3.異世界へ
「ここ、どこ…?」
ミコトは辺りを見回した。
石造りの教会のような場所だ。
教会だと思うのは、前に立派な祭壇があるからで、昔クリスマスに家族で行った教会の祭壇に似ている。
薄暗くはあるが、光取りの窓がいくつか壁の高い位置にあるので視界に不自由はない。
目の前には人が3人いる。
3人とも白いローブの様な服を着ていて、話しながらこちらを見ている。
そしてミコトの隣には、パジャマで倒れているセイラ…
「セイラッ!? セイラしっかりして!」
「すぴー、すぴー」
あ、コレ、熟睡している時のセイラだ。
ミコトはガクッとなりつつも、セイラの無事にひとまず安心した。
「あの、ここどこですか? なんで私たちここにいるんですか? 誰か説明してくれませんか?」
「相わかった、説明してしんぜよう!」
ミコトは3人の白ローブの人たちにきいたつもりだったが、意外にも声はかなり上から、いや、頭の中に響いてきたと言った方がいいのか、とにかく白ローブの人たちではないところから聞こえた。
「ちょっと説明が長くなりそうじゃな。君たち以外の時間を止めるぞ」
白ローブの人たちの動きと話し声がピタッと止まる。
「え!?」
すると、ミコトと依然として寝ているセイラの前に、白い髭をたっぷりと生やしたおじいさんがパッと現れた。
「だ、誰? …ですか?」
「ワシは君たちの世界でいう神様みたいなものじゃ。この見た目は君の神様イメージに合わせてみたんじゃよ」
おじいさん、いや、神様みたいな人は、ミコトにパチンとウインクをした。
神様なんて、信じていいのだろうかという冷静な考えと、何故かこの人は神様だという確信みたいな気持ちがミコトの中に湧き上がった。
でも、この神様イメージって、なんかサンタクロースの白バージョンみたいだな…。
ミコトは自分の発想の貧困さに少しガッカリした。
「ワシは君たちの思考が大体わかるのじゃが、どうだろう、ワシの長々とした説明より質問形式にするとしようか。ミコトは分からないことは何でも聞くと決めているようだしな」
神様は意地悪そうにニヤッと笑う。
すごい、この神様。
ミコトが理不尽に我慢しないと決心したことをちゃんとわかっている。
「あの、じゃあセイラを起こすので… 」
「いやいや、どうやら先程やっと眠れたようだから、起こすのは可哀想じゃ。それにセイラにはここに来る前にある程度説明済みじゃ」
セイラには説明済み?
というか、セイラ、朝方にやっと眠れたんだ。
ミコトの胸がギュッと苦しくなった。
神様に質問形式でわかったこと。
この世界はミコトたちの元いた地球とは全然別の世界だということ。
「エラルダ」という世界の「第1エラルダ」という国であるということ。
第1エラルダでは、魔物の強さを抑えることができる、聖なる力を持ったいわゆる「聖女」を定期的に異世界から召喚するということ。
「あの、聖女ってセイラのことですよね?」
「そうじゃ」
神様は頷く。
「やっぱり! 実は友だちとセイラほどの美少女なら異世界転移で聖女になれそうって言ってたところなんです!」
萌ちゃん、やっぱりセイラは聖女になれたよ!
美少女バンザイ!
すると、神様はンンッと咳払いをした。
「いや、セイラは聖女で間違いはないが、勘違いしてるようだから言っておくと、こちらに転移した後に能力をさずけるのだから、聖女は女性なら誰でもいいのじゃ。美少女とかいう顔の造形も一切関係無いぞ」
「それって、私でもいいってことですか?」
「ミコトを聖女にすることもできなくはない。でもある協定により、ミコトには聖女の資格がないのじゃ」
資格がないって、やっぱり美少女じゃないから…。
ミコトの顔が曇る。
神様は思考を読んだのか、
「聖女の資格は、不幸な10〜13歳の女性なのじゃよ」
とミコトに言った。
「不幸…」
ミコトの先程までの少し浮かれた気持ちは、一気に沈んでしまった。
確かにセイラは不幸かもしれない。
でも、パパもママもミコトも、セイラが大好きでセイラを幸せにしようと…。
「また暗い考えになっておるな?」
神様はミコトの頭を杖でコンッと叩いた。
この杖もミコトの神様イメージなのだろうか。
「この場合の不幸というのはな、本人の気持ちとは一切関係ないのじゃよ。人間とは難しいものでな。いろいろ恵まれていても不幸を感じるのじゃ。その気持ちまで判定に入れていてはキリがないから、しっかりと基準を設けておる」
「基準って…」
「両親もしくは片親の死別、または離別。それに加えて、本人に非のない虐待やイジメを受けていることじゃ」
「虐待やイジメって、イジメの方ですよね!? 虐待なんてパパとママがするわけないしっ」
ミコトは神様に詰め寄った。
神様は「当然じゃ」と頷いた。
「セイラが受けたイジメは、ミコトも知っている通り、嫉妬からくる謂れのない悪口や本人の嫌がるイタズラじゃ。ミコトも受けておるな」
ミコトは大きく首を縦に振った。
やっぱり、ゴリラブスもイジメだったんだ!
ミコトは神様がわかってくれていた様に思えて、イジメの話なのに少し嬉しくなってしまった。
「虐待は、教師からの体に触られる等の性虐待があるな」
ーーえ!?
性虐待って…何、何それ、そんなの知らない。
そんなの初めてきいた…!!
「ただこの事は、ミコトの両親である大吾と琴子が素早く気づいて解決済みではある。その教師はすでに辞めさせられいる」
2年生の時、セイラのクラスの担任が急に変わったことをミコトは思い出した。
「あいつ、あいつかっ! 許さない、絶対許さないっ!」
ミコトは拳を強く握りしめた。
涙で目の前にいる神様がかすんで見える。
神様はミコトが落ち着くのを待ってくれるのか、その場によいしょと腰を下ろした。
涙が少し乾いて、ミコトは改めて今までの神様からきいた話を考えた。
神様の口ぶりだと、誰でも聖女にすることができそうなのに、異世界からわざわざ連れてくるのは何故だろう。
この世界の女性を聖女にすればいいのに。
10〜13歳も範囲が狭すぎる。
不幸限定の意味もわからない。
そして何よりおかしいのは、ミコトだ。
ミコトは聖女になれない女性なのに何故異世界転移したのだろうか。
巻き込まれたとも思えない。
転移した時、ミコトは公園にいて、セイラとはかなり距離があったのだ。
「聞きたいことが、まとまってきた様じゃな?」
神様はずるい。
ミコトの疑問は、全部わかっているのだ。
でも疑問に思っていても、頭の中でまとまらず質問しなかったことは、教えないつもりに違いない。
「何故、異世界から聖女を召喚するのですか?」
「この世界、エラルダでは、特別な力を持った人間をつくることは禁止されているからじゃ」
「なんで、ですか?」
「昔、特別な力を持つ人間たちによって、エラルダは滅亡の危機に陥ったからじゃ」




