163.ミコトがいないとダメで……
ミコトたちが仮面舞踏会に潜入した日から、2日が経っていた。
第3エラルダ国の闇組織調査の拠点の宿屋。
2階の4人部屋に、メンバー全員が集まっていた。
時間は午後5時。
椅子が足りないので、男性メンバーは全員立っている。
「今後の行動を発表します!」
2日間書類作成に追われていたキダンは、疲れを感じさせない声で言った。
「ロイ君の特殊能力による調査の結果、ケイの自宅の隠し金庫に、連絡先のメモが見つかりました!」
ウミノとネルがいるからだろうか。
キダンは闇組織という言葉を言わない。
そして、全員、納得のいかない顔をしている。
もちろん、ミコトも納得できない。
特殊能力って、一体何?
というか、隠し金庫の中を捜査できるのなら、仮面舞踏会に潜入する必要があったのだろうか。
「えー、皆、その顔やめてー。ロイ君の特殊能力は最終手段なんだよ。本人の負担が大きいし、何より内緒の能力なんだよー」
キダンの言葉を聞いて、全員がロイを見た。
ロイはサッと目を逸らす。
どうやら教えてはくれないようだ。
「と、いうことでぇ、直接その場所を調査します。場所は、北の大地でーす」
『北の大地っ!?』
キダンとロイ以外は、驚きの声を上げる。
北の大地と言えば、魔物をバンバン倒せるという、ロイが5年勤務した場所だ。
「いきなりその場所をぶっ潰したいところなんだけど、そこも仮拠点の可能性が高いんだよね。全ての拠点をぶっ潰さないと意味がないので、やっぱりロイ君頼みの調査になるんだけど、ロイ君は北の大地では有名人すぎて……」
タリスは大きく頷いている。
ロイは目を逸らしたままだ。
「ウミノちゃんとネルちゃんにロイ君の変装をお願いしたいんだけど、北の大地って、女の子にはちょっと危険なんだ。だから、この場所で、ミコトちゃんにメイクと変装のやり方を教えて欲しいんだよね」
ウミノとネルは顔を見合わせた。
「あの、ミコトさんに教えるのは全然構わないんですけど、ミコトさんは北の大地に行くってことですか? ミコトさんは強いけど、女の子ですよ?」
ネルの意見にキダンが何か言う前に、タリスは「俺も反対っす」と言った。
「北の大地は魔物が危険というより、そこにいる魔物目当ての荒くれ男たちが危険なので……、女性や……ちょっと小柄な男でも危ないっていうか……」
ミコトとウミノとネルは、小柄な男性が危ないとは? と興味津々でタリスを凝視する。
タリスは女性メンバーからの視線に気付いて目を逸らした。
「いや、俺は、そりゃ小柄な方っすけど、そんな奴らよりは強いんで……。え、と、だから、ミコトさんの護衛はするんで、ここに残った方が……」
キダンは、ハァーと溜息をついた。
「ロイ君、黙ってないで自分で説明してよー!」
今度は全員ロイを見る。
ロイは、目を背けたまま、「俺、ミコトがいないとダメで……」と小声で言う。
ミコトは真っ赤になり、ウミノとネルは、きゃあ! と言い、タリスとホシナは、呆れた表情になった。
キダンはロイの足をガッと蹴り飛ばす。
「それじゃ、ただのノロケでしょーがっ!? もう僕が説明してもいい?」
ロイは小さく頷いている。
キダンは、コホンと咳払いをした。
「ロイ君の家系はちょっと特殊で変な能力があるんだけどね、その力の元が、えーと、愛する人で……。いや、これ言うの、僕でも恥ずかしいよ!」
キダンは珍しく赤面して腕を組んだ。
アリアンの記録の本を8割程読み終わっているミコトは、「あ、そっか!」と声を出した。
「あ、ミコトちゃんは分かってるんだね!」
キダンはホッとした表情になる。
ミコトはウンウンと頷いたものの、確かにこの説明を皆にするのは恥ずかしい、とロイを見る。
ロイはミコトを見て微かに笑った。
アリアンの男性は、愛する人が出来ると、本来の力が出る……、いわゆるパワーアップするのだ。
その後は個人差があるようで、愛する人が出来たというだけで力が維持できる人と、毎晩イチャイチャしないとダメっていう人がいた。
ロイは封印が解けた後、特に何も言っていなかったので、ミコトは前者タイプなのだと思っていた。
ロイはふぅと溜息をついた。
「今回、その、特殊能力? を長時間使ってみて、昨日はかなり調子が良かったんだ。でも、今日は全然ダメだった……。よく寝た今日の方がダメって何でかなって考えて、それで……」
「も、もう分かった! この話は、いいよ! 皆さんも、触れないで下さい!」
ミコトは慌てて席を立って、ロイの話を止める。
そう、ミコトは昨夜、ロイとイチャイチャする事を拒んだのだ。
ロイと触れ合いたくなかったということではなく、闇組織調査中にそういう事をして寝坊することが嫌だったのだ。
ロイは残念そうだったけど、ミコトの意思を尊重してくれて、昨夜は別々のベッドで眠ったのである。
結果、特殊能力? があまり使えなかった、ということなのだろう。
アリアンの力って、すごいのだけど、愛する人と力の関係が、ちょっと恥ずかしい……。
ウミノとネルは再び顔を見合わせて、ウンウンと頷いている。
「あの、細かい事は分かりませんが、旦那様はミコトさんと一緒にいた方がいいって事ですよね。それでしたら、やっぱり私たちも一緒にいきたいです」
ウミノの言葉に、全員「えっ!?」と言う。
ネルは席を立った。
「私たちでしたら、毎日違う可愛いミコトさんを旦那様にお見せできます!」
ネルさん!? 何言っちゃってるの!?
「え、えーと……?」
ロイは顔を背けて、明らかに困っている。
キダンとタリスとホシナは開いた口がふさがらない。
「危険は承知です! でも、きっと、タリスさんが守ってくれます! ね!」
ウミノも席を立ち、タリスを上目遣いで見つめる。
「あ、ハイ。守ります」
タリスはアッサリ頷く。
タリスさん!? 落ちるの早くない!?
「そういう事でしたら、私も一緒に参ります。片腕ですが、元々騎士団員でしたので、お二人を守るくらいは出来ます」
今まで黙っていたホシナは、堂々と名乗り出る。
ホシナさん? 第3に残って闇組織の見張りをするのでは……?
「皆ちょっと待ってよ! そうなるといろいろ……」
キダンが困り果てた顔で言いかけたところで、ミコトは「あの!」と手を挙げた。
「拠点は北の大地から離れた場所にしたらどうですか? ロイなら、長距離でも短時間で移動できますし……」
ロイは「あ! その手があった!」と言い、キダンは首を傾げた。
「ロイ君の足が速いことは知ってるけど、どのくらいの距離をどれくらいの時間で行けるの?」
ロイは腕を組んで「えーと」と言う。
「先日、第4から帰った時は、第1に着いた時間……」
「3時間くらいだったよ。セタさんの実家の山から……」
ミコトが答えると、ロイは笑顔で「そうそう」と頷いた。
ミコトとロイ以外の全員が、ポカンとした後、『えええーっ!?』と叫んだ。
結局、北の大地に程近い、第5エラルダ国管轄の町に拠点を置く事になった。
北の大地に向かう冒険者が多い町なので、目立たないだろうという事だ。
この町から北の大地までは、馬車で2時間かかるのだが、ロイなら15分で行くことが出来る。
ミコトの通っていた小学校は徒歩20分かかったので、それよりも近くて便利……という事になる。
ちょっと意味が分からないけど。
とりあえず出発は明日ということになり、この日は各々部屋に戻って休む事になった。
ミコトは、ロイの特殊能力について知りたかったのだが、ロイは何故か教えてくれなかった……。




