22. 二人で買い物
翌朝、朝一の公務用馬車で、アレンは第1エラルダ国へと帰っていき、ミコトとロイは第2エラルダ国首都の観光のため、町に向かって歩いていた。
「ごめんね、ロイ。こんな時に観光なんてしなくても良かったんだけど…」
ミコトは何度も一緒に帰るとアレンに言ったのだが、こんな時だからこそ楽しんで来いと馬車に乗せてもらえなかったのだ。
ロイと一緒にいれば危なくないからと、ロイまで馬車に乗せてもらえなかった。
ロイからすると、完全にとばっちりに違いない。
「いいよ。俺も観光するつもりだったし」
ロイはミコトに微笑む。
本当に、なんていい人たちなんだろう。
ミコトに出来ることは、せめて心配をかけないことだ。
昨夜は散々泣いたし、もう気持ちを入れ替えて、5年間はロイと夫婦ごっこを楽しむ事が、きっと最善だろう。
ミコトは、ロイの手を握った。
夫婦だし、手を繋いでもいいはずだ。
「行こっか、買うものいっぱいあるの!」
第2エラルダの首都は、とても賑わっていた。
石畳の街路に立ち並ぶいろいろなお店。
露店なども出ているし、人も第1エラルダより活気があるし、何より多い。
あのリオという代表は、国家特別人物というだけあって、やはり優秀なのだろう。
「えっと、セイラとマリーのお土産は買ったし、リントにもマリーと同じのを買ったし、あといい香りの石鹸を買って…」
セイラにはナッツのケーキ、マリーには同じナッツのクッキー。
リントの好みはよく分からないが、マリーと同じ物なら受け取ってくれるだろう。
「いい香りの石鹸?」
ロイは完全に荷物持ちだ。
「うん。セイラがそれで私を洗うんだよ」
「それでかぁ。ミコト、なんかいつもいい匂いすると思った」
「…そ、そう?」
ミコトは赤面した。
どうしてこんなセリフをサラッと言えるのか。
しかし、その石鹸がロイの匂いを消すための物だとは、とても言えない。
「あ、あと、武器屋! 隠し武器が欲しいんだけど、相談にのって欲しくて」
「隠し武器か。俺も持ってるよ」
ロイはここに、と言うように、手首を指差した。
「騎士団員は結構持ってる奴多いかな。靴とか手首とかに」
「そうなんだね」
そんなに一般的なら、もっと早く購入すれば良かった。
そしたら、仕込んでおいて、第3の人たちに使えたのに、と思うミコトだった。
10分程歩くと武器屋があったので、ミコトはそこで隠し武器を選ぶことにした。
少し薄暗い武器屋の店内には、長剣や短剣、槍や弓などが置いてある。
隅の方に、隠し武器やナイフなどが多数置いてあるようだ。
「こう、刃先が折りたためる物と、鞘がある小型ナイフが一般的かな」
ロイは隠し武器の説明をしてくれる。
「刃先が折りたためるものは、出す時にワンアクション必要だけどね」
横の金具をずらすと、刃先がシュッっと出て来る。
「なるほど。こんな小さな物があるとは…」
ミコトは小さな折りたたみの隠し武器を凝視した。
これは胸の谷間に入りそうだ。
セイラに大ウケに違いない。
こちらのナイフ用のベルトは、男性の腕用のようだが、ミコトの太ももに丁度いい。
「良かったら、あちらに練習場があるので、お試しできますよ」
お店のおじいさんが、奥の練習場を指しながら、にこやかに話しかけてきた。
「え! 試していいんですか? ロイ、付けてきてもいい?」
「いいよ」
ミコトは嬉しそうに奥に駆けていく。
「可愛い方ですね。ええと、奥様ですか?」
おじいさんは、ミコトの腰に揺れる短剣を見つめて言った。
「あ、そうですね。国に帰ったら結婚するので…」
ロイは少し照れくさそうに答えた。
「それは、おめでとうございます。それにしても、武器屋であんなに楽しそうな女性は初めてですよ」
おじいさんは、目を細める。
「楽しそう…」
確かに、ミコトは、ロイと一緒にいて、楽しそうだ。
「ロイー! 相手して!」
ミコトが練習場から手を振る。
「あ、いいですかね?」
おじいさんはゆっくり頷いた。
「どこに武器を隠したと思う?」
ミコトはロイから一定距離離れて立ち、ロイに問題を出した。
「うーん、袖…か、髪の中か…」
ロイはマジマジとミコトを見た。
今日のミコトの服装は、昨日と同じ、白のワンピースだ。
靴は浅いパンプスだし、隠せる場所は少ない。
ミコトはふっと笑った。
「正解は、ココでした!」
ミコトはスカートをバッと捲し上げると、太ももに装着してしたベルトから折りたたみナイフを取り出し、ロイに向かって3本立て続けに投げた。
もちろん、刃は出していない。
「なんっ!?」
ロイは驚きながらも、3本全部キャッチする。
「だめかぁ」
「だめか、じゃない! ダメだから、そんな、今、見えたから!」
どうやら、スカートを捲し上げすぎたらしい。
「あ、でも油断させるのが目的だから、見えても…」
「よくない! そこに武器隠すの禁止!」
禁止されてしまった。
まあ、普段は騎士団の制服でズボンだし、太ももに付けるのは、セイラと遊ぶ時だけにしよう。
「はぁい」
ロイはハァーと息を吐く。
「ロイ、油断したね?」
「え…?」
ミコトはニヤリと笑うと、ワンピースの丸首の部分をグイッと下げて、胸の谷間から折りたたみナイフを取り出してロイに投げつけた。
ロイの頭に、刃の出ていないナイフがコツンと当たる。
「え? 当たっちゃった!? ごめん、ロイ!」
ミコトがロイに駆け寄ると、ロイはミコトの両腕をガッと掴んだ。
「なんで、そんなところに…」
ロイ的には、太ももより、ダメだったようだ。
「えっと、ほら、私の胸って邪魔だし、胸の有効利用?」
ミコトは目を逸らした。
アニメや映画の真似事とは言えない。
「女性の胸はそんな事に使ったらダメだから! ミコトは隠し武器自体禁止!」
「えーっ!? セイラと女暗殺者ごっこをしようと思っていただけだよ? 実際にはちゃんと靴とかに隠すから、禁止しないで?」
ロイはミコトを睨んだ後、深い溜息をついた。
「そんな武器持たなくても、俺がちゃんと守るから…」
「うぐっ…!」
だから、どうして、そんなセリフをサラッと言えるのか。
結局、ミコトは、その武器屋では何も購入出来なかった。
何も買わない客だったのに、お店のおじいさんは始終、優しく笑っていてくれた。
帰りの馬車の中、ミコトは昨晩の睡眠不足もあり、ロイにもたれかかって寝入っていた。
「いい匂いするし、楽しそうだし、熟睡だし…」
ロイは今日の買い物を思い出して笑ってしまった。
乗合馬車だが、ロイとミコトの他には誰も乗っていない。
「5年か…」
ロイはあまり先の事を考えない性格だが、5年後のミコトとの別れが、とても悲しいものになる事は、想像に難くなかった。




