162.ロイ好みのミコト
第3エラルダ国の拠点の宿屋。
ロイとミコトにあてがわれた部屋で、ミコトは大後悔をしていた。
ミコトは、ウミノとネルの手によって、初夜の黒バージョンの夜着を着て、初夜の時より子どもっぽいメイクをされ、いつものポニーテールに後れ毛を多めに出され、ロイから貰った真珠のカチューシャを付けられ、ベッドの上にいるのだ。
もう、これ、やる気満々すぎるっ!
初夜の時も恥ずかしかったが、あれは初夜という儀式だったから、まだ良かった。
今回は、闇組織調査の真っ最中なのだ。
ミコトに聞かせたくない重要で残虐な打ち合わせ(多分)をした後に、こんな浮かれた妻が部屋で待っていたら、お前何考えてるの? って雰囲気になるのは間違いない。
「着替え、着替えよう!」
ミコトは立ち上がり、服の入っている荷物をひっくり返す。
すると、コンコンとノックの音がした。
万事休すだ!!
隠れても、ロイにはすぐに見つかってしまうだろう。
そうだ、このロイのシャツを着れば、夜着を隠せる!?
ガチャリとドアを開けて、ロイが見た光景は、ひっくり返った荷物と、何故かロイのシャツを着て床にしゃがんでいるミコトだった。
ロイは、これが俺好みのミコトなのか……? と首を傾げ……、いや、なんか、いい!? と目を見張った。
いつものポニーテールであどけない表情のミコトが、自分の大きなシャツを着ているのだ。
胸の大きなミコトでも、さすがにぶかぶかである。
「お、お疲れ様! あの、これは、その……」
ミコトは、しどろもどろになる。
人の服を勝手に着てしまったのだ。
どう言い訳したらいいのか分からない!
ロイはミコトの前に行き、まじまじとミコトを見つめる。
ミコトはバツが悪すぎてうつむいた。
「うん、いいね……」
「えっ?」
ロイはミコトを抱き上げた。
どうやらミコトは、ロイのシャツの下に黒いワンピースを着ているようだ。
惜しい! 下には何も着ていない方が良かった! とロイはミコトに目で訴える。
ミコトはロイに見つめられて、思わず目を逸らした。
「あ、明日からの事って、どうなったの?」
ミコトの質問に、ロイはふっと笑う。
「忘れた」
「わ、忘れた!?」
いくらロイの記憶力が悪くても、たった今やった打ち合わせの内容を忘れるなんて、何かあったのだろうか……?
ミコトが心配そうにロイを見るので、ロイは思わず吹き出した。
「俺が言うと、冗談に聞こえないね……」
「あ、冗談?」
ミコトはホッとする。
「でも、今その話はしたくないっていうのは本当だよ」
そう言うと、ロイはミコトをベッドに寝かせた。
シャツを捲し上げ、中に着ているワンピースを見て、あっ、と言う。
「なるほど、二段階か……」
「二段階?」
ミコトはポカンとしている。
「ああ、この髪飾り、俺があげた、しかも、いつもよりメイクがちょっと子どもっぽいし……。俺、ロリコンじゃないって言ってるのになぁ」
ロイは溜息をつく。
ミコトは「だよね!」と言う。
「ロイはロリコンじゃないよね。私もそう言ったんだけど……」
「んー、でも、好みではあるかな……」
ロイは、キダンが「趣味や嗜好は自分でもどうにもならない」と言っていた事を思い出していた。
「私がもっと大人になったら、好みじゃない……?」
ミコトの心配そうな眼差しに、ロイは微笑んだ。
「俺の好みは、ミコトそのものなんだ……」
だから、ずっと、そばにいてほしい。
ミコトもロイも、同じ事を思いながら、唇を重ねた。
仮面舞踏会に潜入した次の日。
ミコトが目を覚ますと、すでに昼の12時だった。
当然、ロイは調査に出かけていて不在、キダンは書類作成の資料集めで不在、ホシナは闇組織の拠点捜査で不在、唯一宿屋に残っていたタリスは、ウミノとネルに護身術を教えている、というミコトにとっては、恥ずかしくて情けなくて死にそうな状況だった。
1階の食堂のテーブルと椅子を隅に寄せて、タリスが真剣にウミノとネルに護身術を教えている光景を、ミコトは、お腹が空きすぎてさらに死にそうだ、と思いながら眺めていた。
「あ、ミコトさん、起きてきた……」
タリスがミコトに気付き、ボソッと呟く。
ウミノとネルが、ミコトに駆け寄ってくる。
「ミコトさん、おはようございます! 聞きましたよ、朝まで寝かせてもらえなかったって!」
ネルがニヤニヤしながら言う。
「体、大丈夫ですか? 旦那様って、その、すごいんですね……」
ウミノは顔を赤らめて言う。
ミコトは目の前が暗転して、死にそうになった。
こんなに短時間で、何度も死にそうになることなんて、この先きっとおきない……と思うと同時に、闇組織調査中に、ロイとイチャイチャはしない! と心に決めたのだった。




