31.夜中の襲撃
ミコトが隠し武器を購入した、その日の深夜。
聖女棟の1階の部屋にいたリントは、静かに席を立った。
「本当に、来るのか…」
ナイフを取り出し、両手に構える。
ドアに張り付いて、耳をすます。
数人の足音と、小声で話す声。
「男が6〜7人ってとこか」
一人でやれるだろうか。
螺旋階段の幅を利用すれば、いけるか?
ミコトに知らせたいが、間に合わない。
まあ、これだけの殺気なら、ミコトも気づいているだろうが。
螺旋階段と聖女の部屋は、壁のランプに火が灯してあるため、夜中でもほのかに明るい。
リントは部屋を出ると、螺旋階段の中央に登り身構えた。
直後、覆面をしたガタイのいい男たちがワラワラと入ってくる。
「7人か!」
先頭に上ってきた男をまず切りつける。
「ぐあっ!」
切り付けられた男が後ろに倒れ、真後ろの男が支える。
その横をすり抜けて、3人目の男がリントを切りつけようと剣を振りかぶる。
「こんな狭いところで、剣とか、あり得ないでしょっ!」
リントは左手のナイフで剣を止めると、右手のナイフで3人目の腹を刺す。
「ぐふっ…」
だが、その隙に4人目と5人目がリントの横を通り、階段を上ろうとする。
「行かせないっ!」
5人目の足を切りつけたが、その男はリントの方に倒れてくる。
「しまっ…!」
しかも5人目の男はかなりの巨大だ。
元々、体勢が崩れていたリントの上にドッと倒れ込む。
「うぐっ…!」
倒れている場合ではない。
急いで巨大をどかすが、4人の男が聖女の部屋に入り込もうとしている。
「ミコト! マリー!」
「セイラ、ベッドの後ろに隠れて、身を低くして」
外のダダ漏れの殺気に、ミコトは起き上がってセイラに言った。
「ミコちゃん…!」
セイラは夜は寝られないため、起きていることが多い。
ミコトの言う通り、ベッドの後ろにサッと移動する。
「安心して。絶対に守るから。マリーの部屋にも行かせない」
ミコトはベッド脇に置いてあった短剣をパジャマ代わりにしているシャツとハーフパンツの上から腰に装着する。
そして、買ったばかりの小型ナイフを両手に構えた。
螺旋階段で、交戦している音が聞こえる。
マリーは賢いから、様子を見に行ったりはしないはず。
奴らの目的は、おそらくミコトだ。
ミコトさえ見つければ、隣のマリーの部屋に行く必要はない。
リントの心配は、無用だろう。
聖女の部屋のドアがバンッと開く。
ミコトは、わざわざ見えるように、ドアからは離れて、しかしドアの真ん前に立つ。
「いたぞ! 黒髪の女だ!」
最初に入って来た長身の男が叫ぶ。
と、同時に、ミコトは手にしていた小型ナイフを2本とも投げた。
ナイフは長身の男の右太腿と左太腿に刺さる。
「うがっ!」
長身の男は両膝をついて倒れた。
続いてやはり長身でガタイのいい男が2人、ミコトに向かって走ってくる。
男たちは帯剣しているが、抜こうとはしない。
ミコトを攫うつもりだ。
それなら、こちらも、剣を抜かずに、出来れば、生捕りにしたい。
ミコトもダッシュして、ミコトから見て左側の男に足払いをかけると同時に、右前の男の捕まえようとする手を避けて、腹部に一発お見舞いする。
「ぐっ!」
腹部を殴られた男は、ドッと倒れる。
続いて、足払いをかけた男の顎を狙い、左肘で思い切りど突く。
「がっ…」
こうすると、頭が揺れて、立っていられないだろう。
左側の男もズダーンと倒れた。
後ろにいたもう1人の男は「聞いてねぇ!」と言って窓に向かって走り、窓から身を投げた。
「逃がさないっ!」
ミコトは窓に向かって走った。
「ミコト! 追うな!」
リントの叫び声が聞こえる。
ミコトはハッとなった。
そうだ、追ってはいけない。
罠かもしれないのだ。
後は、リントの指示に従えばいい。
「捕縛だ! 手と足をきつく縛れ!」
「了解!」
リントは縄をバラバラと出す。
ミコトは言われた通り、男たちの手と足をきつく縛る。
リントは聖女の部屋に螺旋階段にいた男たちを投げ入れ、慣れた手つきで縛っていく。
男たちは血塗れではあるが、急所は外されているようだ。
6人全員縛ったところで、リントは照明弾を窓から打ち上げ、マリーの部屋へ声をかけた。
マリーは恐る恐る聖女の部屋へ入ってくる。
「ミコト、セイラ…」
「マリー、聖女のところへ」
マリーはリントに言われた通り、セイラのところへ行き、セイラを抱きしめた。
セイラはカタカタと震えている。
「セイラ、大丈夫!?」
「マリー、ミコちゃんが、カッコ良すぎて…」
「ええ? そこなの?」
どうやら、大丈夫そうである。
リントは少し考えた後、ミコトにウエストのカバンから取り出した薬を手渡した。
「眠剤で全員眠らせる。今新手が来て縄を解かれたら、対処が難しい」
「了解」
確かに、ミコトが殴った2人は、もう目覚めているし、両太腿に小型ナイフを刺された男は、元から意識がハッキリしている。
「これ、飲んで。飲んだふり、寝たふりはすぐにわかるから無駄だよ」
ミコトは腹を殴った男に言う。
「飲む訳ねぇだろ! この、クソブグフッ…!」
男が言い終わる前に、ミコトは再び男の腹を殴った。
男が口を開けたところに、眠剤を押し込み、左手で髪の毛を掴んで上に向けさせる。
右手で顎をガンッと殴り口を閉めさせて…。
「ハイ、ごっくん」
眠剤は即効性だ。
男の体が、ダラリとなったところで、ミコトはその男を床に叩きつけた。
ブスと言ってくる奴には、容赦はしないことにしている。
「後の2人も同じ方法でいい?」
「ひぃっ」
意識のある、縛られた男2人は情けない声を出すと、首を横にぶんぶんと振った。
リントは小声で「こわ…」と言う。
心外である。
この方法をミコトに教えたのは、リントなのだから。
「ミコト、カッコいいわ…」
マリーが呟くと、セイラは何回も頷く。
「ミコちゃん、マジ惚れ直す…」
女性陣にはウケがいいようで、何よりである。
ミコトはランプでかざして、男たち一人一人の目を開けて瞳孔を確認する。
「全員、寝ました」
「怪我の止血を」
「了解」
とはいえ、ミコトが太腿を刺した男の血は殆ど止まっている。
自分でナイフを抜いたのか、小型ナイフは横に落ちている。
結局、反抗心で購入した隠し武器を使ってしまった。
「ミコト、暗器を投げるなら、首か心臓を狙った方がいい。投げ返されたら、逆に危ない…」
リントが小型ナイフを拾ってミコトに渡そうとすると、ミコトはポロポロと涙を流した。
「なんで泣いて!? どこか怪我していたのか?」
ミコトは首を横に振る。
「は、初めて使ったから、使い方が…」
「あ、そうなんだ? でも、泣くほどでは…」
リントはたじろいだ。
ミコトは強いが、この戦闘が怖かったのだろうか。
「リント、ミコトはそういう武器を持つ事をロイに禁止されていたらしいの」
マリーは堪えきれず、口を開く。
「禁止?」
「俺が守るから、持たなくていいって、アイツが言ったんだって! ぜんっぜん、守ってないけどね!?」
セイラは吐き捨てるように言った。
「……!」
リントは、そんなことで…と一瞬思ったが、大きな思い違いをしていることに気がついた。
ミコトは護衛対象だ。
だが、騎士団全員が、ミコトは強いから、大丈夫だという前提で護衛をしているのだ。
ロイは国を発つ前に、ミコトを頼むと全員に言っていた。
それなのに、今日の襲撃が、もし、ミコトがただの女性だったら、とっくに攫われているではないか。
ミコトはただの女性ではないが、ロイがいないだけで泣いてしまう、ただの女の子なのだ。
「ミコト、悪かった。完全にこちらの失態だ。騎士団は、ロイさんから、ミコトを守れと頼まれている。指揮系統を全て見直す。不便にはなるが、3人には、騎士団で生活をしてもらう」
「えっ!?」
ミコトは顔を上げて驚いた。
「マリーと聖女はいいかな?」
リントの問いに、マリーとセイラも頷く。
「もちろんよ」
「最初っから、ミコちゃんを全力で守らないからこうなるのよ!」
お、大事になっている!
「ま、待って! 私は大丈夫…」
「今政務棟で受けている講義も、講師を騎士団に呼ぶからそこで受けるように手配する」
「ええっ?」
今、ちょうど、夜のお勤め編なのに、騎士団で受けるの?
「ああ、騎士団員来たな。早速引渡しと移動と、尋問の手配と…」
ぶつぶつ言いながら、リントは外に出て行った。
リントに何かスイッチが入ってしまったようだ。
「セイラ、マリー、なんか、ごめんね?」
騎士団で生活なんて、男ばかりだし、申し訳ない。
「ミコトってば、襲われたのよ? ちゃんと、守ってもらうのよ!」
マリーはミコトの手を握る。
セイラはミコトに抱きつく。
「そうだよ! アイツいないんでしょ? 全員で守ってもらわなくちゃ割に合わないよ! ついでに、アイツ以外のいい奴いないか探してあげる!」
「それは、探さなくていいけど…」
でも、そうか。
ロイは、ちゃんと、騎士団全員に守れって言ってくれていたんだ。
「2人とも、ありがとう…」
ミコトは、セイラとマリーをギュッと抱きしめた。




