175.友人と試合がしたい
第1エラルダの中央政務棟の、尋問室に続く廊下を、ロイとキダンは歩いていた。
午後から尋問を行う……と言っていたが、時間が惜しいので、会議後、2人は早足で尋問室に向かっているのだ。
「ロイ君、ミコトちゃんは良かったの?」
キダンは、ロイの話に涙するミコトを思い出していた。
「はい。俺といると心配ばかりしてしまうと思うので」
ロイは振り向きもせずに言う。
「心配してない人なんていないけどね……」
キダンはポソッと呟く。
ロイは立ち止まって、キダンを見た。
「ありがとうございます。みんなが心配してくれて、俺は本当に恵まれているなぁと感じました」
キダンはアハハと笑う。
「本当に素直だよねー。でも、ミコトちゃんにもそう言ってあげれば良かったのに……」
「そうですね。でもミコトとは近すぎて、俺が何を言ってもやっぱり心配しすぎると思うんです。ミコトには俺のいなかった時期に自分で築いた人脈があるので、今回はそちらに任せます」
キダンは「なるほど」と頷いた。
そのための聖女とマリーね、と。
しばらく無言で歩き続け、尋問室の前に着いたところで、キダンは「あのさ」とロイに言った。
「レイさんは、リオの事好きだったのかな……?」
キダンの聞きたい事を察知し、ロイはふっと笑った。
「無理矢理……でないのは確かですね。母さんはリオより断然強いので」
「え! そうなの!?」
ロイは「はい」と笑う。
「曲芸団で剣舞をやる時に本格的に剣を習ったそうです。俺は剣術道場で飛び抜けて強かったのに、母さんに勝てたことはありませんでした」
「え、それ、めちゃくちゃ強いんじゃ……」
「そうですね。おそらく、今のミコトくらいだと……」
キダンは「うわぁ……」と青ざめる。
「レイさんが生きてたら、ミコトちゃんが試合を申し込んじゃうね……」
キダンの言葉に、ロイの頭の中で、母と嫁がものすごいスピードで剣を打ち合う光景が思い浮かんだ。
しかも、ロイがやめてくれと言っても2人とも一切聞かない、というオマケ付きの光景だ。
「ちょっ、キダンさん、やめて下さいよ! 想像しちゃったじゃないですか!」
ロイが顔を覆いつつ笑っているので、キダンは少し安心したのだった。
騎士団の救護班で診察を受けたミコトは、暇になった。
そもそも、狙われているので、用事もないのに外に出られないのだ。
ゆっくり休んでと言われたが、特に疲れていないし、診察でも何も問題はなかった。
騎士団の応接室には、何の娯楽もない。
というか、セイラと遊ぶ約束をしていたのに寝てしまったし……。
ミコトは応接室のベッドでスヤスヤ眠るセイラを見て、溜息をついた。
「ミコトもお裁縫やる?」
マリーはミコトが暇そうにしているのを見て、手に持っている針と糸を見せた。
「やれた方がいいとは思うけど……、今は、やりたくない……かも……」
ミコトがしどろもどろに言うのを見て、マリーはふふっと笑う。
マリーはミコトがお裁縫を嫌っているのを知っているのだ。
ミコトの得意なことと言えば、やっぱり格闘技や剣技で……。
ミコトはハッとした。
ロイに護衛対象が護衛と戦ってはダメと言われているが、確かにタリスは契約してる護衛だけど、ソマイは違うのではないだろうか……?
そういえば何故いてくれるのだろうか。
休暇はいつまでなのだろう。
この状況って、もしかして、ソマイにとっては時間がもったいないのでは……?
ミコトはニヤリと笑った。
友人を暇させるなんて、ダメですよね?
ミコトはドアを開けて、応接室の前にタリスと椅子に座って話をしているソマイに「あのー」と声をかけた。
「ミコトさん、どうかしましたか?」
ソマイは笑顔で振り向く。
「ソマイさん、私と試合でもしませんか?」
ミコトは笑顔で提案する。
ソマイは驚いた顔をし、タリスは顔をしかめた。
「ロイ先輩に、怒られると……」
「大丈夫です! ロイは午後からキダンさんと尋問なので、まだこっちには来ないはずです!」
ソマイとタリスは、怒られるのは分かってるのか、と肩を落とした。
「それに、タリスさんは契約があるから護衛だけど、ソマイさんは友人だと思うんです!」
タリスは「友人……」とソマイを見る。
ソマイは「そうですね……」と苦笑する。
「と、いうことなので、試合をしましょう! 前に約束したじゃないですか!」
ミコトは両手を胸の前で合わせて、お願いする。
ソマイは「ああ」と笑う。
「確かに約束はしましたね。果たせなくて申し訳ないとは思っていました」
ミコトは、もうひと押しだ! と直感した。
何せミコトは試合を断られることに関しては、もうプロレベルなのだ。
だから、どうやればOKが貰えるのかもなんとなく分かるのだ!
ミコトはスッとソマイの前に跪いた。
そして、ソマイを見上げる。
「私、ちょっと落ち込んでいて……。でもソマイさんと試合できたら、元気が出ると思うんです……」
「……!!」
ソマイは反射的に椅子から立ち上がった。
女性の上目遣いの破壊力と、落ち込んでいるけど自分といると元気がでる(若干違う)という言葉に、完全にやられていた。
「す、少しなら……!」
「ありがとうございます!」
ソマイとミコトが練習場の方へ歩いていくのを、タリスは呆然と見送った。
「あら、ミコトは相変わらず目的のためには手段を選ばないのね」
マリーが出てきて、ウフフと笑う。
「あれ、いいんすかね……?」
「どうかしら? でも、服を脱がなかっただけ、ミコトも成長したわ」
「服を、脱ぐ……?」
マリーの言葉に、タリスは、女怖すぎる! と青ざめていた。




