151.金髪マニア
闇組織調査会議から三日後の夕方、ミコトたち闇組織調査メンバーは、第3エラルダ国の首都にある2階建ての宿屋にいた。
この宿屋、1階に従業員部屋と食堂とお風呂とトイレ、2階に4人部屋が一つ、2人部屋が三つあるだけの小さな宿屋なのだが、なんと、この宿屋すべてが、第1エラルダ国の諜報部の拠点だというから驚きである。
従業員は、引退した諜報員とその奥様とのことで、信用がおける。
そんな宿屋の2階の4人部屋で、ミコトはウミノとネルに会った。
「ミコトさん! 一緒にお仕事出来るなんて嬉しいです!」
「このお話、二つ返事でOKしちゃいましたよー」
ウミノとネルは、嬉しそうにミコトと握手をする。
「私もウミノさんとネルさんが一緒で嬉しいです!」
この2人がいることには驚いたが、納得ではある。
今回のミコトの役割は、ケイという男の誘惑だ。
全く自慢にならないが、ミコトは変装に近いメイクをしないと、男性を誘惑出来るような美人にならないのだ!
「今回の補助メンバーを紹介するね。ヘアメイク担当のウミノちゃんとネルちゃん! 二人とも凄腕だよ。主に、ミコトちゃんとロイ君を本人と分からない感じにメイクしてもらいます!」
キダンの言葉に、ロイは驚いている。
「俺も? ですか?」
キダンは、ハァと息を吐いた。
「自覚ないの? ロイ君、目立つんだよー。とりあえず、その金髪を何とかしないとね」
「はぁ……」
ロイは不満げだが、ミコトはキダンの意見に賛成である。
このまま仮面舞踏会に出たら、女性が群がってしまう。
「金髪、いいですよね……」
部屋にいた全員、ミコトとロイとキダンとタリスとウミノとネルが、声の主の方を見た。
そう、金髪いいですよね、と呟いたのは、片腕眼帯の、渋いオジサマである、ホシナだったからだ。
ちなみに、ホシナの髪は焦茶色である。
「あー、ホシナさん、金髪大好きですよねー」
キダンはニヤニヤしている。
ロイはミコトの後ろにサッと移動した。
「でも、男の金髪でもいいんですか? ロイ君、ちょっと引いてますよー」
キダンは笑いを堪えながら言う。
ロイは慌てて首を横に振った。
「い、いや、引いてるわけじゃ……」
「ロイさんは、レイ様の息子さんですよ。それだけで尊いですよ!」
ホシナは大真面目な顔で叫ぶ。
レイ様!?
ちょっと、待って!
どこに言及したらいい!?
「え、あの、母さんを知ってるんで……」
「大っファンです!!」
ホシナはそう言うと、ローテーブルに紙を並べだした。
全員、それを覗き込む。
ハガキサイズの紙には、女性の絵が描かれている。
金髪で青い瞳の、とても綺麗な女性……いや、女の子と言った方がいいかもしれない。
同一人物の10歳〜15歳くらいの女の子の絵だ。
「か、母さん……」
『ええっ!?』
ロイの呟きに、ミコトとウミノとネルが驚きの声を上げる。
確かに、絵の女性はロイより若くて混乱するが、ロイに似ている。
お母さんではなく、ロイの妹と言われたら、誰もがそうだと思うだろう。
お母さん、可愛いがすぎる……!
タリスは「だね」と言ってうなずき、キダンは知っていたようで、笑っている。
「確かに、旦那様に似ています……。とても綺麗な方ですね」
ウミノの言葉に、ホシナは「そうでしょう!」と言った。
「レイ様は、太陽でした。どんなに仕事が大変でも、休日にはレイ様の公演を観られるかと思うと、頑張れたものです」
これは、つまり、推しってヤツだ! とミコトは大きく頷いた。
ホシナはロイの母親を推していたのである!
レイの絵は10枚あり、その中の1枚に、先日リタからもらった、ブルーのワンピースを着用しているものがある。
「ロイ、この衣装、この間の……!」
「あ、ホントだ。ミコトが着る感じとちょっと違うなー」
ロイは、絵を手に取ってマジマジと見る。
絵の母親が12〜3歳くらいだからかもしれない。
「ロイさん。大変申し訳ないのですが、差し上げることは出来ません」
ホシナはロイを真面目な顔で見つめる。
「あ、欲しいわけじゃないので大丈夫です……」
ロイは絵をサッとテーブルに戻す。
ミコトは、ちょっと欲しかったのに、この人ガチだ! と思っていた。
「でも、ホシナさんって、こんな感じの方なんですね」
ロイの言葉に、ミコトとタリスとウミノとネルは頷いた。
渋さからのギャップが凄すぎる。
「僕、最初の紹介の時に、お茶目なおじさんって言ったじゃん! あの紹介は本当のことしか言ってないよー!」
キダンは不満げに言う。
ロイは「ああ、確かに」と呟いて、じゃあ自分のアリンコ並みの記憶力も本当なのか、と肩を落とした。
「ホシナさんはぁ、ロイ君のお母さんの大ファンで、それがキッカケで金髪の女性が大好きになったの!」
キダンは、ホシナの肩に手を置く。
ホシナは大きく頷いた。
「そうなんです」
全肯定か。
まあ、別に悪いことではない。
「そういえば、リオも金髪好きだよねぇ」
キダンは、思い出したように言う。
「そうですね。気が合うかもしれません」
ホシナは絵を片付けながら言う。
確かに、リオの奥様のカーサは、金髪だった。
「2番目と3番目の奥様も金髪なんですか?」
ミコトの質問に、キダンとホシナは顔を見合わせた。
「3番目は金髪の美女だったよ。先日離婚したけどさ」
「ええーっ!?」
キダンのリオ離婚発言に、ミコトより先に、ウミノとネルが大声を上げた。
気持ちは分かる。
だって、結婚したばかりだったのだ。
しかし、離婚話は本当だったのか……。
「2番目は分からないんですよ」
ホシナは真面目な表情で、ロイを見た。
ロイは、何故俺を見る? と目を逸らす。
「分からない?」
それまで黙っていたタリスが口を開いた。
キダンとホシナは頷く。
「僕は長いこと第2で諜報員やってたんだけどね、一回もリオの2番目の奥様を見た事がないんだよ。ホントはいないんじゃない? って思って調べたこともあるくらいだよ」
「で、いたんすか?」
タリスは被せるように質問する。
この話、タリスは気になるのだろうか。
「結論から言うと、ちゃんといたよ。名前はミレイ。リオはミレイの為に家を建てている。そして週に一度は夜をそこで過ごしている。使用人も何人かいるし、食料などの消費もあるし、衣服の購入もある。僕が使用人に聞き込みをしたところ、奥様は体が弱いけど、とても綺麗な方で金髪だって言ってた」
ミコトとウミノとネルは、身を乗り出した。
何だか、謎の病弱美女って感じだ。
キダンは、アハハと笑った。
「期待させちゃって悪いけど、あんまり怪しくないんだよ。ミレイは第2の商家の次女で、不治の病で外にも出られない死を待つばかりの子だったんだ。その商家は貧乏ではなかったけど、次女の治療費で傾きかけていて、リオはその次女が15歳になった時点で嫁に迎えた。そして、医者に毎日診療させているんだ。つまり、カーサの時と同じ、人助けってこと」
ウミノとネルは、涙ぐんだ。
「な、なんか、第2の代表の人、いい人ですね……」
キダンとホシナは、曖昧に頷く。
ミコトも、複雑な気持ちだ。
「ミレイさん……って、今何歳なんすか?」
タリスは特に表情を変えずに、キダンに質問する。
「うん? 嫁に迎えたのが5年前だから、今20歳かな? 何? タリス君、この話に前のめりじゃん! 気になるの?」
タリスは、ふいと横を向く。
「俺は気になりませんけど、キダンさん、よく調べたなと感心して……」
「え! 褒めてくれてる!? そうなんだよ、僕ってホントに調査うまくてさー」
ミコトは、キダンの自画自賛に呆れつつ、ふとロイをみた。
ロイは何か考え込んでいる。
「ロイ? どうかした?」
ミコトがロイの顔を覗き込むと、ロイは「いや」と言った。
「ミレイに聞き覚えがあったような気がしたんだけど、何も思い出せなくて……」
「ロイ先輩の記憶力は、アリンコ並みだから」
タリスが平然と言うので、ロイは「えー」と言い、キダンは大笑いしたのだった。




