176.ロイから受け取る力
第1の騎士団の練習場で、ミコトとソマイは木剣を持って向き合っていた。
「ミコトさん、指導という形でもいいでしょうか?」
ソマイの提案に、ミコトは頷く。
指導だったら、バレてもロイやリントに叱られないかもしれない。
「はい! よろしくお願いします!」
「それでは実力を拝見しますので、自由に打ち込んでください」
「ハイ!」
ミコトは元気良く返事をすると、ソマイに向かっていき、ロイの時のように、自分の出来る限りのスピードとパワーで木剣を打ち込んだ。
練習場にいた団員たちが、手を止めて「おお!」と言う。
しかし、予想通りだが、ソマイはミコトの木剣を全て受け流している。
「……なるほど」
ソマイは呟くと、ミコトの木剣を思い切り弾き飛ばした。
カァンと音が響き、木剣がミコトの右斜め後方に落ちる。
「あっ……!」
ミコトは急いで木剣を拾いもう一度構えたが、ソマイは左手を前に出した。
「ミコトさん、私に全力は出せませんか?」
「……え?」
ミコトは手を抜いてはいなかった。
どういうこと?
「クリスを倒した時や、昨日ロイさんを持ち上げた時のパワーは、私には出せませんか?」
ミコトは、ハッとなった。
あれは、ロイの力なのだ。
「あの、その……」
ミコトは言ってもいいか分からず、口籠る。
ソマイはその様子を見て、小さく息を吐いた。
「やめにしましょうか」
「えっ!?」
もう終わりなの!?
自分から誘ったくせに本気を出さないから怒らせた!?
でも、どう言ったらいいの?
交流戦の時にズルをしたようにも見えるし……。
そうこうしているうちに、ソマイは練習場から出て行こうとしている。
その後ろ姿を見て、ミコトはロイの言葉を思い出していた。
ソマイはミコトの情報も第2には言わないのだ、と。
「ソマイさん! あれは私の力じゃないんです! ロイの力を借りてるだけなんです!」
ソマイは振り向くと、微笑んだ。
「そうかなと思いました」
ミコトとソマイは、試合をやめて、応接室のソファに向かい合って座っていた。
応接室には、ベッドで寝ているセイラ、マリー、タリス、リントがいた。
「ミコト、バカみたいに笑えとは言ったけど、バカみたいに試合をしろとは言ってないけど?」
リントが呆れたようにミコトに言う。
「試合じゃなくて、指導……」
「一緒なんだよ!」
リントにピシャリと言われて、ミコトは「うう……」とうなだれた。
「あの、リントさん、私も誘いにのってしまいましたので、ミコトさんだけを責めるのは……」
「ソマイさん、もうバラしますけど、ミコトは試合をやるためなら何でもするんですよ。今回は何でした? 上目遣いからの手繋ぎですか? 胸を見せてきましたか?」
ぎゃー!!
ロイの力の事より、バラして欲しくなかった!
ミコトは顔を覆い、ソマイは驚いている。
「それは……、もう少し断れば、胸を拝見できたということですか。惜しい事をしました」
ソマイは真面目な顔をして答えている。
この人もちょっとズレている……。
リントはハァと息を吐いた。
「それで、ミコトの力の話でしたよね。俺はそれに関しては、ロイさんがいいと言っているなら別にいいけど……」
リントがミコトを見ると、ミコトは頷いた。
「ロイは、ソマイさんは私の情報は漏らさないって言ってたから……」
「はい。私は諜報員ではありませんので、友人であるミコトさんの情報を人に話したりは致しません」
『友人……』
リントとマリーとタリスは同時に呟く。
「ソマイさんと、友だちになったんだよ!」
ミコトの自慢げな言い方に、3人は曖昧に頷く。
リントは再び小さく息を吐くと、マリーをミコトの隣に座らせ、タリスをソマイの隣に座らせ、自身は丸椅子に腰掛けた。
「では、友人の友人は友だちってことで……。ミコトの力は、ミコトがロイさんから勝手に受け取って、コントロールして、肌の調子を良くするだの、徹夜するだの、会議室のドアを破壊するだの、主に無駄な事に使っています」
「言い方にトゲがありすぎる!」
ミコトは叫ぶ。
マリーはクスクスと笑っている。
ソマイとタリスは唖然としている。
「唯一、タメになる使い道は、治癒能力です。ミコトはこれまでに治療不可能な団員を、少なくとも2名治しています。しかし、これもロイさんが隣にいて力を受け取らないと成立しません。そして治療後、ミコトは必ず意識を失います」
リントの説明に、ソマイとタリスは頷く。
しかし、その顔はあまり納得はしていないようだ。
「あの、力を受け取るとは、どうやって?」
ソマイはミコトを見る。
「え? えーと、お話したり、手を繋いだり、とか……」
ミコトは顔を赤らめて目を逸らす。
リントもマリーも、なんとなく目を逸らす。
タリスは、それでイチャイチャしてるのか、と妙に納得する。
「そんな簡単な方法なんですか……」
ソマイが納得しかけたその時、応接室のドアがバターンと開いた。
そこには、ロイとキダンが立っている。
「それでも少し力は入るんですけど、キスしたり、抱き合ったりが一番入るんです! ね、ミコト!」
ロイの堂々とした宣言に、ミコトの視界は暗転した。
そこ、言う必要ないよね!?
みんなだって、聞かされても困るよ!
どうしてロイは、あんな辛い話をした後でも、天然素直イケメンなのだろう……。




