148.神様とは……
隣町の町長の家の2階で、ロイに話をきいてもらい落ち着いたミコトは、これ以上いても迷惑になると、ロイと共に首都に帰る事にした。
シーマは、コランの娘の経過とソルの経過を診るために、町長の家に泊まることになった。
コランは孫と離れたくないとゴネだし、面倒なので置いていくことになった。
まぁ実際、ロイとミコトの二人だけなら、ロイに背負ってもらって、15分で首都に戻って来れるのだ。
ロイは自宅の1階のソファにミコトを座らせた。
「ミコトは明日、お休みでいいよ。シーマさんもいないし、さすがに3日連続で倒れてるしね」
確かに、疲れていないとは言えない。
ロイの力を使う事自体、ミコトの体力を使うのかもしれない。
「それに、聖女とマリーと離れることになるから、出来るだけ一緒にいる方がいいよね」
ロイは優しい。
以前は、天然素直なだけで優しいかどうか分からなかったが、今は確かに優しい。
「お風呂一緒に入る?」
「うん、入る」
ミコトの即答に、ロイは溜息をついた。
「ごめん、ちょっと、からかうつもりだった。疲れてるって見て分かるよ。先に入って早く寝た方がいい」
「え? 一緒に入って、早く寝ちゃダメなの?」
ダメでしょう! という言葉を、ロイは飲み込んだ。
やっぱりミコトは分かっていない。
いや、ハッキリ言わないから、いつまでも分からないのかもしれない。
「お風呂に一緒に入ったら、俺は、ミコトを寝かせてあげられません!」
ミコトは前回の事を思い出したのか、顔を赤くする。
「分かった? だから一人で……」
「分かった! 一晩中でも大丈夫だよ!」
ロイはその場にガクッと膝をついた。
何が分かったというのか……。
これでは、疲れている妻に強要するダメ旦那である。
しかも「一晩中」にかなりグラッときている自分にもガッカリである。
ロイの様子を見て、ミコトは慌てたように「あのね!」と言った。
「お風呂に一緒に入ったら、ロイの力がたくさん入ると思うんだ。だから、徹夜もできると……」
「ミコトはさっき、話しただけで力が入ったからって、キスを拒否したよね?」
「うっ……」
ミコトはうつむいた。
言いすぎたか? とロイはミコトを覗き込む。
ミコトは、覗き込んだロイの頬に、チュッとキスをした。
「さ、さっきは、人様のお家だし、そんな事しちゃダメかなって思っただけで、ホントはしたかったの!」
ロイは、残っていた理性が、完全に消滅する瞬間をハッキリ感じた。
やっぱり、ミコトには、抗えないし、勝てないのだ……。
次の日の早朝、ミコトを聖女の部屋に送り、ロイは騎士団に出勤した。
時間は7時半だったが、騎士団長室にはすでにリントがいた。
「おはよう。リント、早いね!」
「おはようございます。仕事が山のようにあるんですよ……」
リントの目の下にはクマが出来ている。
やはり、聖女とマリーの護衛といつもの業務を回す事は大変なようだ。
特に、夜間の小隊長以上を必ず入れる、に無理がある。
元々小隊長以上から、業務が増える上に、小隊長は10人、中隊長は2人、あとは副団長のリント、13人しかいないのだ。
「闇組織調査の出発まで、夜間の護衛には俺が入るよ。ミコトも聖女とマリーと一緒にいたいと思うし……」
「それはとても助かりますが……。ミコトは、その、昨日は、大丈夫だったんですか?」
ロイは、ソルの実家か、と息を吐いた。
「大丈夫ではなかったかな……。でも治療は成功させていたよ。よく、頑張ったと思う」
「そうですか……」
頬を叩かれて、文句を言われて、でもミコトが治したと言うことは出来ない。
その上、ミコトの両親を悲しませているという現実を、まざまざと見せつけられたのだ。
これは、ソルの両親のせいではない。
ましてや、ミコトのせいでもない。
あえて責任を問うとしたら……
「あ、ロイさん。今日16時から政務棟で会議です。闇組織調査のメンバーと段取りと、あ、ミコトは休みですか?」
ロイは、ウッとなる。
「あー、会議に参加させた方がいいかな……?」
リントは何かを察したように「いいえ」と言った。
「疲れているなら、休みを優先でいいんじゃないですか。無理させたら、アレンさんたちに叱られますよ」
ロイは苦笑した。
これは、叱られそうだ。
「そういえば、コランさんの娘さん、大丈夫だったんですか? 昨日、必死の形相で出て行ったから……」
リントはコランの顔を思い出しながら顔をしかめている。
「うん。無事に女の子が産まれたよ。娘さんも無事。でも、シーマさんがいなかったら危なかったかも……。隣町の医者がちょうど他の患者にかかりきりだったんだよ」
「それなら、ソルの治療が偶然昨日になって良かったですね。神様の采配ってヤツですかね」
ロイは「神様ね……」と呟く。
リントは、特に信心深い方ではないが、ロイの表情が微妙な事に首を傾げた。
「リントはさ、聖女やミコトが言う、神様って何だと思う?」
ロイの突然の意外な質問に、リントは「何って……」と言い淀む。
「話ぶりから、ミコトは元の世界で両親に愛されて幸せに暮らしていたんだよ。そしてこの世界に自分の意思で来た訳じゃない。ここに来たのはミコトのせいじゃないのに、元の世界に帰れない上に、この世界を変えたら存在を消すと脅しにも近いことを言われている。両親を思って泣くミコトを、リントも見たことがあるよね……」
ロイは辛そうな表情をしている。
リントは目を伏せた。
「ありますよ。隠れて泣いてましたけど……。マリーも気付いてます」
ロイは、鋭い目で遠くを見つめた。
「ロイさん、神様に決闘でも申し込むつもりですか?」
ロイはふっと笑う。
「まさか。そんな風に見えた?」
「……見えました……」
ロイは小声で「そっか……」と言った。




