150.闇組織調査会議
政務棟の会議室で、引き続き、闇組織調査の会議が行われていた。
司会進行役は、諜報部門の副部門長ホシナに交代していた。
「結婚式襲撃の際に捕縛した闇組織メンバーからロイさんが聞き出したアジトは、調査した時にはすでにもぬけの殻でした。闇組織の居場所はこのような感じで、誰にも何も分からないのです。では、どのようにして闇組織に仕事を依頼したのか……」
会議室のメンバー、アレンとカイル、ロイとリント、冒険者のタリスは、真剣な表情でホシナの話に耳を傾ける。
「闇組織への仕事を依頼したのは、第2の代表リオの腹心の部下であることを隠し、第3の政務官をしているケイという人物です」
全員、神妙な顔つきで頷いた。
タリスは、これは聞いていた通り国家間の重要な案件だ、と気を引き締めた。
「ケイを捕まえて、ロイさんによる尋問をしたいのは山々なのですが、ケイには四六時中、護衛という名の監視がついています。リオにこちらの動きが悟られることだけは避けたいのです」
相変わらず、リオは食えない男だ、とロイとリントは顔をしかめる。
「しかし、ケイには趣味があります。この趣味を許されているから、第3のスパイ紛いの政務官をやっている、とも言えます。その趣味とは……」
ホシナはそこまで言うと、キダンを見た。
キダンは頷く。
「その趣味とは、月一で行われる仮面舞踏会への出席です! つまり、公式の不倫会です! そう、ケイは、僕と同じ、人妻大好き男なのです!」
キダンとホシナ以外の全員が、ガクッと肩を落とした。
「僕は、趣味で招待状を偽造して、よく第3の仮面舞踏会に行っていたんだけどね、そこにケイがいてビックリ! ってなったの!」
この話、ツッコミどころが多すぎて、誰も口を挟めない。
「さらにビックリなのが、その時だけ、ケイに監視がついていないこと! まぁねぇ、人妻とアレコレしてるところなんて、見られたくはないよねぇ?」
誰に同意を求めているのか。
全員、キダンから目を逸らす。
ホシナは、んんっと、喉を鳴らし「つまりですね」と言った。
「今回、その仮面舞踏会に、キダン、ロイさん、ミコトさん、タリスさんの四人で招待客として潜入していただきます。そしてミコトさんがケイを誘い……」
「な!? ダメですよっ!!」
ロイはガタンと席を立った。
キダンも席を立つ。
「ロイ君、ごめんだけど、ここだけはミコトちゃんに協力してほしいんだ。ミコトちゃんは部屋に誘うだけ。ミコトちゃんには指一本触れさせない。尋問は僕とロイ君のみで行う。タリス君には、ミコトちゃんを護衛しつつ、第3の拠点まで連れ帰ってもらう」
キダンの顔は真剣だ。
ロイだって、分かってはいる。
キダンは元々、接触要員としてミコトを諜報員に勧誘していたのだ。
「ケイはね、毎回、若くて胸の大きな人妻を部屋に連れ込んでいるんだよ。必ずミコトちゃんの誘いにのる」
ロイは頭を抱えた。
「俺が嫌だ、というのは我慢しますよ。でもミコトは、ミコトは男が怖いんですよ! こんな役は……」
ロイの様子を見て、リントはうつむく。
キダンも「うん」と言った。
「そのための四人体制なんだ。ここで重要なのはタリス君だ。タリス君には、ミコトちゃんを一目で気に入ったという設定で護衛をしてもらう。本当はこの役はリント君が最適だったんだけど、リント君にはマリーを守ってもらわないと、ね」
キダンはリントをチラリと見る。
リントは「はい」と言った。
キダンは目線をタリスに移す。
「タリス君、もう言っちゃうけど、君の事は推薦状があった上で、独自に調べさせてもらったんだ」
タリスは、「別にいいっすよ」と言った。
この手の国家レベルの依頼の場合、当然である。
「実力があって、女性に興味がないってところが決め手だった。君は浮いた噂が一つもないどころか、そういう遊びも一切ないという、僕とは正反対の人物だった。それであってるよね?」
「ええ、まあ、そうっすね……。あなたの事は知りませんけど……」
タリスは、下を向いて、ぶっきらぼうに答える。
ロイはタリスを見て、ふっと微笑んだ。
「俺はタリスを信用してますよ。タリスは先日もミコトと一緒に魔物討伐をしたし、ミコトもタリスなら大丈夫だと思います」
タリスは、ふいと横を向いて「そうすか」と言った。
リントは、タリスは照れ屋なのかも、と思っていた。
女性に興味がないというよりは、女性と、いや、人と話す事が得意ではないのかもしれない。
「話を戻すけど、仮面舞踏会の会場に入ったら、まずはタリス君がミコトちゃんに話しかける。そして、ミコトちゃんに振られる。その後、ミコトちゃんを目でずっと追うという、結構気持ち悪い男の役をタリス君にはやってもらう」
「気持ち悪い男……」
キダンの説明に、タリスは少しショックを受けた様に呟く。
「ミコトちゃんに誰か別の男が触れようとしたら、全て、気持ち悪さ全開で止めてほしい。周りから、『あの男キモーい』と言われるくらいにね」
「あの、ちょっと説明に、気持ち悪いが多くないすか……」
タリスはかなり困惑している。
ロイは、気持ち悪いという言葉が本当に苦手なので、自分が言われる事を想像してしまい、青ざめた。
リントは、この役をやらされなくて本当に助かった、と思っていた。
「ミコトちゃんとケイが会場の個室に入るまで、そんな感じでね。個室内ではロイ君と僕が先に潜んでいるから、何があってもロイ君が対処する。タリス君は、個室に入った後も、個室のドア前で待っていて、怒っている演技の一人で出てきたミコトちゃんを追いかけて、会場を二人で出て欲しい。決して他の男を近づけないようにね」
「り、了解です……」
タリスは、ミコトの実力を知っている。
正直、あんなに強いミコトに、ここまでする必要があるのかどうか、よく分からない。
というか、ここまで徹底的に護衛をするのなら、別に普通の女の子が囮役をやってもいいだろう。
しかし、こういう場では、反論しないのが冒険者の基本である。
ロイは、「そこまでしてくれるのなら、まあ……」と頷いている。
キダンは安堵の表情をした。
「タリス君への依頼はこの仮面舞踏会までです。あとのメンバーのその後の行動は、ケイの尋問の内容によってかわってくるので、その都度打ち合わせしましょう! 第3への出発は、三日後。この闇組織調査の期限は1ヶ月です! 皆さん、よろしくお願いします!」
会議が終わり、タリスが会議室を出ていこうとすると、ロイはタリスを呼び止めた。
「タリス! 今日泊まるところ決まってる?」
「や、今から決める……」
「じゃあさ、一緒に聖女棟の1階に泊まらない?」
会議室に残っていた全員が、驚きの表情でロイを見る。
「ロイさん、それはちょっと……。マリーと聖女からすると、知らない人ですから……」
リントは、言いにくそうにしている。
タリスもその意見に賛成だ。
「俺は町の宿屋に泊まるからいい。ロイ先輩は、聖女棟で聖女の護衛ってこと?」
「そうだね。聖女とマリーとミコトの護衛だね」
ロイは笑顔で答える。
タリスは首を傾げた。
「あの、さっきも思ったんだけど、ミコトさんに護衛が要るとは思えないっていうか……」
「いや、要るんだよ!」
アレンが、ロイとタリスの間に、ずいっと入って宣言する。
「タリス君、詳しい事情は言えないが、ミコトに護衛は必要なんだよ。今回の闇組織調査、必ずミコトを守ってほしい。第1エラルダ国としての依頼と捉えてくれて構わない」
タリスは目を見開いた。
周りを見ると、全員、真剣な表情をしている。
そんなに、なのか……?
「……はい。分かりました……」
本当はよく分からないままだったが、タリスは頷いた。
今回の仕事は、長期だが、一番の金持ち国である第1エラルダ国直々の依頼だ。
もちろん、かなり依頼料が良い。
冒険者は、雇う主人が毎回変わる職業だ。
しかも、若いうちにしか稼げない仕事が多い。
反発や反論をして、悪い評判が立ち、仕事にありつけない奴もいるのだ。
タリスはニコニコとするのは苦手だが、反発をせずしっかり仕事をする、をモットーとしている。
実際、それで上手くやってこれている。
タリスは、今回も上手くやるだけだ、と心の中で頷いた。




