174.ソマイの迷い
第1エラルダ国、政務棟の会議室。
ロイの妹のミレイの話と、8歳のロイが体験した悲しくて辛い出来事と、ミレイの父親が第2の代表のリオだということに、全員言葉は少なかったが、かなり衝撃を受けていた。
聖女であるセイラの「ミコトがミレイの病気を治してリオに恩着せて命を狙うのをやめてもらおう!」作戦? に、第1の面々は概ね了承雰囲気だ。
しかし、第2の騎士団長であるソマイは押し黙ったままである。
「ソマイちゃんさぁ、立場があるのは分かるけど、ミレイちゃん死んじゃったら元も子もないよ? 私がミレイちゃんの病気を治すって名目にして、第2に繋いでほしいなー。ま、私は誰の病気も治せないけどね」
セイラは相変わらず軽い口調でソマイに言う。
口調は軽いが、聖女が行くのが一番良い策であるのは間違いない。
セイラはやっぱりすごい。
ロイの事を嫌っているけど、妹のミレイを助けようと動いている。
「……聖女様は、どうしてそこまで……?」
ソマイは顔を上げてセイラを見る。
「そんなの、ミコちゃんのために決まってるじゃん!」
セイラの堂々とした発言に、第1の面々は「やっぱりね」と溜息をついた。
ソマイは驚いた表情をして瞬きをする。
「そんな、聖女様は私情は挟まないと伺っていますが……」
「え? 私は私情でしか動かないよ?」
セイラのキョトンとした態度に、アレンとゼノマは「あー!」と叫んでいる。
「昨日さ、ミコちゃんが狙われたじゃん? マリーと一緒で、私も一歩も動けなかった。私は聖女なのに、ミコちゃんを守れないんだって思った。ミコちゃんを守るためなら私は何だってやる。アイツだってそうだよ。ソマイちゃんはそうじゃないの?」
ソマイは愕然としていた。
昨日から聖女には驚かされっぱなしだったが、言っていることはめちゃくちゃなのに、核心をついてくるし、一本筋が通っている。
ソマイは、そのために第1に来た事を思い出していた。
「……私からは2番目の奥様に関して申し上げることは出来ませんが、聖女様をお繋ぎすることは出来ます。リオさんは聖女様を崇拝していますので……」
「よし! ソマイちゃんよろしく!」
ソマイは苦笑すると、ミコトを見た。
「ミコトさんを疑う訳ではないのですが、病気を治すなんて本当に出来るのでしょうか……?」
ミコトはハッとした。
そういえば、今まで治したのは怪我だった。
ミコトは慌ててシーマを見る。
シーマは微笑むと「私からご説明します」と立ち上がった。
「ミコトさんは先日小隊長3人の怪我を治療しましたよね。実はハリーさんには持病があったのですが、それまで治っていたのです。なので、理論上は治せると思いますが、確約は出来ません」
なんと! ハリーの持病を無意識に治していたとは!
「あの、ハリーさんの持病って……」
単なる偏頭痛だったら、ミレイの大病を治す自信がない。
いや、真面目で神経質な性格だから、胃痛かもしれない。
「あ、胃潰瘍、ですね」
「う、予想通りでした……」
ミコトとロイとリントは、何となく胃を押さえた。
「ミコトさん、胃潰瘍もバカに出来ない病気ですからね」
「は、はい!」
ミコトはビシッと姿勢を正した。
シーマは医学に関しては厳しいのである。
「ですが、闇雲にミコトさんの能力を体が弱っているミレイさんに使う訳にはいきません。私も伺って出来ればそちらの医師団とお話がしたいです」
シーマの言葉に、ソマイは首を横に振った。
「すみません、まずは、聖女様だけでお願いします。私には、2番目の奥様に関して何の権限もありませんので……」
辛そうに目を伏せるソマイを見て、全員、それは本当なのだなと感じていた。
ミレイの事は、第2の人にも秘されていて、ソマイもよく知らないのかもしれない。
会議室が沈んだ雰囲気になったところで、ロイが「それでは今後の動きを……」と言った。
「本日午後から、昨日の襲撃犯の尋問を俺とキダンさんで行います。タリスはミコトの護衛をお願いします。リントはいつも申し訳ないけど、騎士団をお願いします。アレンさんは第2に聖女が会いたがっている旨の手紙をお願いします。ホシナさんは引き続き見張りの指示をお願いします」
ロイはソマイを見る。
「ソマイさんは、強制はできませんが、ミコトをお願いできたら……と思っていますが……」
「はい。私は昨日話した通りですので……」
ロイは「ありがとうございます」と頭を下げると、今度はミコトを見た。
「ミコトは、今日はもう、聖女とマリーと一緒にゆっくり休んで。これも仕事の内だから」
「はい……」
ロイはミコトを心配しているのだろう。
でも、ミコトはロイが心配だ。
あんな辛い過去を思い出して、話して、平気な訳がない。
でも、先程のように、ミコトにボロボロ泣かれても困る、というのも分かっている。
ミコトは会議のメンバーを見渡した。
話の途中であんなに泣いていたのはミコトだけである。
感情のコントロールも出来ないなんて、本当に子どもで嫌になる。
「あの、ミコトさんは一度救護班に来ていただけませんか? 前回の診察から半月以上経っていますし、昨日も倒れたと聞きましたので……」
シーマの提案に、ロイは「お願いします」と頭を下げた。
診察が必要なのはロイの方じゃないの?
なんて、きっと、余計なことなんだろうな……。
会議が終わり、各々次の行動をとるために会議室を出ていく。
ロイもキダンと何か話しながら出て行く。
ミコトはそれを目で追いながら、なんとなく寂しさを感じて、小さく息を吐いた。
今朝までずっと一緒にいたのに、何でこんなにもっとずっと一緒にいたいのだろう。
これは、ロイの事を心配しているのだろうか。
それとも、ただのミコトの欲望だろうか。
闇組織調査の時からだが、こんなに自分が嫉妬深くて、束縛が強いなんて思わなかった。
ミコトが顔を上げると、ふと、リントと目が合った。
「救護班に行くんだろ?」
リントの言葉に、ミコトは小さく頷く。
リントは、はぁと息を吐いた。
「前に俺が言った事覚えてないの?」
「……前に言った事?」
ミコトは首をかしげた。
「バカみたいに笑ってればいいって言った事だよ」
ミコトは「あー」と苦笑した。
「バカみたいに」ってひどいと思ったっけ。
「無理に笑えとは言わないけどさ。ロイさんは、ミコトが笑っているだけで幸せなんだよ。だから、聖女とマリーと話して、しっかり休め」
リントはそう言うと、さっさと会議室を出て行った。
その様子を見て、マリーとセイラはクスクスと笑う。
そっか。
また、みんなに心配かけていたのか……。
ミコトはぐっと手を握りしめた。
「セイラ、マリー、救護班まで一緒に来て!」
ミコトが笑顔でそう言うと、セイラもマリーも笑顔になった。
「ミコちゃんは世話が焼けるなぁ!」
「みんなで行きましょうか」
女性3人の後を、ソマイとタリスは黙ってついて行った。




