153.ヤキモチ?
仮面舞踏会に潜入する当日の13時、拠点にしている第3エラルダ国の宿屋で、闇組織調査メンバーは準備に追われていた。
「昨夜はさぁ、若い子たちはさぁ、楽しそうだったよねー」
偽造した招待状のチェックをしながら、キダンは不満げに言う。
ロイとタリスは顔を見合わせて、苦笑した。
ちなみに、女性たちは、ミコトの準備で別室だ。
昨夜は、1階の食堂で、ミコトとウミノとネルの女の子3人と、ロイとタリスは、冒険者の話や北の大地の話などで盛り上がったのだ。
女の子たちは、何を話しても興味津々に頷いてくれて、ずっと笑顔だった。
ロイも、女性と話すことが楽しいと初めて思ったくらいだ。
ミコト以外でロイの近くにいる女性は、睨んできたり(聖女)、死ねと言ってきたり(聖女)バカと言ってきたり(マリー)だったのだから、新鮮である。
「俺、女性を誤解してた……」
タリスはボソッと呟く。
どうやらタリスも楽しかったようだ。
「どうしてオジサンたちは誘われなかったのー!?」
キダンの言葉に、ホシナも頷いている。
「人妻好きや金髪マニアでも、普通の女性と話したいんすか?」
タリスの質問に、4人部屋がしんとなる。
タリスは、しまった、と口を押さえた。
まただ。
昨夜は気をつけていたけど、気を抜くと、つい、キツイ事を言ってしまう癖が……
「タリス君! 趣味や嗜好は、自分でもどーにもならないんだよ! そんなのとは別に、僕はいつでもどこでも、女性と喋りたいんだよ!」
「右に同じです。若い女性と話せる機会なんて滅多にないんです。何故お誘い願えなかったのかと恨んでいます」
なんて正直なオジサンたちなんだ、とロイとタリスは目を見開いた。
いっそ、かなり、清々しい。
ああ、この二人は同志だったのだ。
ロイとタリスは、深々と頭を下げて、「すみませんでした」と謝った。
同じ頃、ミコトは、ウミノとネルの部屋で、メイクをしてもらっていた。
「昨夜は楽しかったですね」
ウミノはミコトの顔にポフポフと粉をはたきながら言う。
「北の大地の話なんて、知らないことばっかりで面白かったです!」
ネルも金髪のウィッグを整えながら言う。
「私も初めて聞く話で楽しかったです」
ミコトも同意した。
昨夜は、みんな楽しそうで、本当に良かった。
タリスも、照れ屋なのかと思っていたが、結構ウミノとネルと話していた。
でも、何より意外だったのは、ロイだ。
ロイがミコト以外の女性と楽しそうに話すところを、ミコトは初めて見た。
騎士団は男性しかいないし、セイラとマリーは基本男性には冷たい。
それが当たり前になっていたが、ロイだって普通に女性と話すのだ、と改めて思っていた。
「あ、ミコトさんは、旦那様が他の女と話すのは嫌なタイプですか?」
ネルが、ミコトの心を読んだかのように、ニヤリと笑う。
「いえ、まさか、そんな……」
ミコトは、言いながら、まさか、そうなのか? とハッとした。
ロイが、ミコト以外の女性と楽しそうだったから、何かモヤモヤとするのか!?
まさか自分が、他の女と喋らないで! と言う女だったとは……。
「ミコトさん!? 顔が死にそうになってますよ!?」
ウミノは驚いてミコトの肩を揺する。
「すみません……。自分にガッカリして……」
ミコトの様子に、ウミノとネルは、ウフフと笑った。
「大丈夫ですよ、ミコトさん。そんなの、恋する女の子だったら当然です」
「そうですよ? むしろ、ヤキモチをやかない女の子なんていないんです!」
そうなのだろうか。
恋愛経験が無さすぎて、常識が分からない。
うつむくミコトを見て、ウミノとネルは顔を見合わせる。
「ミコトさん、今日の仕事のメイクは旦那様の好みとは違うと思いますので、夜のメイクを任せてもらえませんか?」
ウミノの言葉に、ミコトは顔を上げる。
「夜のメイク?」
ネルは荷物から、黒の夜着を取り出して広げた。
その夜着は、ミコトが初夜で着ていた物と同じデザインの黒バージョンだった。
「初夜に黒はダメだと思って諦めた夜着です。でもミコトさんは髪も瞳も黒なので、これ、絶対似合うと思うんですよ!」
ネルは自信満々に言う。
いや、何でそんな物を持ってきているの?
「旦那様はロリコンですので、メイクはすっぴん風のあどけない感じでいきます」
ウミノは真面目な顔で言う。
サラッとロリコンって言った?
「髪型は、いつものポニーテールにして、後毛を多めに出します。ロリコンには、たまらないはずです!」
ネルは、ぐっと手を握る。
また、ロリコンって言った!
いつものミコトだったら、そんな事しなくていいですよ! と言っていたのだろう。
ロイはロイだから、ミコトが何を着ても一緒なんだと。
でも、初夜の時、ウミノとネルの言う通りにしたら、可愛いって言ってもらえた。
初めてそういうことをした夜も、ロイは初夜の夜着を覚えていた。
国家特別人物の妻だから、綺麗にしなくては、といつも思っていたけど、今は、ロイが可愛いと思ってくれるようにしなくては、と思っている。
ウミノとネルの言う通りにしたら、ロイはミコトを抱き上げて、今日は2人で過ごそうね、と言ってくれるかもしれない。
「あの、それでお願いします!」
ミコトの真剣な表情に、ウミノとネルは笑顔で頷いたのだった。




