141.ロイの自責とキダンの失敗
尋問の話を聞いた後、キダンはリントと話があると言い出し、2人で騎士団長室を出て行った。
おそらくマリーとの婚約の話なんだろうな、とミコトはリントにこっそりエールを送った。
「久しぶりだね。ミコトが事務でここにいるのは」
ロイは機嫌がいいのか、ニコニコとしている。
「そうだね。でもノエルがすごいやってくれていて……」
ロイは、ミコトの話の途中で、ミコトをひょいと抱き上げた。
そして、ドアの内鍵をカチャンと閉める。
「な、なんで、鍵……」
「ほら、コランさんがミコトに何かする時は内鍵を閉めろって言ってたから」
何する気なんだー!?
「や、鍵閉めてもダメだよ! ここ、職場だよ?」
「その嫌がる感じがいいんだよねー」
ぎゃー!
ミコトはジタバタと暴れたが、ロイに勝てる訳もない。
「本当に嫌だったら、殴ってくれていいよ?」
「もう殴らないよ! 治らないもん!」
ロイはふと真面目な表情になる。
「そっか。もうそこまで分かっちゃったんだね」
ロイは団長椅子に腰掛けて、ミコトを膝に乗せた。
「ロイ……」
「これに関してはさ、俺は全然いいんだよね。だからミコトも重く受け止めなくていいよ」
ミコトはロイに抱きついた。
「この間は殴ってごめんなさい! もう絶対ロイを傷つけたりしないから!」
ロイもミコトを抱きしめた。
「言ったそばから重く受け止めてるし……。俺の体は、ミコトの事は全て受け入れたいって感じなんだ。だから、罰っぽいことじゃないんだよ」
ミコトは首を横に振る。
「だって、歴代アリアンの人は、みんな自害の時に、死んだ奥様に……」
「うん。父さんもそうやって亡くなったって聞いてる。セタ兄は先代聖女が元の世界に帰っていなかったから死ねなかったんだ。でも、3年も絶望感と死への渇望に苦しんだ……」
ロイの言葉に、ミコトは愕然とした。
セタは、だから、生きているのだ。
「俺は、セタ兄が俺の事を忘れてしまったと、まるで一人だけ傷ついたみたいになって、セタ兄が苦しんでいたのに、5年もセタ兄から逃げ続けたんだ」
ミコトは、ロイが、ずっと自分を責め続けているのだと、この時初めて知った。
もしかしたら、母親が亡くなった時にも、自分を責めたのかもしれない。
そして、5年前のミコトとセイラを守らなかったことも、責めていた。
ミコトはロイの頬にそっと触れた。
「私、ロイのことを助けに来たの……」
「……え?」
「もう、自分の事を責めないで」
この時は、何故かはっきり、ロイを助けに来たのだと確信していて、本当に自然に、ロイにキスをしていた。
ロイは初めてミコトからしてくれたキスに驚きながらも、ミコトが助けてくれるのなら、本当に何でもできるような、そんな気がしていた。
リントはキダンと騎士団の会議室にいた。
「何の話か分かる?」
キダンはニコリともせずにリントに問いかける。
「マリーとの婚約の話ですよね」
リントは平然と答える。
「そうだけど、それだけじゃない」
キダンの言い方に、リントは首を傾げる。
「初めに言っておくけど、僕は二人の結婚に反対じゃない。反対する資格もないしね。何もしない父親だし、かなり嫌われているけど、でもマリーのことは、世界で一番大切なんだ」
それはそうだろう、とリントは頷いた。
「僕が闇組織を追っている理由をロイ君から聞いた?」
「……いえ、聞いてません」
「そっか、ロイ君は口が堅いな……」
しばらく沈黙が続き、キダンはハァと息を吐いた。
「僕の別れた奥さん、つまりマリーの母親はね、闇組織に殺されたんだよ」
「……!?」
リントは息を呑んだ。
マリーからは母親は病気で亡くなったと聞いていたからだ。
「この事はマリーは知らないし、一生知らせない。ルリが殺されたのは、完全に僕のせいなんだ。ま、僕のクズ話なんて興味もないだろうからこの辺りは省くけど……」
リントは奥歯を噛み締めた。
闇組織の犯行は、主に女性への強姦と殺害だ。
マリーの母親は……
「マリーが大人になる前に、闇組織を壊滅させたかった。僕は調査には自信があったんだ。だけど全然ダメだった。何も掴めないまま、時間だけが過ぎていった。そして、僕はまた失敗したんだ」
「……失敗って……?」
キダンは目を伏せた。
「マリーを第4で名代として出してしまったことだよ」
リントは、それが失敗なのか? と思っていた。
「僕の娘、すごいよね。第1の代表の孫娘は、すごい美人だって噂が広まった。各国を先日調べたらね、第4や第2だけじゃなく、第3や第5にもその事を知っている奴がいたんだよ」
リントは、溜息をついた。
やはりマリーは他の男に見せてはいけない……
突然、キダンはリントの肩をガッと掴んだ。
「なんですかっ!?」
「ねぇ、どうしようリント君! 闇組織は美人しか狙わないんだ! どうしよう! マリーが狙われたら、僕は、僕はもう……」
「……!!」
リントは愕然とした。
闇組織の強さは知っている。
第2小隊が全滅したのだ。
マリーに護衛をつけても、守りきれない……!?
リントは自分の肩にあるキダンの手を掴んだ。
「マリーには聖女の護衛と称して始終護衛をつけます。キダンさんには、ロイさんとミコトを貸します。ロイさんは意味不明な能力が多いから、手伝いではなく主で動けば闇組織まで辿り着くと思います。元々ミコトは始終ロイさんといた方がいいし、医学試験もあの理由なら来年でもいいでしょう」
キダンは目を見開いた。
「え、いや、それは助かるけど……、リント君が決めちゃうことなの……?」
リントは「知らないんですか?」と言った。
「騎士団は、殆ど俺が回してるんですよ。ロイさんはその責任をとるだけなんです。そしてミコトは、マリーが大好きなんですよ」




