160.略奪愛の真相
第3エラルダ国の拠点の宿屋の4人部屋で、ロイとタリスは、ホシナから今回の闇組織調査の経緯を聞いていた。
キダンは相変わらず気絶したままだ。
「ロイさんはご存知だと思いますが、キダンの元妻は、闇組織に殺されています」
ロイは小さく頷き、タリスは気絶しているキダンを横目で見た。
「実は殺された元妻のルリは、私のイトコなのです」
「え! そうなんですね」
ロイは素直に驚いていた。
ホシナはマリーと血の繋がりがあるということだ。
「表面上だけ見ると、キダンは、当時結婚していたルリに手を出したドクズの略奪愛なのですが、実はそんなに単純な話ではありません」
微妙にキダンへの悪口が入っているな、とロイとタリスは苦笑する。
「ルリのキダンの前の旦那、名前をヒマルといったのですが、ヒマルは、闇組織へ連絡がとれる、いわゆる準メンバーでした」
「なっ!?」
ロイの驚いた様子に動じず、ホシナは、構わず話を続ける。
「ルリはヒマルから暴力を受けていました。酒を飲んだ際、殴る、蹴る、などです。」
「そんな……、守るべき妻を、殴る……?」
ロイは信じられないと言うように呟く。
タリスは目を伏せた。
「私は、ルリの傷を不審に思い、ヒマルを調べ始めました。諜報部門のツテも、職権濫用でしたが利用しました。その過程で、私の資料を盗み見たキダンは、ルリの存在を知ってしまった。キダンはルリを一目で気に入り、毎日のようにヒマルの目を盗んで会いに行っていました」
そこは、キダンっぽい……とロイは目を逸らした。
「もしかしたらルリを助けるつもりだったのかもしれません。ルリも若いキダンからの求愛に、次第にキダンに惹かれていったのだと思います。そうしてルリが産んだ子どもは、ヒマルの子ではなく、キダンの子でした」
ロイとタリスは目を泳がせた。
恋愛経験の少ない2人にとって、この話は理解の範疇を超えていたのだ。
「そこからのキダンは凄かった。元々優秀な男でしたが、各種文書を取り揃えて、暴力の事実も証明して、見事ルリとヒマルを離婚させたのです。私は正直ホッとしました。キダンはクズですが、女性に暴力を振るうことは絶対にしませんからね」
確かに、とロイは頷く。
キダンは、女性という存在を尊敬しているのだ。
「しかし妻を奪われたヒマルは激怒しました。闇組織準メンバーの立場を利用して、キダンの殺害依頼を出したのです」
「……よく、この人、生きてますね……」
タリスはボソッと呟いて、しまったとばかりに口を押さえた。
ホシナはふふっと笑う。
「本当にそうです。キダンは情報を常に掴み、上手く逃げていました。そうして、ヒマルの金が底をつきました。闇組織への依頼は高額なのです」
「準メンバーでもお金をとられるんですね」
ロイの言葉に、ホシナは「準メンバーは、結局はただの連絡係ですからね」と笑った。
「ちなみに、金銭が払えなかったヒマルは、口封じも兼ねて、闇組織に殺されています」
ホシナは何の感情も入れず、ヒマルの死を伝える。
「キダンはルリの身の安全のため、一度は結婚したものの、数ヶ月で離婚しました。私とキダンは、ルリを遠方の親戚に預けようと考え、護衛も兼ねて、私はルリと一緒に第5へ向かいました。そして、その旅路の途中で、闇組織に襲われたのです」
「……!? もしかして、その腕と目は……」
ホシナは頷いた。
「お察しの通りです。私は腕と目を負傷し、ルリを奪われました。ルリはその後、遺体で発見されました……」
ロイは奥歯を噛み締めた。
タリスも怒りが込み上げていた。
闇組織のウワサは知っていたが、タリスが思っていた以上に残虐だった。
「闇組織は、高額で殺害や拉致などの依頼を受けることと、見目の良い女性を強姦して殺害することを主にやっているのですが、この見目の良い女性には、さらに条件があります」
ロイは「条件?」と聞き返す。
「はい。その条件とは、悪事を働いている、もしくは、人には言えない事情や秘密がある、見目の良い女性です。美人なら誰でも良いという訳ではないのです。ルリは、その条件に当てはまってしまいました」
ホシナの言い方に、タリスは顔をしかめる。
「ルリさん、悪くないっすよね……?」
ホシナは首を横に振る。
「いえ、結局は、不倫なんです。そこは、ルリもキダンも分かっていました」
「ああ、だから、仮面舞踏会後の女性を狙うのか……」
ロイの呟きに、ホシナは「その通りです」と言った。
「キダンは、ミコトさんを二重に囮に使うことに反対しました。ロイさんの奥様ですし、何よりミコトさんも辛い目に遭っています。でも私は、何を差し置いても、闇組織を壊滅させたかった。ロイさんとミコトさんに恨まれても、2人が闇組織調査をしてくれるこの間に、何としてでも、壊滅させたいのです……!」
ロイはぐっと黙る。
「マリーが狙われるかもとキダンに言ったのも私です。マリーには全く非はありませんが、キダンとルリの娘というだけで、条件に当てはまるのでは、とキダンに言いました。そうすれば、ロイさんに相談すると思ったのです」
「そうですか……」
ロイは、息を吐いた。
実際、キダンが相談したのは、リントだった。
マリーの婚約者には、言っておかなくては、と思ったのだろう。
ホシナが言ったことならば、マリーが狙われる確率は低いかもしれないが、ゼロではない、そんな気がする……。
「ホシナさん、俺は難しいことが苦手なので、これからは、やってほしい事をそのまま言ってくれませんか? あと、ミコトには……、直接言うのはやめて下さい……」
ロイの言葉に、ホシナは大きく頷いた。
「申し訳、ありませんでした……」
ロイは、ふーっと息を吐いた。
「今の話で、ケイの立場が分かりました。ケイは闇組織と連絡が取れる、準メンバーですね」
ホシナは「おそらく」と頷き、タリスは「なるほど」と小声で呟いた。
「では、今日の尋問で分かったことの報告に移りましょうか。キダンさん、もう起きていいですよ」
ロイは腕を組んで、キダンを見る。
キダンは、渋々、顔を上げた。
ホシナとタリスは、やっぱり起きていたか、と苦笑する。
「だってぇ、なんか僕の話で恥ずかしかったんだもん!」
40歳のオジサンが、だもん、とか言っても、気持ち悪いだけである。
ロイとホシナは溜息をつき、タリスは、結構純愛な人なんだな、と思っていた。




