27.セイラの思い
「2人で内緒話? 私も仲間に入れて欲しいなー」
セイラは、ぴょこぴょこ歩きながら、聖女棟の1階の部屋に入って来る。
セイラがドア前にいたことに、リントは全く気付いていなかった。
それ程、ロイの話に動揺していたということか。
「セイラ、起きていたの?」
マリーの問いに、セイラは笑顔になる。
「安心して。ミコちゃんは、熟睡だから」
リントは席を立って、寝台の方に腰を掛けた。
一応、聖女なので、礼は尽くすことにしている。
「で、ちょっと待って欲しいってのは?」
譲られた席に座りながら、セイラはリントを見た。
「ミコちゃん、アイツに何にも言われてないんだよ。好きも、結婚しようとも。第3から守るために、必要だとしか言われてないの。ミコちゃん、さっきまで『私と結婚させられてロイが可哀想』って泣いてたんだよ?」
リントは再び頭を抱えた。
言葉が足りないのは、ロイの悪い所だ。
「それは、ロイさんが悪いけど、ミコトの事は大事に思っていると…」
「そんな御託はいい。ミコちゃんを傷つける、そんな奴は要らないの」
「なっ!?」
セイラはリントを睨んだ。
リントも睨み返す。
「ちょっと、2人とも…」
マリーが間に入ろうとするが、セイラは関係なく話し始めた。
「そういう意味では、ニアって奴もダメ。ミコちゃんを好きみたいだけど、嫌われてるって思わせるほど態度悪いとか、論外」
「……前から思ってたんだけど、聖女は何でそんなにミコトに執着してるの?」
セイラはニコッと笑った。
「好きだからだよ」
リントは溜息をつく。
「それは知ってるけど…」
「リントには分かってもらえると思ってたのに。リントだって、マリーに執着してるじゃん。それこそ、自分が強いのを知っていて、全員にマリーが好きだって吹聴して、敵を減らしてるでしょ?」
リントは愕然とした。
この聖女、タチが悪い!
「その理論でいくと、聖女は、ミコトの事を恋愛的な意味で好きってことになるけど、そうなの?」
「そうだよ。世界で一番ミコちゃんが好き。本当は誰にも渡したくないの」
セイラは真っ直ぐリントを見る。
リントは咄嗟に目を逸らした。
女の子同士というのも、あるのは知っている。
「待って、セイラ。私には、そこまでには見えないわ。どちらかというと、見守っているというか…」
マリーは再び間に入る。
セイラはポンと手を叩いた。
「そうだった! マリーの言う通り、私はミコちゃんを見守ってるんだよ」
リントはガクッとなる。
「俺を騙した? なんか、聖女が言いたい事よくわからないんだけど?」
「騙してないよ! えーと、私はミコちゃんが好きすぎて、聖女としてこっちに来る時に、ミコちゃんを無理矢理連れてきちゃったの。それで、いろいろ事情があって、ミコちゃんだけ二度と元の世界に帰れなくなってしまって、だから、私は自分の気持ちを抑えて、ミコちゃんがこの世界で幸せになるように行動しようと決めたんだ。大好きからの、見守りだよ!」
マリーとリントは、ポカンとする。
聖女が結構重大な事を言った気がするのだが、言い方が軽すぎる。
「つまり、ミコちゃんを泣かせるアイツはダメなのだよ!」
リントは、しばらく考えて、頭を整理した。
ミコトは元の世界に帰れない。
これは合っていた。
それなら、ロイに最悪の事態は起こらない。
でも、聖女が認めていない。
いや、ミコトの気持ちの方が大切なはず。
ミコトは明らかにロイが好きなのだから。
「聖女サマ、ミコトは、ロイさんが好きなので、諦めて、2人の結婚を祝いましょう」
リントはセイラに提案をしてみる。
セイラは、うーんと考えた。
「アイツは普通の人間じゃないからなー。ミコちゃんが巻き込まれたら困るしなー」
「ちょ、ちょっと待った!」
リントは堪えきれず立ち上がった。
全身打撲が痛かったが、それどころではない。
「聖女は、ロイさんの何を知ってるんだ!? 巻き込まれるって…」
「リント…」
マリーは心配そうにリントを見つめる。
セイラは目を伏せた。
「私ね、2人には感謝してるんだ。ミコちゃんをたくさん助けてくれたから。アイツの事は嫌いだけど、感謝はしてるんだよ。結婚を切り出して第3の古代魔法野郎からミコちゃんを守ったしね」
そう言うと、セイラは席を立った。
「アイツの事は、そのうちわかるよ…」
セイラはこれ以上、話す気はないようだ。
いや、とりあえず、今は、ミコトだ。
「ミコトがこの世界に残る事を、ロイさんに教えたい。いいかな?」
セイラは少し悩んで、マリーを見た。
「私も、ロイには知っていて欲しい」
マリーは、ロイにセタと同じ運命を辿ってほしくないと強く思っている。
あんな光景は、もう見たくない。
「マリーやリントみたいに、勝手に気付くのなら、仕方ないよ。でも、わざわざ言うのは、やめてほしいかな。言っていいことなら、ミコちゃんだってとっくに言ってるよ」
セイラは、リントとマリーを真剣な目で見た。
確かにそうだ。
ミコトはこの事を、5年、隠しているのだ。
「もしくは、ミコちゃんが、自分で打ち明けるのなら、ね。とにかく、この事は、アイツには言わないでよね?」
セイラは立ち上がると、ぴょこぴょこドアの方に歩いて行った。
「じゃあ、おやすみ! あっ、マリー、あんまりリントを待たせちゃダメだよー?」
セイラはそう言うと、バタンとドアを閉め、2階に上がって行った。
「え!?」
リントはマリーを見る。
マリーはサッと目を逸らした。
「あ、あの、マリー?」
「私、セイラの侍女をやり遂げたいの!」
「うん」
リントはマリーの隣りに行く。
「ミコトの事も、心配で…」
「それは、俺もそうだよ」
「あと5年、結婚は出来ないわ」
「俺は、5年待つ」
リントはマリーを覗き込む。
マリーの頬が少し赤い。
「キスしてもいい?」
リントの問いにマリーはかすかに頷く。
リントはゆっくり、静かに、マリーにキスをした。
次の日の早朝5時頃、ミコトが聖女棟の外に出ると、リントがストレッチをしていた。
「リント、おはよう! ケガは大丈夫?」
ミコトが声をかけると、リントは少し呆れたように笑った。
「おはよ。そっちこそ、荒れてたってきいたけど?」
「え? あ、マリーが言ったんだね」
ミコトもストレッチをしながら、笑った。
「まあ、全部仕方がないことだから、前向きに頑張ることにしたよ」
「…そこが、ミコトのいいところだな」
リントに思いがけず褒められて、ミコトは首を捻った。
「リント、なんか、機嫌いい?」
「別に、いつもと同じだよ」
ミコトは、「ふーん」と言った後、右手をリントに向かって上げた。
「じゃあ私、走ってくる!」
「何でだよ! 護衛対象が走りに行くな!」
ミコトはハッとした顔をする。
完全に忘れていた。
「リントも一緒に走る?」
「嫌だ。こっちは完徹なんだよ」
リントは溜息をついた。
「組手に付き合って…」
「嫌だ。誰かの旦那のせいで、全身打撲!」
リントはミコトを睨んだ。
ミコトはアハハと笑った。
「いつもと一緒だった。リント、冷たい!」




