169.タリスが知っていること
ロイを抱えたソマイが、2階の聖女の部屋に戻ってきた。
聖女の部屋にいた全員、ミコトとセイラとマリー、リントとタリスとキダンは、その光景に驚いた。
「ロイ!?」
ミコトは咄嗟に駆け寄ろうとしたが、その腕をリントが掴んだ。
振り向くと、リントは険しい顔をしている。
「どういう事でしょうか……!」
「リント……、違うんだ……」
ロイは声を絞り出す。
リントの手が緩んだので、ミコトはロイのところへ走った。
「大丈夫!? 何があったの!?」
ミコトはロイの顔に手を当てる。
「ちょっと昔のことを思い出そうとしたら、頭が痛くなって……。あ、ミコトに触られると楽かも……」
ロイは息を吐いて目を閉じる。
アリアンの特性上、ミコトが触ると力が出るようだ。
それなら……!
「ソマイさん、私がロイを運びます!」
ミコトがドヤ顔で言うので、ソマイは驚く。
「いえ! ロイさんは重いのでミコトさんには持てない……」
「んしょっ!」
ソマイの言葉を聞かず、ミコトはロイをお姫様抱っこした。
ロイの力を腕に集中させれば、これくらい軽いものである。
「ちょっ! ミコト! これ恥ずかしいっ!?」
ロイはギョッとして叫ぶ。
「大丈夫! 任せて!」
ミコトは笑顔で答える。
軽々とロイを運ぶミコトを、ソマイは呆然と見ている。
「あ、なんか、すみません……」
リントは疑ったことと、一応部下であるミコトの規格外な行動を、ソマイに謝った。
「ミコちゃんが、アホでごめんなさい」
「ミコトがすみません……」
「ミコトちゃんが天然でごめんね!」
セイラとマリーとキダンが次々と謝る。
「あ、いえ、力持ちなんですね、ミコトさん……」
ソマイは呆然としたまま、呟いた。
10分程経っただろうか。
ロイは「だいぶ良くなった」と、寝ていたソファから起き上がった。
ミコトはずっと握っていたロイの手を離してロイの隣に座った。
本当は膝枕をするつもりだったのだが、ソマイを除く全員に、止められたのだ。
イチャイチャじゃなくて治療なのに、認めてもらえなかったのである。
「ロイ君、昔の事って、8歳までの記憶がないとこ?」
キダンの質問に、ロイは頷く。
「ロイさんは記憶喪失なんですか?」
テーブル席に座っているソマイが尋ねる。
「はい。実は……」
ロイは苦笑する。
やっぱり記憶がないんだ、とミコトもリントもうつむいた。
セイラとマリーも顔を見合わせている。
「僕さ、ロイ君から記憶調査の依頼を受けてるんだよね。今の仕事が終わってからのつもりだったけど、ちょうどいいから少し聞いてもいい?」
キダンはそう言うと、タリスを見た。
「俺っすか……」
タリスはハァと息を吐いた。
「ロイ先輩がいいなら話すけど、こんな、人いっぱいのとこでもいいの?」
タリスの言葉に、ロイは笑った。
「いいよ。むしろ一人で聞くのは嫌だな」
「そっか……」
タリスは呟くと、キダンに向き直った。
「俺はロイ先輩より年下なので、記憶が曖昧なところもあるんすけど、はっきり覚えているのは、ロイ先輩が死んだお母さんを背負って山を降りてきたところです」
タリスの話はこうだった。
ロイと母親のレイは、ロイが2歳の頃から同じ村に住んでいたが、レイの熱狂的なファンが村に訪れるようになり、それを避けるため、山道もない山奥にレイとロイは引っ越した。
ロイは5歳からタリスと同じ剣術道場に通い出し、その強さは圧倒的だった。
ただ、ロイの家は山奥なので、誰もロイの家に行く事はできなかった。
「俺は剣術道場でも強い方だったこともあって、割とロイ先輩と仲が良かった……と思うんです。ロイ先輩は俺に一度だけ、妹の話をしてくれて……」
『妹!?』
全員がロイを一斉に見る。
「あー、やっぱり妹か……」
ロイは弱々しく笑った。
「でも、俺の母ちゃんを含め、誰にきいても、ロイ先輩の妹なんて知らないって言われました。実際、ロイ先輩が亡くなったお母さんを運んできた時も、妹はいませんでした」
タリスはうつむいた。
「タリス君、レイさんを運んできた時のロイ君の様子を覚えてる?」
キダンは真剣な表情でタリスを見ている。
「……血だらけ……でした。でも、大人たちが、ロイ先輩には傷一つないって言ってて……」
タリスの言葉に、ミコトは口を手で押さえた。
怪我は、アリアンの治癒力で治ったのだろう。
でも、その前に、誰かに酷く傷つけられたんだ……!!
まさか、レイさんも……!?
「みんな、勝手な想像はちょっと待ってね。レイさんは、間違いなく病死なんだ。心労って言ってるのは、病名が分からないからなんだよ」
キダンは全員の表情を読んだのか、慌てて説明をする。
「キダンさん、もう調べてたんですか?」
ロイはキダンを見た。
「まぁね。だって今回の仕事、僕ヒマだったからね」
キダンはアハハと笑った。
「でも、妹は初耳だな。あと、血だらけのロイ君の話もね。タリス君、あと覚えてることある?」
タリスは何故か、ソマイをチラリと見る。
「山奥に入っていく、おじさんたちがいました。ロイ先輩のお母さんのファンなんだろうと村の大人たちは話してました。でも、ロイ先輩のお母さんが亡くなった後、誰もその話をしなくなって、多分調査にきた人?っぽいヤツに、誰も見てないって母ちゃんが答えていた時、俺、子ども心におかしいなって、でも確信が持てなくて……」
「タリス……」
ロイはタリスを見て表情を和らげた。
タリスは、この頃から、優しい少年だったのだ。
「前から思ってたんだけど、タリス君はかなり記憶力がいいよね。おじさんたちの顔も覚えてるんじゃないの?」
キダンは淡々とタリスにきく。
タリスは、「はい」と頷いた。
「何人かいたけど、一人は第2の代表のリオでした……」
全員が、驚いて、声も出ない、そんな状態だった……。




