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異世界恋護奇譚 〜聖女のオマケ転移、狙われ少女の自立と結婚〜  作者: 三多来定


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16.冒険者登録

 成人祭の朝、祭の準備で慌ただしい町を横目で見ながら、ミコトは朝一の乗合馬車で隣町に出発した。


 そのため、聖女のお祈りの時間を狙ってミコトに謝りに来たロイは、聖女の部屋の前で、マリーの冷ややかな対応を受けることになっていた。


「あら、5年ぶりね。おかえりなさい。変態おバカさん」


「変態が付いた…」


 ロイは肩を落とした。


「ミコトなら、朝一で出かけたから、いないわよ」


「あー、そうなんだ。あのさ、ミコトの様子は…」


 マリーはふぅと溜息をついた。


「ずうっと泣いていたわ。触られた感触が残っていて気持ち悪いって(そこまでは言っていない)」


「ぐはっ…」


 ロイは一歩後ずさった。


 言われるだけの事をした自覚はあるが、女性に気持ち悪いと言われると、かなりショックである。


「ミコトは隣町に行ったの。ショックで変なことしなければいいけど」


「変なことって?」


 ロイには「変なこと」がよく分からない。


 首を傾げたロイを見て、マリーは呆れた。


「様子を見に行って、謝って来いって言ってるの! どうせ今日は休みで暇でしょ? そして全く疲れてないんでしょう?」


 ロイが国家特別人物である理由の一つは、人並外れた体力である。

 ロイは3日3晩戦い続けても、全く疲れないのだ。

 この体質はセタよりも上なのだが、マリー的には本来頭に使う何かを、体力にふっているだけだと思っている。


「そういう事か。じゃあ行ってくる。ありがとう、マリー」


 ロイはマリーに礼を言うと、小走りで去っていった。


「ミコトも、こんなに朝早く、何しに行ったのかしらね」


 そう呟いて、マリーはドアを閉めた。




 馬車に2時間揺られ、ミコトは隣町、ジラル町の冒険者登録所にいた。


 冒険者という名前だが、いわゆる何でも屋みたいなもので、仕事は掃除や薬草採取、人探しなんてのもある。


 ランクはA〜Eまであって、登録時は全員Eで、仕事に応じて昇格する。


「魔物討伐は、Cランクからです」


「そうなんですね」


 受付のお姉さんに説明を受けながら、ミコトは少しガッカリした。


 いきなり魔物とは戦えないらしい。


「あの、例えば薬草を採取している時に魔物に出くわして、倒しちゃったら、どうなるんですか?」


「魔物には核というものがありまして、倒すと核だけになります。それをお持ちいただければ、換金いたします」


 なるほど。

 探し出してウッカリ倒しちゃってもいいのか。


「3ヶ月間仕事の依頼を受けなかった場合、登録削除されますので、ご注意ください」


 3ヶ月なら、休みの日にこちらに来て、軽い依頼をこなせば、何とかなりそうだ。


「再登録の場合、ランクはEからになります。再登録できる回数は3回までとなっております」


「わかりました」


 ミコトは登録証を受け取ると、Eランクの依頼が貼ってある掲示板の前に立った。


 出来れば魔物に出くわしたいので、町中の清掃より、近場の森での薬草採取がいい。

 ミコトは傷薬になる薬草を採取する依頼の紙を剥がして、受付に持っていった。




 ジラル町を出て30分程の森の入り口に、傷薬の薬草が群生している。


 案外簡単ではあるが、根っこも必要なため、慎重に引き抜くことに、気力がとられた。


「よし、100本」


 借りた採取用の麻袋にそっと100本目を入れる。


「萎れないうちに、帰らなくちゃ」


 結局、魔物には出くわさなかった。


 これは、巡回の騎士団員や冒険者の方々がキチンと仕事をしているということだ。


 残念だがEランク冒険者が魔物討伐をする事は無さそうである。




「うーん、報酬は銀貨1枚か」


 薬草を冒険者登録所の受付に渡して、報酬を受け取ったミコトは考え込んでいた。


 森への行き帰りも入れると、薬草採取には約2時間かかっている。

 銀貨1枚は、日本円にすると、約1000円で、つまりは時給500円だ。

 騎士団のお仕事は、時給銀貨2枚なので、Eランク冒険者は騎士団の4分の1の給金ということになる。


「騎士団、給料良かったんだ」


 臨時団員のミコトで時給2000円なら、リントやロイなんて結構お金持ちに違いない。


 しかも、今のミコトは聖女のおかげで衣食住の心配がない。


 5年後、衣食住も自分で払うとなると…。


「が、頑張って、貯めよう。冒険者も、なるべくランクを上げとこう」


 ミコトはAランクの掲示板をチラッと見た。


 北の大地の魔物討伐の紙が貼ってある。


「討伐隊に参加で金貨2枚支給、魔物1体当たり、銀貨1枚〜金貨3枚? 結構幅広いなぁ」


 金貨1枚は約1万円だ。


 報酬の幅広さは、魔物の強さだろうか。


「北の大地は、酒場、娼館完備の楽しい職場。さあ、あなたも大儲け?」


 なんか、北の大地、楽しそう?


 娼館って、女の人と遊ぶところ?

 遊ぶって、何するんだろう。


 ミコトはあまり深く考えない様にして、冒険者登録所を後にした。




 ジラル町での今日の目的はもう一つある。


 とりあえずお昼ご飯を食べてから、目的のところへ向かう。


 ちなみにお昼ご飯のホットドッグと飲み物は、銅貨8枚かかった。


 銅貨1枚は100円なので、800円。


 ジラル町までの乗合馬車代が往復銀貨3枚(3000円)なので、完全な赤字である。


「しばらくは仕方ないか…」


 今日だけでなく、Eランクの内は、馬車代だけで赤字となる計算だ。


 お金を稼ぐって大変な事なんだと実感しながら歩いていると、目的のアクセサリーショップが目の前に見えていた。


 そう、今日のもう一つの目的は、15歳のお祝いに、セイラにアクセサリーを買う事、である。


 ミコトとセイラはこの国の成人祭には参加できないが、15歳が祝福されるべき年齢なら、ぜひお祝いしたい! とミコトは思っている。


 以前、地方巡礼でこのジラル町に来て、このアクセサリーショップを見つけた時から、そう思っていたのだ。


「いらっしゃいませ」


 店内には、色とりどりの石を使ったアクセサリーがたくさん置いてある。


「ふわぁ…」


 いつも男ばかりの騎士団で男物の騎士団の制服を着て働いているせいか、この空間がとても眩しく見える。


「これ、セイラの瞳の色に近い! あ、こっちはマリーのパープルだ」


 そうだ! マリーにも買っていこう。


 いつもお世話になっているし、自分にも買ってみんなでお揃いでつけるのもいいかもしれない。


 ものすごく悩んだ結果、セイラには、エメラルドグリーンの石が嵌め込まれた髪留め、マリーには同じデザインのパープルの石バージョンの髪留めに決まった。


 お値段は一つ金貨1枚。

 つまり10,000円だ。


 でも大好きな2人へのプレゼントだから、全然良い。


 問題は、自分自身へのプレゼントである。


 ミコトの瞳の色は黒なので、黒の石?


 でも髪の色も黒なので、髪に付けたら全く目立たない。

 そもそも髪留めだと、騎士団勤務では付けにくい。

 養成所訓練の仕事の時は、壊れてしまうかもしれない。

 いや、それを言ったら、指輪もネックレスもブレスレットもピアスも全部付けられない。


 ふと、隣のショーケースを見ると、青い石が柄に嵌め込まれた銀色の短剣が置いてある。


「剣? アクセサリーのお店に?」


 ミコトが不思議がっていると、店員のお姉さんがススっと近寄って来た。


「それは、男性から女性に贈る短剣なんですよ」


「剣を贈るんですか?」


「はい。その昔、王族や貴族の男性が、大切な女性を守ってくれる様、願いを込めて贈ったそうです」


「…それは、素敵ですね」


 つまり、ミコトには全く縁のない代物だということだ。


 剣なら自分にちょうど良いかも? と一瞬思ったが、そんなプロポーズみたいな短剣を自分で買うなんて、流石に出来ない。


「ミコト、それ欲しいの?」


 突然後ろから声が聞こえて、ミコトは振り向いた。


 なんと、何故か汗だくのロイが立っている。


「ロイ!? 何でいるの!?」


「いや、謝ろうと思って、捜してたんだけど、隣町ってことしか分からなかったから、ちょっと時間かかっちゃって」


 謝るために、こんな遠い所まで来たの!?


「ミコト、昨日は…」

「ま、待って! 昨日の事は、もういいから、その話はここでしないで!」


 胸揉んだとか、店内で言われたら、恥ずかしすぎる!


 ロイは少し困った顔をした後、ショーケースの中の短剣に目を落とした。


「あ、それなら、お詫びにこれ、ミコトに買うよ」

「いや! いらな…」

「お買い上げですか?」

 店員のお姉さんが、入ってくる。

「違いま…」

「はい。この子に」

「ありがとうございます!」


 何で誰もミコトの話を聞いてくれないのか。

 

 ミコトが短剣の値札を見ると、金貨30枚と書いてある。


「!? さ、さんじゅうまんえん!?」


「まんえん?」


 ウッカリ日本円で言ってしまったが、それどころではない。


「ロイ、ダメ、これ金貨30枚もする!」


「金貨30枚くらいなら、大丈夫だよ」


 30万円を安いみたいに言った!?

 

 やっぱりお金持ちだった!


「そ、そうじゃなくて、この剣は、男性が女性に贈るやつで…」

「それなら、あってるじゃん」


 あってる…のか?


 確かに、プロポーズに使いますと店員さんが言った訳ではないけど。


「お待たせしました」


 店員のお姉さんがにこやかにラッピングした短剣を持ってくる。


「いらなかったら、売ってくれてもいいし、受け取ってよ」


 ロイの言葉に、店員のお姉さんは驚いた顔をして、ミコトにそっと耳打ちをしてきた。


「素敵な人じゃないですか! 幸せになってくださいね」


 完全に勘違いされている。


 でも、売ってもいいのなら、将来お金に困ったら、売ればいいのかもしれない。


「ありがとう、ございます?」


 結局、ミコトは将来の不安と店員さんの勢いに負けて、短剣を受け取ることにした。

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