187.神聖な治療の儀式?
第2エラルダ国のミレイの家で、ミコトはアサキの作ったシチューを食べていた。
アサキのシチューは、野菜もお肉もトロトロで、コーンがたっぷり入ったクリームシチューだった。
「めちゃくちゃ美味しいです! アサキさんは、お料理上手なんですね!」
「良かったらレシピを教えますよ?」
アサキ言葉に、ミコトはスプーンを置いた。
「あの、私、料理が壊滅的に出来なくて……」
そう、レシピを教えていただいても、作れないのだ。
「俺も全く出来ないよ」
ミコトの隣でロイは笑顔で言う。
「私も出来ないわ」
ベッドの上で、ミレイも言う。
「ミレイさんはいいんですよ。私が全て作りますから」
アサキは笑顔で言う。
アサキのミレイ溺愛が凄い!
「そ、それより、ミコトさんに寝ていた間の話をしてよ」
ミレイは真っ赤になって言う。
「ああ、そうでした。実は第1から突然聖女様が訪問されまして……」
「えっ! セイラが!?」
ミコトが驚いて叫ぶと、ロイは笑った。
「来るとは思ってたんだけど、予想より早かったよ」
「そ、そうなの!?」
来ると思ってたんだ?
ロイとセイラは仲が悪いのに、妙に気が合ってる時があるんだよね……。
アサキはシチューの食器を片付けながら、ふふっと笑う。
「神様の啓示でミレイさんに会いに来たらしいです。そして、神様の采配で、ミレイさんを治療出来るミコトさんがここに呼び出されたと言っているそうです」
全部、神様で片付けようとしている!?
「まあ、神様が本当かどうかは分かりませんが、リオさんは聖女様に意見なんて出来ませんので、その治療の儀式を明日の朝9時からやることになったのです」
「治療の儀式!?」
ミコトは思わず叫ぶ。
「ミレイの医師団と第2の主要人物と第1の主要人物、そして聖女が見守る中、ミコトは神聖な治療を行うんだって……」
ロイは笑いを堪えながら言う。
「何その、神聖な治療って!?」
「聖女がそう言ったって……ごめん、俺も大げさな事態になったなぁって……」
ちょっと、セイラー!?
ミコトは頭を抱えた。
「聖女はミコトを聖女と同等の存在に押し上げるつもりなんだよ。恐らくだけど、聖女が『ミコトの命を狙うな』ってリオに言うのを止める、アレンさんたちの苦肉の策なんじゃないかなーと」
「なんで!? 神聖な治療をする聖女のような人? より、『治療の代わりに命狙うな』の方が分かりやすくていいと思うんだけどっ!?」
ミコトの言葉に、ロイとアサキは顔を見合わせる。
「ミコトさん個人が、リオさんに、『治療の代わりに命を狙うな』という交渉をするのはいいと思います。でも、聖女様が個人間の問題に関わって交渉するというのは前例がありませんし、恐らく、そういう存在の方ではないと思います」
アサキは淡々と言って、ロイを見る。
ロイは頷いた。
「聖女って、ミコトが考えるより、神様に近いんだよ。俺やリントやマリーは、聖女に振り回されて、時々忘れちゃってるけどね」
「セイラは、神様……」
確かにそうかもしれない。
異世界から召喚されてくる、あらゆる力を抑える能力がある少女は、人というより神様だ。
聖女であるセイラの言動は、この世界にとってはとても重いことなのだ。
セイラもそれを分かっていたから、リオの企みを知っていても行動を起こしたりはしなかったのだろう。
「もう、セイラには敵わないよ……」
ミコトの呟きに、ロイは「だね」と言って笑う。
「表向き、ミコトさんは、朝までここで禊をすることになっていますので、治療の成功のためにも、その間にロイさんから力をもらっておいて下さい」
アサキは真面目な顔をして言う。
み、みそぎ?
それって、身体を清めるヤツじゃなかったっけ……?
「今日は使用人には全員出払ってもらいましたので、先程の部屋で存分にしていただいて構いませんよ」
アサキはニッコリと微笑む。
ぎゃー!!
ミコトは、恥ずかしすぎて机に突っ伏した。
「ほら、これは大事なことなんだって! 明日、ちゃんとやれるように、ね?」
ロイは、ミコトの頭を撫でる。
「禊とは真逆な感じはするけど、私は治してもらう側だし、あえて言及はしないわ」
ミレイはベッドの上から言う。
真逆ー!
その通りだよっ!
「あ、ミコトさん、明日の朝7時に、ミコトさんの侍女のお二人がミコトさんの身支度に来ますので、それまでにして下さいね」
ミコトは顔を上げた。
侍女!?
ミコトの侍女とは!?
「ウミノさんとネルさんだよ。報告を政務棟に聞きに来て事情を知って、一緒に第2に来たみたい。今夜もミコトのメイクしたがってたけど、それは断ったんだ」
ロイは苦笑する。
「あの2人は侍女じゃないしー!」
むしろ、師匠と呼びたいくらいの2人である。
ロイはミコトをひょいと抱き上げる。
「それじゃあ、俺たちは行きますね。あ、お風呂借りてもいいですか?」
アサキとミレイは『どうぞ』と言い、嬉しそうなロイと、半泣きのミコトを見送った。
「さ、ミレイさんもそろそろ寝る準備を……」
「アサキさん、私と結婚って、本気なの?」
ミレイは天蓋を見つめている。
アサキは、ミレイのベッドに腰掛けた。
「本気です。ミレイさんが治っても治らなくても、結婚を申し込むつもりです」
「正気とは思えないわ。こんな問題だらけの何も出来ない女と結婚して人生台無しにするつもりなの?」
ミレイの声は震えている。
アサキはミレイの頭を撫でた。
「ミレイさんは、私の人生に意味をくれました。私はあなた無しではもう生きていけないんです。それに、私は割と何でも出来ますので、ミレイさんにはピッタリだと思いますよ」
ミレイは真っ赤になる。
「リオさんは、きっと全て分かっています。でも、どうしてもやり遂げたかったことがあったのでしょう。リオさんにはカーサさんがついています。ミレイさんは何も心配しなくていいのです。あなたは、リオさんの妻ではなく娘なのですから……」
ミレイは頭を撫でてくれているアサキの手を握った。
「パパ、処刑されるの……?」
アサキはミレイの細い手を握り返した。
「大丈夫ですよ。ロイさんとミコトさんを見たでしょう? あの2人が第1のトップなんですよ」
ミレイは弱々しく笑った。
「お兄ちゃん、変わってなかったなぁ……」




