145.人外の技
聖女の部屋のベッドの上で、ミコトは目を覚ました。
「あ! ミコちゃん起きた!」
セイラはベッドに駆け寄り、ミコトにガバッと抱きつく。
「うっ! アイツの匂いがする!」
セイラの嫌そうな声に、ミコトは笑った。
「あー、私、また倒れちゃったんだね」
「ミコちゃんのせいじゃないよ! アイツが無理させるからダメなんだよ!」
相変わらずセイラはロイに厳しい。
でも、この感じ、久しぶりだ。
「ミコト、ロイが仕事が終わったら迎えに来るって言ってたわよ」
マリーは、ミコトのお茶を淹れながら、ロイの伝言を伝える。
「ソルさん? の治療は明日になったって……」
「ねぇ、マリー。マリーともギュッてしたい」
マリーは「いいわよ」と言ってニッコリ笑った。
ミコトは立ち上がり、お茶のポットを置いたマリーを抱きしめる。
マリーの事は、絶対に守ってみせる……!
「ミコトは甘えん坊になったのかしら?」
マリーはふふっと笑う。
ミコトは頷いた。
「うん。マリーとセイラがいないと、私ダメみたい……」
「やっぱりね! アイツより私たちだよね!」
セイラは嬉しそうに言う。
ミコトは、なんて贅沢で幸せなんだろう、と笑った。
ミコトは軽く夕飯を食べて、ロイが来るまでマリーとセイラとお茶をしていた。
「そうだ、ミコト。今日から1階の部屋に護衛が5人もいるのよ? 一体どんな情報が入ったの?」
マリーの言葉に、ミコトは飲んでいたお茶をブーッと吹き出した。
「ミコちゃん、汚いー」
セイラはアハハと笑い、マリーは台拭きを持ってくる。
「ご、5人もいるんだね……」
ちょっとリント!?
やりすぎじゃない?
マリーから台拭きを受け取って、ミコトは力任せにテーブルをゴシゴシと拭く。
「ミコトは何か知ってる?」
マリーの質問に、ミコトは曖昧に頷いた。
「他国から、聖女の護衛が手薄すぎると指摘された、とは聞いてるけど……」
ミコトは打ち合わせ通りに答える。
「今さらね……」
マリーはあまり納得していないようだ。
頭の良いマリーに悟られないようにするなんて無理である。
ミコトは話題を変えることにした。
「ところでさ、私ね、すごい技を身につけたんだよ!」
「わざぁ? どんな?」
セイラはミコトを覗き込む。
「気功波を打てるようなったんだよ!」
「え? アニメとかの?」
セイラの瞳がキラリと光る。
セイラなら絶対興味持つと思ったんだよね!
ミコトはウンウンと頷いた。
「ロイの力を片手に集めて、はぁっ! って感じでやったら出来たの!」
「ホント!? 見たい! やって!」
セイラは身を乗り出した。
「見せたいんだけど、ロイの力がないと無理なんだ。それに、アレンさんから使うなって言われてるし、その後倒れちゃったしね」
「人外の技だもんねー」
「じ、人外?」
セイラの「人外」という言葉に、ミコトは若干ショックを受ける。
二人の会話を聞いていたマリーは首を傾げた。
「セイラはその技を見たことがないのに知ってるの?」
「うん! 私たちの世界では、超有名な技だよ! 但し、空想上のね!」
マリーは、さらによく分からないという表情をしている。
ミコトはガタッと席を立った。
「ちょうど、あの位離れたドアに、ロイの力を手からバーンって出したの。で、ドアに大きな穴が空いて、バターンって……」
ミコトの擬音のセリフと同時に、聖女の部屋のドアがバターンと開いた。
「ミコト! その話を自慢げにするのはやめろ!」
立っていたのは、機嫌の悪いリントと苦笑いのロイだった。
「何となく分かったわ。ミコトってばすごいのね」
リントから説明を受けたマリーは、テーブル席のロイとリントにお茶を出しながらミコトを褒めてくれた。
ベッドに移動したミコトは、エヘヘと照れ笑いをする。
「マリー、褒めなくていいから! 俺は驚きすぎて寿命が縮んだんだよ!」
リントは文句を言いながら、お茶を乱暴に飲む。
ロイとマリーは笑っている。
「そういえばリントは何でいるの?」
ミコトの質問に、リントは溜息をついた。
「俺は今日の聖女棟の夜間護衛なんだよ。夜間は必ず小隊長以上を交えて5人にしたんだよ」
おお! リント本気すぎる……!
ミコトの時との差が気になるけど、マリーのためだもんね。
ミコトは大きく頷いた。
マリーは、リントとミコトを見て、「なるほどね」と小さく呟いた。
ロイは、マリーには殆どバレてるな、と溜息をついて、ベッドでゴロゴロとしている聖女をチラリと見た。
「あのさ、聖女に話があって……」
「話? なに?」
セイラはゴロゴロしながら不機嫌に返事をする。
「俺、仕事の都合で、1ヶ月国外に行く事になったんだよ。それで、ミコトも一緒に連れて行くことになって……」
「またぁ?」
セイラは起き上がってロイを睨んだ。
ミコトは咄嗟にセイラを抱きしめた。
「ごめん、セイラ。すごく大事な仕事なの。私もちょっとお手伝いを……」
「ミコトもロイもリントも、もういいわよ」
ミコトの言葉を止めたのは、マリーだった。
「マ、マリー!」
リントは慌てて席を立つ。
「大丈夫よ。怒っているわけじゃないわ。どうせお父さんでしょう?」
何故これだけの情報でバレるのか……。
ミコトとロイとリントは目を泳がせた。
「ろくに面倒もみなかったくせに心配だけはするのよね……」
「マリー、これは殆ど俺の独断なんだよ」
溜息をついたマリーに、リントは言う。
「でもロイが承認してるんでしょう? そしてお祖父様を説得するために、ミコトに事情を話して利用した。お祖父様たちはミコトに弱いものね。ミコトがドアを壊すなんておかしいと思って聞いてたら、全部見えてきちゃったわ」
ダ、ダメだ!
マリーには敵わない!
ふと見ると、ロイとリントはすでに「すみませんでした!」と頭を深く下げている。
「マリー、さっすがぁ! カッコいい!」
何故かセイラは大喜びだ。
マリーは、ふぅ、と息を吐いた。
「お父さんに、今後、国や騎士団を巻き込んで私情を通したら、人外として絶縁するって伝えてくれるかしら?」
『じ、人外……!?』
ミコトとロイとリントは、せめてキダンには、人としてマリーと絶縁させてあげようと目配せをしたのだった。




