170.ロイの傷
襲撃のあった聖女の部屋で、タリスの「ロイの母親が亡くなる前に第2の代表であるリオを見た」発言に、誰もが息を呑んでしまっていた。
最初に声を絞り出したのは、ソマイだった。
「な、なんでリオさんが……? 見間違いでは……?」
タリスはハァと息を吐いた。
「俺、キダンさんが言った通り、人の顔忘れないんです。これ、相手は俺のこと忘れてることが多いから、結構キツイんすよ……」
「ごめん……、タリス……」
忘れている代表のロイは謝っている。
「ロイ先輩は、当時から忘れっぽかったから、あまりショックではなかったんすけど……。ああ、リオ、さんの話ですよね。俺、冒険者の仕事で第2に行った時、なんかお祭りやっていて、リオさんを見たんです。ちょっと老けてたけど、コイツだって分かりました」
「それ、何年前の話?」
キダンはタリスに質問する。
「2年前です。北の大地が、ロイ先輩のせいで儲からなくなったんで、別の仕事受けたんです」
「本当ごめん……」
またもやロイは謝っている。
「なるほど、それでリオの2番目の奥さんを調べたんだ?」
キダンの言葉に、タリスはうつむいた。
「はい、まあ、俺の調査力じゃ何にも分からなかったんすけどね……」
「何故、リオさんの2番目の奥様をしらべるんですか!?」
ソマイはガタッと席を立った。
「ソマイ君って、2番目の奥さんに会ったことある人? ミレイさんで合ってる?」
キダンはソマイを真っ直ぐ見る。
ソマイは、サッと目を逸らした。
「私はロイさんとは腹を割って話しました。ですが、これ以上は第2のことで何かを言うつもりはありません!」
ソマイの断固たる態度に、ミコトは、アレンが言っていたことを思い出した。
リオを決して裏切らない。
ソマイはミコトを助けてくれたが、味方ではないのだ。
「……っ!」
ロイは頭に刺すような痛みを感じ、再び頭を押さえた。
「ロイ……!」
ミコトはロイの頭に触れた。
柔らかい金髪がミコトの手を包む。
「これ以上はロイ君の負担が大きいか……」
キダンは呟いた。
確かにそうだ、とタリスも頷く。
「ロイ、傷がある……」
「……え?」
ミコトの呟きに、ロイは顔をあげた。
頭の奥に、傷がある。
見えないはずなのに、見える?
これが、頭痛の原因?
アリアンの治癒力でも治らない傷?
「ミコちゃん……」
セイラはミコトの名前をただ呟いていた。
ミコトは無意識に、この傷を治さなければと思っていた。
本当はロイに確認しなければいけなかったのに、それはしなくてもいいことで、治療をしなければいけないと思っていた。
何か、あたたかいものが、ロイの頭の中に入ってくる。
ロイは、治療されている側はこんな感じなのか、と冷静に思っていた。
その様子を見ていた、ソマイもリントもキダンもタリスもマリーも、何をやっているか分からなかったのに、ただ見守らなくては、と思っていた。
どれくらい時が経ったのだろう。
治療の力を使うといつもそうだ。
時間がよく分からなくなる。
それで、治る頃、意識が遠のくのだ。
後ろに倒れていくミコトを、ロイは受け止めた。
「なるほど……。これは倒れても仕方ない……」
ミコトは外傷だけでなく、いわゆる心の傷まで治せるのだ。
相手がロイだから、かもしれないが……。
「ミコトさん!?」
駆け寄ろうとするソマイをリントは止めた。
「ミコトは大丈夫です」
「大丈夫って……」
「ロイさん、それで治ったんですか?」
ソマイの言葉を遮り、リントはロイに声をかける。
「うん。頭痛も治ったし、全部思い出したよ。ミコトはすごいね……」
「え、どういう事っすか?」
「どういう事ですか!?」
タリスとソマイの言葉が重なる。
ロイは「うーん」と唸った。
「今話すとミコトには後で知らせることになるよね。説明は明日でもいいかな?」
「ロイさん、記憶の話は明日でいいんですけど、2人が知りたいのは、ミコトに何が起こったかだと思いますよ」
リントの言葉に、ロイは「うん」と言った。
「それも、ミコトに言ってもいいかきくから、明日で……」
「私は、ミコトさんの意思を尊重します。明日この場所でいいでしょうか?」
ソマイの即決に、タリスも慌てて頷く。
「場所は政務棟の会議室にしない? ここ椅子が少ないよ! オジサンは立ってるの辛いんだよ!」
キダンは手を挙げながら言う。
リントは「分かりました」と言って一歩前に出た。
「それでは明日10時に政務棟の会議室で。アレンさんたちにも声をかけます。聖女とマリーは今晩から以前のように騎士団応接室でお願いします。ロイさんは……どうしますか?」
セイラは「またぁ!?」と文句を言っている。
ロイはセイラをチラリと見た。
「俺は、ミコトと自宅に帰る……でもいいでしょうか聖女様……」
セイラはロイをギロリと睨んだ。
「仕方ないじゃん! ミコちゃん回復させなくちゃいけないし! このどすけべ野郎が!!」
この光景に、唖然としたのは、ソマイとタリスだった。
リントはコホンと咳払いをする。
「えーと、聖女様はロイさんが嫌いなんです。いつもの事なので気にしないでください」
ソマイとタリスはかろうじて頷いた。
「なんか、リント君も大変だねぇ……」
キダンの呟きに、マリーも思わず頷いていた。




