142.ミコトの暴走?
昼食後、ミコトとロイとリントとキダンは尋問室に向かっていた。
「ロイさん、今日16時から政務棟の会議室で重要な会議があります。その前にシーマさんを交えて打ち合わせをします。ミコトにもどちらも出てもらいます。いいですか?」
リントの早口に、ロイは真面目な表情で頷いた。
「うん、いいよ。ミコトもいいよね?」
「はい」
ミコトは頷いて、リントをチラリと見た。
キダンと話をして戻ってきたリントは、どう見てもピリピリとしている。
ロイは何かに気付いているのか、特に何も言わない。
「ミコトちゃんごめんねー? 犯人に会わせる事になっちゃってさ」
キダンはいつもの調子で話している。
「いえ、大丈夫です」
ミコトはニッコリと笑う。
マリーとの婚約に何か支障でもあったのだろうか。
でも、あったとしても、ミコトが口を出す事ではない。
マリーには、絶対幸せになって欲しいから、リントはピッタリだと思うんだけどな……。
尋問室で、ミコトは安全のため、壁に付いた小窓越しであの時の襲撃犯に会うことになった。
あの時より痩せ細った襲撃犯は、ミコトの姿を見ると、涙を流して謝罪の言葉を述べた。
「怪我をさせてしまい、本当に申し訳ありませんでした。あなたにどうしても謝りたかったんです」
「謝罪を受け入れます。もう、気にしないでください」
ミコトと襲撃犯の会話を聞きながら、ロイとキダンは目配せをした。
「もう思い残す事はありません。あなたにお会いできて良かったです。ありがとうございました」
ミコトも瞬時に理解した。
この人、死ぬ気だ……!
その直後、ロイは男の後ろから素早く猿ぐつわをかませる。
ガタンと男と椅子が倒れる音が尋問室内に響き渡る。
「んんーっ!!」
良かった、生きてる……。
ミコトは開いたままのドアから、中に入って男の前にしゃがんだ。
「あなたは死んではいけません。生きて、カラスに戻って、チェコさんを助けてあげて下さい」
男はミコトを見つめる。
ミコトは男の頭に手を乗せた。
「これは命令です。あなたは生きてチェコさんを助けるんです」
よく知らない男の人を撫でるなんて出来ないけど、目の前で死ぬなんて、許さない。
そんな事をして、喜ぶ人なんて、いない。
男は、涙を流しながら頷いた。
その光景を見たロイとキダンとリントは、これは聖女だと思っていた。
理屈ではなく、ミコトは聖女なのだと。
ロイのために、異世界から来た聖女なのだと……。
午後4時。
政務棟の会議室に、ミコトとロイとリントとキダン、そしてオッサン3人組であるアレンとカイルとゼノマがいた。
いわゆる、いつものメンバーにミコトが加わった形だ。
オッサン3人組は、孫同然のミコトに甘い。
だから、ミコトが少しばかり暴走しても、まぁ、大丈夫だろう……とロイもリントも軽く見ていた。
「だから、一番大事なのは、マリーなんです!」
ミコトは起立して、堂々と言い放った。
ミコトには、この会議の前の打ち合わせ時に、マリーが闇組織に狙われているかもという情報が入ったと伝えていた。
ミコトの長所兼短所の判断力と行動力により、医学試験の受験は来年になり、ソルとニアの治療は明日決行になった。
ここまでは、リントの予想通りだった。
しかし、やはり国家特別人物で騎士団長であるロイの長期諜報活動に、アレンたちオッサン3人組は難色を示していた。
そして、ミコトの暴走である。
「いやな、ミコト。俺はマリーの家族だから、そりゃマリーが大事なんだよ。でも何の裏もない情報で、国の事に私情を挟む訳には…」
「何かあってからじゃ遅いんです!」
ミコトは、バァンと机を叩く。
ミコトの馬鹿力で、机がへこむ。
オッサン3人組は、「ひぃっ」と情けない声を出す。
「マリーに何かあったら、聖女が怒り狂いますよ! もしかしたら祈らなくなるかも! ほら、世界の一大事です!」
その話聞いた事あるなぁ、とキダンは笑いを堪える。
どの辺りで止めに入るべきだろうか、とロイとリントは目配せをする。
「いや、それはさすがに……」
「あります! それに、マリーに何かあったら、私が暴れます! 変な魔法を使いますよ!」
「変な魔法っ!?」
オッサン3人組は、「変な魔法」に驚きを隠せない。
ロイとリントは、「変な魔法」って何だよ? と再び目配せをする。
キダンはすでに大笑いである。
「ミ、ミコトちゃん、へ、変な魔法って、何?」
「えっ!? えーと、わかりました! お見せします!」
おかしな流れになってきたな、とロイはリントに頷いた。
そろそろ止めた方がいいが、ミコトが何を見せる気なのか若干気になるところではある。
ミコトは会議室の入り口のドアに向かって右手をかざした。
ミコトには憧れがあった。
日本のアニメの魔法少女や気功を放つ格闘少年である。
しかし、先日、魔法少女の夢は潰えた。
ミコトは完全な脳筋キャラだと判明したのである。
だったら、次は、気功だ。
これは、脳筋キャラだし、出来そうな気がする。
ロイの力を右手に集めて、ドンッと放てばいいのだ。
アニメで何回も見たし、イメージはバッチリである。
「はあっ!」
ミコトの掛け声と同時に、ミコトの手から何かが放たれ、爆音とともに会議室のドアに大穴が空いた。
ドアは、バターンと廊下側に倒れる。
『ええーっ!?』
全員が、大声を出して叫んでいた。
もう、会議どころではなくなっていた。
「机とドアを壊してしまい、本当にすみませんでした。弁償もしますし、今後一切、物は壊しません」
別の会議室に移動したオッサン3人組のアレンとカイルとゼノマに、ミコトは深々と頭を下げて謝った。
「弁償は俺がします。すみません、ミコトを止めるタイミングを間違えました」
ロイも頭を下げる。
「俺も謝ります。ミコトが暴走するのを分かっていてこの会議をセッティングしました。申し訳ありませんでした」
リントもロイの隣に立ち、頭を下げた。
キダンもロイとリントを見て、慌てて頭を下げた。
「ごめん! どーしても変な魔法が知りたくて、きいちゃいました! 弁償はロイ君がします!」
アレンは、ハァーと深い溜息をついた。
「ドアはロイが壊した事にしたから、まあ、変に疑われはしないだろう。弁償は、ロイとキダンで半々にしろ。それからミコトは……、どうしたもんかなぁ……」
アレンはそう言うと、頭を抱えた。
カイルとゼノマも溜息をつく。
キダンは「半々!?」と言っている。
「アレンさん、あの力は俺の力なんですよ。ミコトはコントロールして放っただけなんです」
ロイの言葉に、アレンは頭を抱えながら「だーかーらー」と言う。
「コントロールして放てることが問題なんだよ! まさしく『変な魔法』だよ!」
ミコトは再び頭を下げた。
「私も本当に出来るなんて思わなかったんです。もう二度と使いません。誓約書を書いてもいいです!」
アレンはミコトを見て苦笑した。
「誓約書はいらんよ。ただ、人も殺められる程の力ではある。出来れば使わない様にしてくれ」
「は、はい!」
ミコトは大きな声で返事をした。
と、ミコトの視界がくらりと歪んだ。
倒れるミコトをロイは抱き止める。
「やっぱり、無理があったか……」
ロイは笑いながらミコトを背負った。
「おい、大丈夫なのか?」
アレンたちは心配そうだ。
「ミコトなら、一晩寝れば大丈夫だと思います。でも明日はソルとニアの治療もあるので、起こさないままでもいいですか?」
ロイの言葉に、アレンは顔をしかめた。
「あのなあ、もとより、ミコトを責めようなんて思っていない! キダンがマリーの事をリントに相談して、それをミコトに話したら、こうなる事は目に見えているだろう! お前ら3人は、ミコトのマリーを心配する気持ちを利用したんだよ!」
ロイとリントとキダンは、その通りだ、とうつむいた。
「で、でもぉ、『変な魔法』はさすがに予想外だったよねぇ?」
キダンの言葉に、ロイとリントは思わず頷く。
アレンは、先程のミコトのように、バァンと机を叩いた。
「予想出来てたまるか! とりあえず、ロイの長期諜報活動は1ヶ月だ! 闇組織を壊滅出来ていなくても1ヶ月で帰ってこい! それから、ミコトだけは必ず守りきれ!」
ロイとリントは目を見開いた。
ミコトは必ず守るが、アレンがただ事ではない雰囲気を出している。
アレンは「尋問室での事は、さっきキダンにきいた」と言った。
「もうお前たちにも分かるだろう? ミコトはただの女の子じゃないんだ。聖女と同等の最重要人物なんだよ……」




