181.ミレイの部屋へ
第1エラルダ国の教会に、アレンとカイルとゼノマ、リントとマリー、キダンとホシナ、ソマイとタリスが集まっていた。
神官の3人には席を外してもらい、セイラは祭壇の前に立っている。
セイラは全員の疲れた顔を見渡して、溜息をついた。
「まず、アイツとミコちゃんは無事ってことを伝えるね」
セイラの言葉に、全員、安心したようにハァーと息を吐く。
「私はアイツの事は、本気でどーでもいいんだけど、ちょっとミコちゃんを見ていられなかったから、神様に居場所だけでも聞こうと思ったんだよ」
全員、口々に「神様……」と呟いている。
「んで、アイツが第2のミレイちゃんといる事が分かったんだけど、ちょっとミレイちゃんの状況的に帰れなくなって困ってるって事を伝えてほしいって話をしてる時に、ミコちゃんが隣で怒りのパワーを出してきてね」
「そこにいたのか!」とオッサンたちは驚き、リントとソマイとタリスは「怒り……」と呟く。
「元々アイツはミコちゃんの言葉を受け取れるから、怒りパワーを必要以上に受け取って、ミコちゃんごと受け取っちゃったって感じ? 教会ってのもあったかもだけどさ」
セイラの軽い言い方に、全員よく分からない、という顔をしている。
キダンだけは、ロイの特殊能力(透視)を知っているので、それもありかなー、と納得していた。
「つまりさ、ロイ君とミコトちゃんは第2のミレイちゃんの家に一緒にいるってことだよね? 」
「そうなんだよ! アイツまたミコちゃんを連れてっちゃって、帰ってきたら処刑だよ!」
セイラのロイの処刑宣告はいつもの事だ。
ソマイとタリスも慣れてきていた。
「無事で良かったが、第2のリオの奥様の家とは……。ちょっと手が出しづらいな」
アレンは安堵の表情を浮かべながらも、溜息をついた。
「ロイさんは、リオの保身の為の人質って事ですよね?」
リントの言葉に、全員納得したように頷く。
今回のミコト襲撃事件と、闇組織壊滅で、必ずリオにたどり着くからだ。
リオもそれくらい分かっているだろう。
「もうさ、ついでにミレイちゃんの治療をやったらいいんじゃない? そんで恩を売ってミコちゃんを返してもらおうよ!」
セイラは怒ったように言う。
ロイが入っていない、と全員苦笑する。
「よし! 早速第2に行こう! 聖女のいきなり訪問だ!」
セイラは教会の出入り口に向かって歩き出した。
全員、ギョッとする。
「聖女様! いきなり訪問して、リオに何を言うつもりなんですか!?」
ゼノマが青ざめて叫ぶ。
「え? ミレイちゃん治してやるからミコちゃんの命を狙うんじゃねぇ! かな」
アレンとゼノマは、再び「あーっ」と叫んだのだった。
ミコトは放心していた。
ミコトには、思いがけない出来事が起きるとそれを夢と断定して、現実逃避する癖がある。
その癖をしっかり踏まえた上で、これは夢だと思っていた。
だって、ロイに抱きしめられている。
ロイがいなくなって、心配で心配で、夜も一睡も出来なくて、ご飯も殆ど喉を通らなくて、でも泣くことだけは絶対にしてはいけないと思っていた。
それだからなのだろうか。
ロイを思いすぎて、とうとうこんなリアルな夢を見るとは……。
抱きしめられている感触がしっかりあるし、ロイの心臓の鼓動も聞こえるし、セイラが嫌いだというロイの匂いもする。
ああ、もう少しこのまま……
「お兄ちゃんいい加減にして……。状況を説明してよ……」
呆れたような女性の声が聞こえて、ミコトは我に返った。
ロイの腕の力が緩まないので、横目で辺りを見回す。
見たこともない部屋だが、壁や床が白いので、聖女の部屋に似ている。
聖女の部屋より若干狭い室内には、桃色の可愛らしいソファと同じく桃色のローテーブル、食事用の4人掛けのダイニングセット、大きな本棚が3つもあり、本がびっしり並んでいる。
そして声の主の女性は、桃色の天蓋付きの大きなベッドに横たわっていた。
女性は茶色に近い金髪で、藍色の瞳、顔色が悪く、頬も痩けているが、かなり綺麗な人だ。
そして、お兄ちゃん、ということは……?
「ロイ、もしかして、ミレイさん……?」
ミコトが呟くと、ロイは「うん」と言い、腕を緩めた。
「ちょっと、いろいろあって帰れなくて……。心配かけてごめん」
ロイはミコトの肩に両手を置いて頭を下げた。
ああ、本物のロイだ。
ちゃんとロイの声だ。
良かった。
無事だったんだ。
ずっと我慢していたミコトの瞳から、涙がぶわっと溢れた。
「ごめん。ごめんね、ミコト……」
ロイはミコトの頬の涙を両手で拭う。
そしてミコトの顔にロイの顔が近づいて……
「だから、いい加減にして下さい! 実の妹の前で何やってるんですか!」
怒った男性の声が部屋中に響き渡り、ロイは溜息をつき、ミコトは顔を上げた。
ロイの後ろに25歳くらいの男性が立っている。
ブルーグレーの髪に明るいグレーの瞳、ロイより若干低いかもしれないが長身でなかなかのイケメンだ。
しかし、イケメンどうこうよりも、手にパンがたくさん入った籠を持っていることが気になる。
焼きたてなのか、ものすごくいい匂いが部屋中に広がっているのだ。
「パン……」
ミコトのお腹が、グゥーと音を立てたのだった……。




