154.隠し武器
仮面舞踏会に潜入する当日の15時、第3エラルダ国の拠点の宿屋の4人部屋で、ロイとタリスとキダンは用意してあったタキシードに着替えていた。
ノックの音が響き、準備を終えたミコトが姿を現すと、男性メンバーたちは、思わず歓声を上げた。
金髪のウィッグを付け、濃いブルーの細身のカクテルドレスを纏ったミコトは、まさに、20歳前後の超美人の人妻だったからだ。
「いいねぇ! これは、予想以上だよ!」
キダンは驚きを隠さず賞賛する。
「おお……! ロイさんの奥様でなかったら、口説いています!」
ホシナも、もしかしたら金髪なら何でもいいのかもしれないが、大絶賛である。
「え、どういうこと? 誰……?」
タリスは、ミコトと分からないようだ。
ミコトはロイを見る。
ロイはふっと微笑んだ。
「うん。ミコト、すごく綺麗だよ」
結婚式の時と同じ、薄い反応の褒め言葉。
でも、いいんだ。
この格好は、ロイに向けたものじゃない。
ロイには、夜のミコトで勝負するんだ。
「ミコトさん、スッゴク綺麗ですよね! 今回は仮面舞踏会で瞳が隠れますので、思い切って金髪にしてみました!」
ネルが自信満々に説明すると、ホシナは「ありがとうございます!」と頭を下げた。
別にホシナの為の金髪ではない、と全員が苦笑いする。
「ミコトさんの肌は陶器のように綺麗なので、ノースリーブで胸元は谷間がやや見える程度、スリットは深めのネイビーブルーのドレスにしました!」
ウミノもドヤ顔で説明する。
タリスは小声で「え、やば……」と呟く
何がヤバイのだろうか。
「これは、男が群がっちゃうかもねー。タリス君、よろしく頼むよー?」
キダンはタリスの肩をポンと叩く。
タリスは、ミコトから目を逸らし、「あの……」と言った。
「今さらっすけど……、この囮訳、別に他の女性でも良かったんじゃないすか? 完全護衛体制な上、なんていうか、変装レベルのメイク技術だし……」
確かに、言われてみれば、そうかもしれない。
ウミノとネルの技術なら、誰でも美人に出来るだろう。
これが、ミコト一人なら、ミコトも普通の女性よりは強いので理解できるが、わざわざAランク冒険者を護衛で雇っているのだ。
キダンはアハハと笑った。
「タリス君は、若いなぁ! 人妻好きを長年やってるとね、人妻かそうでないかは、なんとなーく、におい? で分かるんだよー」
「に、におい?」
タリスは顔をしかめ、ミコトとウミノとネルは、一歩後ずさりをした。
「仮面舞踏会って、実は既婚者狙いの未婚の男女の参加も多いんだ。僕もそうだしね。そんな中、ケイは必ず、人妻を個室に連れ込むんだよ。すごくない?」
男性メンバーは頷いているが、女性メンバーは、ドン引きしている。
「仮に、ウミノちゃんやネルちゃんを参加させても、人妻じゃないからケイは釣れないんだ。ハイ、ここで問題です! 若い人妻が、この捜査の協力をしてくれるでしょうか?」
ウミノとネルは「旦那様いたら出来ないよねー」と小声で言っている。
タリスは、「金次第?」と答える。
何だか、ミコトがお金で引き受けたみたいで、微妙である。
「正解は、旦那が許さないので無理! でした!」
キダンの答えに、「俺も許した訳じゃないですけど……」とロイは言っている。
その様子を見ていたホシナは「あと……」と呟いた。
「こういう会というのは、危険な上に、ハマってしまうんですよね。だから、一般の方にこのような依頼は諜報部門ではしないのです」
あ、なるほど……と、全員納得の表情を浮かべた。
「そうそう。仮面舞踏会って、結局メンバー大体一緒なんだよねー。みんなハマってるんだろーね」
ハマってる一人が何を言ってるんだか……と、全員肩を落とす。
「まぁ、了解です。仕事はキッチリやります」
タリスはそう言うと、小型のナイフをバラバラと袖から出した。
あんなにたくさん袖に仕込んでいたのか、とミコトは目を見張る。
「それじゃあ旦那様のウィッグを……」
「あ、待ってください」
ネルの言葉を遮って、ロイはミコトの前に立った。
そして、ミコトのスカートの中に手を入れる……
「ロイ先輩っ!?」
「ちょ、ロイ君っ!?」
タリスとキダンの驚愕の声が響く中、ロイはミコトのスカートから手を出した。
手には、小さなナイフを3本持っている。
「やっぱり、こんなところに仕込んでる! 隠し武器は禁止って言ったよね?」
ミコトはサッとロイから目を逸らした。
「胸は? 仕込んでる?」
ロイは躊躇なく、ミコトの胸の谷間に手を入れる。
「あ、やだぁ! 手を入れないでー!」
「あっ! 2本も入ってるっ!? ミコトッ!」
「だって、この格好には隠し武器なんだよ!」
ロイは5本の小さなナイフをバラバラと下に落として、ミコトの体を触った。
「やん! くすぐったい!」
「他には? 隠してない?」
「ちょっとロイ君!!」
キダンの大声に、ロイはハッとなり、手を止めた。
「それ、別室で、二人きりで、やってきてくれる?」
「あ……」
ロイとミコト以外の全員が、完全に白けた目で、二人を見ていたのだった……。




