167.女性と話したい
「はい。コレで話せるよ」
黒ずくめの男5人からの襲撃にあった聖女の部屋で、ソマイの額に手を当てていたセイラはそう言った。
セイラはあらゆる力を抑えることが出来るので、ソマイの女性を惚れさせてしまう力も抑える事が出来るらしい。
マリーはソマイの目の前に立つ。
リントはマリーの肩を支えている。
「ミコトを助けてくれて、本当にありがとうございます。私、一歩も動けなくて……」
マリーはソマイに深々と頭を下げて声を震わせた。
リントも頭を下げて「ありがとうございます」と言う。
「いえ、聖女様とマリーさんにお怪我がなくて良かったです」
ソマイも頭を下げる。
襲撃の場面で、普通の女性であるマリーが一歩も動けないのは当たり前の事である。
それでもマリーは、ソマイにどうしてもお礼が言いたいと言い、セイラがソマイの力を抑えたのだ。
「私からも……、ミコちゃんを助けてくれてありがとうございました」
セイラもペコッと頭を下げる。
ソマイはたじろいだ。
「せ、聖女様! 頭を下げるなんてやめてください! 私の力も抑えていただいたのに……」
「あ、ソレ、明日になったら元に戻るよ」
「……え?」
ソマイはポカンとする。
「私の抑える力は、継続力? がないんだよ。毎日教会で祈るのもそのためなの。まあ、馬鹿……、んんっ、ソマイちゃんが明日もいて、私が起きてたらまたやったげるよ」
今、確実に、馬鹿イケメンって言おうとしてたよね?
言い直してもソマイちゃんだし……。
「聖女様……、なにか、雰囲気が……?」
「聖女様はこれが素なんですよ。ちなみに、明日、聖女様は確実に起きてないので、やってもらえないです」
リントは横から説明をして、ついでに明日の希望をも打ち砕いた。
ソマイはガクッと膝をついたのだった。
現在聖女の部屋には、ロイとミコト、セイラとマリー、ソマイとリントとタリスとキダンがいる。
捕縛した黒ずくめの男5人は、いずれも息があり、後から到着した騎士団員たちに連行された。
ハリーには報告のため政務棟に行ってもらっている。
「落ち込んでるとこ悪いんだけどさ、ソマイ君はどうしてここにいたの?」
キダンは腕を組みながらソマイに質問する。
ソマイは顔を上げてキダンを見た後、ミコトを見た。
「ミコトさんに謝ろうと思い……、でもどう謝っていいか分からなくて、聖女棟の周りをウロウロしていたんです。すると気配を隠した不審者が2階の窓から侵入するのを目撃しまして、咄嗟に私も中に入ったのです」
「え、謝る?」
ミコトはソマイに聞き返した。
何か、謝るようなことがあっただろうか。
ソマイは少し目を伏せた。
「私は、この力のせいで、10年以上、姉さん以外の女性と話をしていないのです。でも、ミコトさんにはこの力は効きませんでした。そんな女性は初めてでしたので、つい必要以上に話しかけてしまい……。そちらのタリスさんに言われて、気付いたんです。ミコトさんに、いつでもこの力が効かないという保証なんてないのに、危険な事をしていたのだと……」
ミコトは少しホッとしていた。
ソマイの気持ちは、やっぱり力が効かないという物珍しさだったのだ。
「だいじょーぶだよ! ミコちゃんも特異体質で誰の変な力も効かないから!」
ミコトの代わりにセイラが得意げに答える。
ソマイは安堵の表情を浮かべた。
「そうですか……。でも、やっぱり、すみませんでした」
「あ、あの……!」
ミコトが答えるよりも先に声を出したのは、意外にもタリスだった。
「10年以上、話してないんすか? その、女性と……?」
「はい……」
ソマイは再び表情に影を落とした。
キダンは「えー!?」と声を上げる。
「惚れさせてもいいから、話せば良かったんじゃないの? 僕だったら、その能力使いまくる……」
マリーからの刺すような視線に気付き、キダンは黙る。
ソマイは弱々しく笑った。
「そんな訳にはいきませんよ。騙しているようなものです。でも、私も男ですので、たまには女性と話したいなどと思ってしまい……」
「……分かる……!」
タリスは目頭を押さえて頷いている。
え、泣いてるの?
「ソマイさんも、同志だったんですね!」
何故かロイが同志とか言い出した!?
「僕も入れてよー! 僕もいつでも女性と話したい派なんだって!」
キダンは嬉しそうに手を挙げる。
まあ、これはいつも通りである。
その様子を見て、マリーは溜息をついた。
「リント、おバカな人たちを止めて話を進めてくれる?」
リントはハッとなり、慌てて頷いた。
「あの、気持ちは分かりますけど、ソマイさんの知っていることについて話しませんか?」
マリーバカのリントであっても気持ちは分かるんだ、とミコトは男性たちをボンヤリ見つめていた。




