリーは右手を左手でおさえた。


 人を殴ると、自分の手もかなり痛いのだ。


「マリー! 大丈夫? 女の子が殴ったら、手を痛めちゃうよ!」


「ミコトみたいにカッコよく殴りたかったんだけど、ダメね…」


「私は殴り慣れてるから…」


 キダンは床に倒れながら、「何、その会話…」と呟いた。





「本当にごめんなさい。父は頭がおかしいの」


 改めて、マリーは新婦控室にいる全員に頭を下げる。


 実の父を、頭がおかしい呼ばわりである。


「ロイ君のお嫁さんを見たかったんだよー」


 キダンはアハハと笑う。


 でも、事態はそんなに簡単ではない。


 護衛で固めていた新婦控室に、あっさり侵入されたのだ。


「とりあえず、ミコトは準備があるから、そのまま進めて。他の全員は外に出て…」


 それまで黙っていたリントが指示を出す。


「やあ、リント君。この護衛の総指揮は君だよね? こんなに簡単に入れちゃったけどいいのかなぁ?」


 新婦控室がピリッとする。


 すると、コランはキダンの襟元を掴んで引っ張った。


「いい加減にしろ! キダン! 今日が何の日かわかっているのか!? 侵入云々より、ミコトの心情を考えろ! 無駄に不安にさせただけなんだよ!」


 全員がミコトの顔を見る。


 ミコトの顔は青ざめていたようだ。


「……あ、コレ、僕がロイ君に殺されるやつ?」


 コランはハァーと息を吐いた。


「副団長、自分はキダンを団長のところに連れて行くので、後の事お願いします」


 リントは頭を下げた。


「お願い、します」


 コランとキダンは部屋から出ていく。


「俺は周囲を見直すから、団員は各自持ち場に戻って。マリーは俺が戻るまでミコトの側に」


 団員たちは了解と言い、持ち場に戻って行った。


 リントは部屋を出て、2階に上がっていく。


 それを見送った後、マリーはミコトを抱きしめた。


「ミコト、ごめんね。父が、クソ野郎で…」


 今度はクソ野郎呼ばわりだ。


 ミコトはぷっと吹き出した。


「マリーのせいじゃないよ。それに、お父さん、多分諜報の人だよね? それできっと、ロイと一緒だったんだよね」


 マリーは溜息をついた。


「さすがミコトね。父の事を褒めたくはないのだけど、諜報員としては、トップクラスらしいわ」


 トップクラスか。


 どうりで、気配を感じさせない訳だ。


「でも人間としては最低なの。ロイも苦労したでしょうね」


 マリーは父親を嫌っているようだ。


 もしかしたら、マリーが男性に厳しいのも、父親のせいかもしれない。


「マリーが来てくれて良かった。セイラは大丈夫?」


 今度はマリーが笑う。


「すごく怒ってるわ。ロイの事殺すって」


 ミコトはそれを聞いて何故かホッとしてしまった。


 全ての人が、この結婚を素晴らしい事だと思う中、セイラはミコトだけを思ってくれている。


「こ、ころす…?」

「聖女様が…?」


 ウミノとネルは驚きを隠せない様子で呟いた。


 マリーは2人に笑いかける。


「嫌だ。冗談よ?」


 2人は、そうですよねぇと笑った。





 ミコトはマリーと話しながら、ウミノにメイクをしてもらった。


 マリーは30分後に戻ってきたリントと、セイラのところに戻っていった。

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