155.仮面舞踏会潜入
ロイとキダンとタリスは、第3エラルダ国の首都の外れにある、ちょっとした森の中の大きな館の中にいた。
館は、第1の国立宿泊所と同じくらいの大きさで2階建という豪華な建物だ。
「50年前に、すごく儲けた商人が建てたらしいよ。んで、その後商売に失敗して売却。今は国の所有だから普通のイベントにも使われるけど、この仮面舞踏会にも使われているんだ」
キダンの説明に、茶髪のウィッグを付けて目にキラキラとした仮面を付けたロイは顔をしかめる。
ちなみに、他人を装うため、タリスは別行動だ。
「じゃあ国が容認してるんですか? 不倫会を? 第1にもあるんですか、こういうの……」
「ロイ君は真面目だねー。表向きに不倫会なんて言ってる訳ないじゃん。あくまで、文字通りの仮面舞踏会なんだよ。あと、残念だけど、第1にはこういうのないんだよね。第1であるんだったら、僕だって第1のに参加するよ」
ロイは少しホッとした。
アレンが真面目な代表で良かった。
しかし、何故アレンの息子がキダンなのだろう……。
「あ、ほら、あれがケイだよ」
キダンは腕を組む動作をしつつ、ホールにいる男を指した。
男は170㎝程で銀髪の30歳前後の風貌だ。
「銀髪……」
ロイが呟くと、キダンはムッとする。
「人妻好きは銀髪なのかぁ、とか思ってるでしょ? 厳密に言うと、ケイと僕は全然趣味が違って……」
「あ、その辺は聞きたくないです」
キダンはチッと舌打ちをする。
ロイはキダンには構わずに、辺りを見回した。
男が22人、女が18人。
仮面で顔はよく分からないが、30〜50代が殆どのようだ。
「ミコトでは、若すぎて相手にされないんじゃ……」
「ロイ君ってホントにコッチ方面ダメダメだよねー」
今度はロイがムッとする。
「結局は年齢関係ないんだよ。仮面舞踏会なんて、顔もよく見えないんだから。雰囲気だよ、雰囲気。いい女の雰囲気、手を出したくなる雰囲気……」
「なおさら、ミコトじゃそんな雰囲気なんて出せない……」
キダンは驚いたようにロイを見た。
「本気で言ってるの? ミコトちゃんを束縛してるのに?」
「そ、束縛なんかしてませんよ! さっきの……、隠し武器禁止と言ったりはしますけど、ミコトには俺の言う通りにする必要はないって言ってあります。実際、隠し持ってたし……」
キダンは、ハァと息を吐いた。
「ま、いいや。実際に見たら分かると思うから。あー、タリス君、また別の女性に捕まってるなー」
ロイはホールにいるタリスに目をやった。
40代くらいの女性に誘われているのか、必死に断る仕草をしている。
この仮面舞踏会は、18時からなのだが、気に入った相手を誘って個室に行っていいのは19時以降と決まっている。
19時までは、食事とダンスと歓談を楽しむ、あくまで仮面舞踏会なのだ。
ミコトには、19時ギリギリに会場に入るよう伝えてある。
歓談やダンスを避けるためだが、それまでにケイが相手を見つけてしまったらアウトだ。
キダン曰く、それでも大丈夫らしいが……。
「あら! コランさんじゃない? お久しぶりね」
50代の女性がキダンに声をかけてくる。
アンタここでもコランを名乗ってるのか!? と、ロイは驚く。
「わあ! エマリさんだ! お久しぶりです!」
キダンはにこやかに挨拶をする。
エマリと呼ばれた女性は、ロイを見る。
「こちらの方は? 初めてかしら?」
「そうなんだけどさ、体調が悪いらしくて、もう帰ろうと思ってるんですよー」
この流れはカラスの時と同じだなと思い、ロイは口元を手で押さえて、気分が悪いフリをした。
「まあまあ、かわいそうに……。良かったらわたくしが介抱してさしあげますよ?」
ロイは思い切り首を横に振った。
キダンは、ロイの足をガッと蹴る。
「いやぁ、今日は帰りますよ。僕もちょっと万全じゃないんで……」
エマリは、あらそう? と言って、特に怪しむでもなく去っていった。
「ロイ君のその、素直な態度! 時に人を傷つけるからね!」
「ぐ……、すみません……」
入り口に向かうフリをするキダンの後を、ロイは肩を落としてついて行った。
タリスは壁の時計を見た。
時間は18時40分。
そろそろミコトが来る時間だ。
入り口付近で待ち受けた方がいいだろう。
タリスは飲み物をテーブルに置くと、入り口付近まで歩いて行き、溜息をついた。
結構、話しかけられた。
若いからなのか、初めてだからなのか、年上の奥様たちの気を引いたようだ。
昨日といい、今日といい、女性とこんなに話すなんて、あまりないことだ。
タリスが最近話した女性といえば、冒険者事務所の受付の女性なのだから。
もしかして、これが一生分の女性との会話だったらどうしようか……。
タリスが割と本気でそんな心配をした時だった。
入り口の扉から、金髪でネイビーブルーのドレスを着たミコトが入ってきた。
ミコトはキラキラとした仮面を顔に付けている。
付けているが、これはマズイ! とタリスは直感した。
先程のホールにいた女性たちと、まるで違う。
年齢が、スタイルが、ではない。
オーラが違うのだ。
話しかけなければ……!
タリスは、引き寄せられるように、ミコトに近づいていった。




