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異世界恋護奇譚 〜聖女のオマケ転移、狙われ少女の自立と結婚〜  作者: 三多来定


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24/50

24.ファーストキス

 9時になり、騎士団の練習場に団員たちが集まってきた。


 騎士団の朝礼は、普段は各小隊毎に行われる。

 全体で行うのは、月1回なのだが、今回は特例で臨時朝会ということになっている。


 騎士団長であるロイが簡易な朝礼台に乗り、副騎士団長のリントは朝礼台の横に立つ形をとる。

 その他団員は前に並んで、ザワザワとしている。


「皆、おはようございます! 朝の忙しい時に集まってくれてありがとう」


 ロイの挨拶に、団員たちは静まり返る。


「早速、連絡? 報告かな、ありますので、聞いてください」


 そう言うと、ロイはガサガサと手紙を開く。


 何か、威厳がないが、ロイなので仕方ない。


「えーと、私、騎士団長のロイと、臨時団員のミコトはこの度、結婚する運びとなりました」


 団員たちが、一気にざわつく。


 ロイは気にも止めずに、手紙を読み続ける。


「婚儀は1ヶ月後です。尚、この結婚は、国家重要事項のため、結婚に関しての質問等は禁止します。私にもミコトにも何も聞かないで下さい」


 団員たちは、納得していない様子だが、禁止と言われると何も言えない。


「騎士団には、本日から婚儀にかけて、国の警備に、より一層力を入れていただきたく、新婦のミコトにも、護衛を付けることにします。え! そうなんだ、ミコトに護衛つけるのか!」


 団員たちは、ガクッとなる。


「ロイさん、下読みしてから、読み上げて下さいよ」


 リントは横から注意する。


 と、その隙を狙って、小隊長のイワンが手を上げた。


「あのさ、ミコトに護衛って、誰をつけるんだよ? 情けない話だけど、ミコトより強い奴って、あんたらしか…」


 そう言って、ロイとリントを見る。


「え? そうなの?」


 ロイはリントを見る。

 リントは頷く。


「そうですね。本当に情けない話、ミコトより強いのは、ロイさんと俺だけです」


 ロイが全体を見回すと、団員たちは目を伏せた。


 こんなに屈強な男たちより、女の子のミコトの方が強いとは…。


「そっか。でも護衛付けろって言われてるしなぁ。俺とリントは、行き帰りまでは…」


 護衛は何もミコトより強くなくてもいい。

 要は、女性の一人歩きでなければいいのだ。


「よし! じゃあ今から、1人ずつ、俺と決闘しようか!」


 



 採寸が終わり、ミコトは中央政務棟から騎士団に続く道をよろよろと歩いていた。


「イタタタ…。あれが採寸…」


 ミコトは腰を押さえた。


 コルセットという腰を細く見せる道具? を付けてからドレスを着るので、コルセットを付けた上での採寸だったのだが、ミコトの想像を遥かに超えていた。


 壁に手をつき、女性2人がかりで腰に巻いたコルセットの紐を締め上げるのだ。


 もう無理と訴えても、やめてもらえない。


 あんなのを付けて、結婚式とか、もしかして拷問だろうか。


 しかも、これからほぼ毎日政務棟に赴き、花嫁修業と綺麗になるための特訓? をやるとかで、騎士団に殆ど出勤する事が出来ないという。


 これもミコトにとっては拷問に近い。


 覚悟を決めなくちゃと思っていたが、すでに心が折れそうである。


「もしかして、アレかな。私がイマイチだから、ロイの隣に立てるようにしようと…?」


 そういえば、あのムカつく第3のライラは、やたら容姿の事を言っていた。


 リオの奥様も綺麗な人だった…気がする。


 セタの嫁候補はマリーだった。


 つまり、国家特別人物の結婚相手の第一条件は、容姿ということなのだ。


「うう、知っていたら、婚約者役なんてやらなかったのに…」


 あの場に行かなければ、古代魔法の水晶を触る事もなかったし、ロイに望まぬ結婚をさせることもなかったのだ。


 ミコトは結構本気の半泣きで、騎士団の練習場に向かった。


 こういう時は、剣の素振りに限る。





 練習場に入って、ミコトは驚いた。


 団員全員が、倒されている!?


 敵でも来たのか、練習場の隅に、ボコられた団員たちが寝転がっている。


「何、これ…って、うわあっ! リントがボッコボコ!?」


 ミコトの足元近く、リントが明らかに他の団員よりも重症で寝転がっている。


 側には救護班のシーマがいて、リントの手当をしている。


「ミコト…、うるさい…」


 リントは、うめき声を出す。


「ああ、ミコトさん、ご結婚おめでとうございます」


 シーマはニッコリとミコトに笑いかける。


「あ、ありがとうございます…って、これ、何があったんですか?」


「団長が団員の実力を見ると言って…」

「ミコト…、今日の仕事…、アイツを、倒せ…」


 シーマが言い終わる前に、リントは弱々しく練習場の真ん中を指差した。


 そこにいたのは、ラスボス…


「ミコトおかえり。早かったね」


 ロイだった。





「ロイ騎士団長! 私とも一戦お願いします!」

「ミコトとは一戦しません!」


 ミコトのお願いを、即効ロイは却下する。


 周りにいた団員たちから、ブーイングが起こる。


 リントに指示されたからではなく、ミコトは本当にロイと試合がしたいのだ。


「何故ですか? 私も団員です!」


「ミコトは結婚式を控えています。よって、試合等は禁止です」


 なんて事だ。

 結婚式の影響が、こんなところにまであるとは。

 試合を禁止したって、美人になんかならないのに。


「大丈夫です! 私の容姿は、これ以上悪くならないんです! ぜひ、リントぐらい、ボッコボコにして下さい!」


「何言ってるの、ミコト。どこの世界に嫁をボッコボコにする男がいるの?」


 ロイの口調が元に戻る。


「団長! 私だけ実力みないの、おかしいと思います!」


 団員たちが、そうだそうだと騒ぎたてる。


 この空気の悪さ。


 団員たちを奮い立たせようと、強めにボコったのが、良くなかったようだ。


 ロイは溜息をついた。


 ミコトの実力がどんなものかは気になるところではあるが、怪我なく終わらせることが出来るだろうか。


「分かったよ。その代わり、木剣を落としたら終わりにするから」


「ありがとうございます!」


 ミコトは心底喜んだ。


 というのも、最近は誰もミコトと試合をしてくれないからだ。


「いつでもいいよ」


 ロイは構えもとらずに言う。


 きっとロイは、すぐにミコトの木剣を落としにかかるだろう。

 でも、絶対すぐには終わらせない。

 何とか、一発、当てる!


 ミコトはロイに向かって走った。



 ロイはミコトの木剣をすぐに狙ったが、ミコトは素早く木剣を左手に持ち替えた。


(左も使えるのか)


 でも、左でも同じ事だ。

 木剣を落とす!


 ガァンと、木剣同士がぶつかる音がした。


 でも、ミコトの左手からは、木剣は落ちていない。


(大した握力だが、今のを落としていないということは、左手を捻ったか…)


 もう怪我をさせてしまった。


(だからミコトと試合は嫌なんだ)




 ミコトは木剣を再び左手から右手に持ち替えた。

 

 左手首が痛い。


(捻ったけど、落とさなかった)


 握力を鍛えた甲斐があった。


 ミコトは自分の出来うる限りのスピードで、ロイに連続攻撃を仕掛ける。


(木剣落としではなく、普通に試合をしてもらう!)



 ロイはミコトの繰り出す剣を全て受け流していた。


(なんでこんなに速いんだよ。しかも、スピードが落ちない!)


 周りの団員たちは、すごいとばかりにどよめいている。


(お前ら、すごいじゃないんだよ。ちょっとは見習えよ! こんなの努力の賜物だろう!)


 ミコトの剣、攻撃と攻撃の間に、少し隙が見えた。


(落とす!)


 ミコトはロイの振りかざした剣の前に、左手を出した。


(落とさせない!)


 多分ロイは直前で止めようとしたのだろうが、ミコトの左腕に木剣が当たった。


「ぐぅっ!」


 痛い!!


(でも、成功だ。落としてないから、終わりじゃない!)




「ミコト! もう止めよう! 左手が…」


 ロイは、試合を制止する。


「やめない! 右手がある!」

「何言って…」

 ロイが言い終える前に、ミコトはもう一度踏み込んで攻撃を仕掛ける。


 ロイはミコトの後ろに回り込んで、ミコトを羽交い締めにした。


「な! 離してっ!」


「もう終わり! 左腕腫れてるから!」


 さすがにロイの力をミコトでは振りほどけない。


「木剣落としてない! まだやれる!」


 ミコトはジタバタと暴れる。


「ミコト! いい加減にしないと…」


 ロイはミコトの顔を羽交い締めにした手でぐいっと向けさせて、自分の顔を近づけてキスをした。


「んんっ!?」


 周りの団員たちは、硬直したように、しんとなり、ミコトの右手の木剣が、カランと地面に落ちる。


「はい、終わりね。ミコトとリントは救護班で手当て。後の団員は10分休憩後、いつもの業務に戻って!」


 ロイはさっさと指示を出すと、放心しているミコトを抱えて、救護班室に向かった。


 リントはロイとミコトの試合の途中で気を失っていたので、何があったかは後で聞くことになった。


 他の団員たちは、言われた通り10分後に業務に戻ったが、護衛対象のミコトの強さと、一体何を見せられたんだという思いで、モヤモヤとしていた。

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