24.ファーストキス
9時になり、騎士団の練習場に団員たちが集まってきた。
騎士団の朝礼は、普段は各小隊毎に行われる。
全体で行うのは、月1回なのだが、今回は特例で臨時朝会ということになっている。
騎士団長であるロイが簡易な朝礼台に乗り、副騎士団長のリントは朝礼台の横に立つ形をとる。
その他団員は前に並んで、ザワザワとしている。
「皆、おはようございます! 朝の忙しい時に集まってくれてありがとう」
ロイの挨拶に、団員たちは静まり返る。
「早速、連絡? 報告かな、ありますので、聞いてください」
そう言うと、ロイはガサガサと手紙を開く。
何か、威厳がないが、ロイなので仕方ない。
「えーと、私、騎士団長のロイと、臨時団員のミコトはこの度、結婚する運びとなりました」
団員たちが、一気にざわつく。
ロイは気にも止めずに、手紙を読み続ける。
「婚儀は1ヶ月後です。尚、この結婚は、国家重要事項のため、結婚に関しての質問等は禁止します。私にもミコトにも何も聞かないで下さい」
団員たちは、納得していない様子だが、禁止と言われると何も言えない。
「騎士団には、本日から婚儀にかけて、国の警備に、より一層力を入れていただきたく、新婦のミコトにも、護衛を付けることにします。え! そうなんだ、ミコトに護衛つけるのか!」
団員たちは、ガクッとなる。
「ロイさん、下読みしてから、読み上げて下さいよ」
リントは横から注意する。
と、その隙を狙って、小隊長のイワンが手を上げた。
「あのさ、ミコトに護衛って、誰をつけるんだよ? 情けない話だけど、ミコトより強い奴って、あんたらしか…」
そう言って、ロイとリントを見る。
「え? そうなの?」
ロイはリントを見る。
リントは頷く。
「そうですね。本当に情けない話、ミコトより強いのは、ロイさんと俺だけです」
ロイが全体を見回すと、団員たちは目を伏せた。
こんなに屈強な男たちより、女の子のミコトの方が強いとは…。
「そっか。でも護衛付けろって言われてるしなぁ。俺とリントは、行き帰りまでは…」
護衛は何もミコトより強くなくてもいい。
要は、女性の一人歩きでなければいいのだ。
「よし! じゃあ今から、1人ずつ、俺と決闘しようか!」
採寸が終わり、ミコトは中央政務棟から騎士団に続く道をよろよろと歩いていた。
「イタタタ…。あれが採寸…」
ミコトは腰を押さえた。
コルセットという腰を細く見せる道具? を付けてからドレスを着るので、コルセットを付けた上での採寸だったのだが、ミコトの想像を遥かに超えていた。
壁に手をつき、女性2人がかりで腰に巻いたコルセットの紐を締め上げるのだ。
もう無理と訴えても、やめてもらえない。
あんなのを付けて、結婚式とか、もしかして拷問だろうか。
しかも、これからほぼ毎日政務棟に赴き、花嫁修業と綺麗になるための特訓? をやるとかで、騎士団に殆ど出勤する事が出来ないという。
これもミコトにとっては拷問に近い。
覚悟を決めなくちゃと思っていたが、すでに心が折れそうである。
「もしかして、アレかな。私がイマイチだから、ロイの隣に立てるようにしようと…?」
そういえば、あのムカつく第3のライラは、やたら容姿の事を言っていた。
リオの奥様も綺麗な人だった…気がする。
セタの嫁候補はマリーだった。
つまり、国家特別人物の結婚相手の第一条件は、容姿ということなのだ。
「うう、知っていたら、婚約者役なんてやらなかったのに…」
あの場に行かなければ、古代魔法の水晶を触る事もなかったし、ロイに望まぬ結婚をさせることもなかったのだ。
ミコトは結構本気の半泣きで、騎士団の練習場に向かった。
こういう時は、剣の素振りに限る。
練習場に入って、ミコトは驚いた。
団員全員が、倒されている!?
敵でも来たのか、練習場の隅に、ボコられた団員たちが寝転がっている。
「何、これ…って、うわあっ! リントがボッコボコ!?」
ミコトの足元近く、リントが明らかに他の団員よりも重症で寝転がっている。
側には救護班のシーマがいて、リントの手当をしている。
「ミコト…、うるさい…」
リントは、うめき声を出す。
「ああ、ミコトさん、ご結婚おめでとうございます」
シーマはニッコリとミコトに笑いかける。
「あ、ありがとうございます…って、これ、何があったんですか?」
「団長が団員の実力を見ると言って…」
「ミコト…、今日の仕事…、アイツを、倒せ…」
シーマが言い終わる前に、リントは弱々しく練習場の真ん中を指差した。
そこにいたのは、ラスボス…
「ミコトおかえり。早かったね」
ロイだった。
「ロイ騎士団長! 私とも一戦お願いします!」
「ミコトとは一戦しません!」
ミコトのお願いを、即効ロイは却下する。
周りにいた団員たちから、ブーイングが起こる。
リントに指示されたからではなく、ミコトは本当にロイと試合がしたいのだ。
「何故ですか? 私も団員です!」
「ミコトは結婚式を控えています。よって、試合等は禁止です」
なんて事だ。
結婚式の影響が、こんなところにまであるとは。
試合を禁止したって、美人になんかならないのに。
「大丈夫です! 私の容姿は、これ以上悪くならないんです! ぜひ、リントぐらい、ボッコボコにして下さい!」
「何言ってるの、ミコト。どこの世界に嫁をボッコボコにする男がいるの?」
ロイの口調が元に戻る。
「団長! 私だけ実力みないの、おかしいと思います!」
団員たちが、そうだそうだと騒ぎたてる。
この空気の悪さ。
団員たちを奮い立たせようと、強めにボコったのが、良くなかったようだ。
ロイは溜息をついた。
ミコトの実力がどんなものかは気になるところではあるが、怪我なく終わらせることが出来るだろうか。
「分かったよ。その代わり、木剣を落としたら終わりにするから」
「ありがとうございます!」
ミコトは心底喜んだ。
というのも、最近は誰もミコトと試合をしてくれないからだ。
「いつでもいいよ」
ロイは構えもとらずに言う。
きっとロイは、すぐにミコトの木剣を落としにかかるだろう。
でも、絶対すぐには終わらせない。
何とか、一発、当てる!
ミコトはロイに向かって走った。
ロイはミコトの木剣をすぐに狙ったが、ミコトは素早く木剣を左手に持ち替えた。
(左も使えるのか)
でも、左でも同じ事だ。
木剣を落とす!
ガァンと、木剣同士がぶつかる音がした。
でも、ミコトの左手からは、木剣は落ちていない。
(大した握力だが、今のを落としていないということは、左手を捻ったか…)
もう怪我をさせてしまった。
(だからミコトと試合は嫌なんだ)
ミコトは木剣を再び左手から右手に持ち替えた。
左手首が痛い。
(捻ったけど、落とさなかった)
握力を鍛えた甲斐があった。
ミコトは自分の出来うる限りのスピードで、ロイに連続攻撃を仕掛ける。
(木剣落としではなく、普通に試合をしてもらう!)
ロイはミコトの繰り出す剣を全て受け流していた。
(なんでこんなに速いんだよ。しかも、スピードが落ちない!)
周りの団員たちは、すごいとばかりにどよめいている。
(お前ら、すごいじゃないんだよ。ちょっとは見習えよ! こんなの努力の賜物だろう!)
ミコトの剣、攻撃と攻撃の間に、少し隙が見えた。
(落とす!)
ミコトはロイの振りかざした剣の前に、左手を出した。
(落とさせない!)
多分ロイは直前で止めようとしたのだろうが、ミコトの左腕に木剣が当たった。
「ぐぅっ!」
痛い!!
(でも、成功だ。落としてないから、終わりじゃない!)
「ミコト! もう止めよう! 左手が…」
ロイは、試合を制止する。
「やめない! 右手がある!」
「何言って…」
ロイが言い終える前に、ミコトはもう一度踏み込んで攻撃を仕掛ける。
ロイはミコトの後ろに回り込んで、ミコトを羽交い締めにした。
「な! 離してっ!」
「もう終わり! 左腕腫れてるから!」
さすがにロイの力をミコトでは振りほどけない。
「木剣落としてない! まだやれる!」
ミコトはジタバタと暴れる。
「ミコト! いい加減にしないと…」
ロイはミコトの顔を羽交い締めにした手でぐいっと向けさせて、自分の顔を近づけてキスをした。
「んんっ!?」
周りの団員たちは、硬直したように、しんとなり、ミコトの右手の木剣が、カランと地面に落ちる。
「はい、終わりね。ミコトとリントは救護班で手当て。後の団員は10分休憩後、いつもの業務に戻って!」
ロイはさっさと指示を出すと、放心しているミコトを抱えて、救護班室に向かった。
リントはロイとミコトの試合の途中で気を失っていたので、何があったかは後で聞くことになった。
他の団員たちは、言われた通り10分後に業務に戻ったが、護衛対象のミコトの強さと、一体何を見せられたんだという思いで、モヤモヤとしていた。




