165.ソマイは何しに?
武器屋で偶然ソマイに会った後、聖女の部屋に着くなり、ミコトとタリスは、同時に口を開いた。
「タリスさん、ソマイさんの力が分かるんですか?」
「ミコトさん平気!? アイツ変な力でミコトさんを……」
同時に喋ったため、お互い相手が何を言ったのか分からず、見合って、口をパクパクさせる。
「二人とも落ち着いて? まずミコトから話して、ね?」
見かねたマリーが、ミコトとタリスの間に入る。
ミコトは頷くと、武器屋でソマイと会ったこと話し始めた。
「ふーん、タリー君はアレが分かるんだねー」
セイラは、ベッドの上で、久しぶりのミコトに抱きつきながら、呟いた。
ミコトもセイラを抱きしめている。
「タリー君……? てか、聖女様とミコトさんは何で抱き合ってるんすか……?」
タリスは、ソマイの事より理解出来ない、という顔をしている。
「いつも抱き合ってるよ?」
セイラは平然と答える。
「そっすか……」
タリスは、やっぱり女性は分からない、と頷いた。
「タリスさんは、その力が見えるんですか?」
ミコトの質問に、タリスは「いや」と言う。
「実はAランク冒険者に、似たような力を持ってるヤツがいて、同じ空気……というか、雰囲気だったから……」
やっぱり、ソマイやチェコのように、不思議な力を持っている人が他にもいるようだ。
「そいつの力は、話す事で相手の体力をほんの少し回復させるっていう害がないヤツだったけど、さっきのソマイって人はもうちょっと嫌な感じがして……」
「話した女性を惚れさせてしまうらしいわ」
マリーが、タリスのカップにお茶を継ぎ足しながら言う。
「あ、ども……って、それ、ミコトさん平気なんすか?」
「ミコちゃんがそんなのに惑わされるわけないじゃん!」
ミコトの代わりにセイラが答える。
「ミコトはソマイさんの顔より、ロイの顔の方が好みなのよ」
マリーは真面目な顔をして言う。
「マリー!? あの、タリスさん、違って、いや、ロイの顔の方が好きなのは本当なんですけど、ソマイさんの力は私には効かないんです。ソマイさんもそれを知っていて話しかけてくるんです」
ミコトは慌てて言う。
「……そっすか」
タリスは呟く。
この半月で、ロイとミコトのイチャイチャぶりは嫌と言うほど見ているので、今更ミコトのノロケを聞いても動じないタリスであった。
「でもソマイは、ミコトさんのこと好きっすよね?」
ミコトとセイラとマリーの動きがピタッと止まる。
タリスは、またやってしまった!? と口を押さえた。
「タリー君はさ、どーしてそう思った?」
セイラは固まったままのミコトから離れて、タリスに向き直った。
タリスは口を押さえたまま、セイラから目を逸らす。
「や、ミコトさんが武器屋を出て行った後、アイツ泣きそうな顔をしてたんで……」
タリスの言葉に、セイラとマリーはウンウンと頷いた。
「ほらね! こんなに分かりやすいのに、ミコちゃんはチョロいくせに鈍感なんだよね!」
「でもだからって気にする事ないのよ、ミコト。ソマイさんは分かりやすいけど、結婚しているミコトに何か言う気はないわ」
すでに皆知っていることで良かった、とタリスはホッとした。
しかしミコトを見ると、放心して動かない。
「タリスさん、悪いのだけど、ソマイさんに会ったことをお祖父様やロイに報告してきてくれないかしら? ミコトの護衛は聖女棟の騎士たちがやるわ」
マリーの言葉に、タリスは頷いた。
ここは、女性たちに任せた方が良さそうだ。
聖女棟を後にしたタリスは、政務棟までダッシュしていた。
ロイに、ミコトに、悪いことをしてしまった、そんな気がしていた。
タリスが政務棟の会議室の前に到着すると、ちょうどドアが開いて、ロイとリントが出て来た。
ロイはタリスを見て驚く。
「あれっ!? タリスどうしたの? ミコトを送ったら今日はもういいって……」
「ロイ先輩! 第2の騎士団長のソマイってヤツにさっき会って……」
『ええっ!!』
会議室のドアから、アレンとキダンが出てきて驚きの声を上げる。
「何で、ソマイが……!? 一人か? どこで会ったんだ!?」
アレンがタリスに詰め寄る。
「タリス君ってソマイを知ってるの? あ、もしかしてミコトちゃんに会いにきたとか!?」
キダンは何故か嬉しそうにタリスに詰め寄る。
「え!? まさか本当にミコトに会いにきたの!? ソマイと何か話した?」
ロイも焦ったようにタリスに詰め寄る。
「あ、え……と……」
タリスは誰のどの質問に答えたらいいのか分からなくなった。
「ちょっと皆、落ち着いて下さい! もう一度会議室に戻りましょう。質問は後にして、まずタリスさんの話を聞きましょう!」
リントがタリスの前に立ち、全員に言う。
ロイもアレンもキダンも納得したように、会議室に戻っていく。
タリスはホッとして、副団長はいい人か? と後について行った。
タリスは全員、アレンとカイルとロイとリントとキダンとホシナに、ソマイと会った場所や話した内容を話し終えた。
全員、微妙な表情だ。
「結局、何しに第1に来たのか分からんな……」
アレンが溜息まじりに呟く。
「武器屋では一人でも、実は誰かと一緒かもしれませんしね」
リントは表情を崩さずに言う。
「俺はソマイの言った通り、本当に観光だと思うけど……」
ロイは腕を組んで言う。
「僕はミコトちゃんに会いにきたんだと思う!」
キダンはやっぱり嬉しそうだ。
タリスは、ロイとミコトに悪いことをしたと感じていたのに、キダンはロイをからかう気満々である。
「まあ、憶測ではいくらでも……。どうしますか? 見張りをつけますか?」
ホシナはマトモなことを言う。
「見張ろーよ! 今頃泣いてるかも!」
キダンは何か目的が違う。
「ああ、まあ、ソマイが悪事を働くとは思わんが、一応つけるか……」
アレンはキダンを見る。
「ソマイは生半可な尾行はすぐに気付いちゃうからねぇ。ま、僕が行くしかないか!」
そう言うと、キダンは席を立った。
「俺は聖女棟の護衛に入ります」
ロイも言いながら席を立つ。
「ロイ、闇組織調査をほぼ一人でやっていたんだろう? 大丈夫なのか?」
カイルは心配そうにロイを見る。
ロイはふっと笑った。
「大丈夫ですよ。ソマイがミコトに何かするとは思えませんが、俺は俺の出来ることを……」
突然、ロイの表情が険しくなる。
「ミコトが……! 危ない!」
ロイはそう言い残すと、瞬時に会議室の窓から姿を消した。
リントは席を立つ。
「カイルさん! 騎士団員を数名聖女棟に寄越して下さい! 俺はこのまま向かいます!」
「俺も行く!」
リントとタリスは、ロイの出て行った窓から、同じように出ていく。
「……カイル、窓から出ていくのは騎士団で教えているのか……?」
アレンは一瞬にして3人が消えた窓を見て呟いた。
会議室は3階なのだ。
カイルは「いや……」と言って、苦笑いをする。
「あの、僕も聖女棟に行くけど、ドアから出ていい? 足の骨折りたくないし……」
キダンの言葉に、あれは常識じゃない、とその場に残っていたアレンとカイルとホシナは溜息をついたのだった。




