139.楽しい魔物討伐
ミコトとロイとAランク冒険者のタリスは、魔物討伐をするために、街道から離れた森の中にいた。
ロイもいることだし、とAランクの依頼である「巨大モグラ探索と討伐と巣の撲滅」という依頼を受けてきたからである。
「じゃあロイは、他部門のお手伝いをすると、国家特別人物の功績になるんだね」
「うん。その代わり臨時員制度は利用できないって、この間アレンさんから初めて聞いたんだよ」
おそらくアレンは初めて言ったのではないのだろうな、とミコトは思っていたが、「へぇー」と頷いた。
タリスは少し離れて先を歩きながら、仲良く話す2人を見た。
北の大地で魔物討伐をしていたロイには、女性の影が一切なかった。
なのに帰国した途端に結婚ということは、ロイの母親と同じ、完全な政略結婚だ。
おそらく、運動神経の良いお金に困っている少女を、大金で囲ったのだろう。
こんなところまで、母親と同じだ。
タリス自身はロイの母親の事はあまり知らないが、タリスの母やその友人たちが、よく話題にしていたのは覚えている。
道楽な親の借金を背負い、曲芸団で必死に働いていた15歳の少女を60歳を超えた国家特別人物が大金で買ったと…。
でもロイは母親と同じ様にはしたくないのだろう。
だからあの子に付き合って、やりたい事をやらせようとしているのだ。
タリスは熱くなった目頭を、腕で拭った。
さらに30分程森の中を歩いたところで、タリスは立ち止まった。
「ロイ先輩、わかる?」
タリスの言葉に、ロイは頷く。
「あそこと、あの辺に1体ずついるね。タリスはどっちやる?」
「俺は遠い方をやる。ロイ先輩は手前を…」
ミコトは二人の会話をききながらガッカリしていた。
完全にミコトが戦力に入っていないのだ。
Eランク冒険者だから仕方ないのだけど、ロイもミコトにやらせてくれる気はなさそうだ。
でもミコトもちょっと大人になったのだ。
突っ走るばかりが戦闘ではない。
それに、タリスの実力も気になる。
「私はあの木の影に隠れてますね」
ミコトが少し離れた木を指差して言うと、タリスは当然というように頷き、ロイは驚いた表情をした。
ふふふ。ロイにも大人しく見学する大人のミコトを見せてあげよう。
ロイとタリスは、巨大モグラがいると思われる場所に立ち、目線で合図を送ると、同時に地面に攻撃をした。
ロイは足で、タリスは長剣だ。
魔物の咆哮が響き渡り、ミコトは思わず耳をふさいだ。
と、同時に、自動車ほどの大きさのモグラ? のような魔物が地面から飛び出した。
で、でっか!!
ミコトは木の影で、目を見開いた。
巨大モグラといっても、犬くらいの大きさだと思っていた。
まさか、自動車サイズとは!?
こんなの地面の下にいたの!?
しかし、そんな自動車モグラも、ロイの蹴り一発と、タリスの長剣の前に、アッサリと倒される。
あまりに一瞬で、自動車モグラの強さはよく分からなかったが、タリスの強さは分かった。
この人、強い!
リントと同じくらいか、それ以上かもしれない。
Aランク冒険者って、こんなに強いのか。
やっぱりミコトはまだまだである。
2人がミコトの方へ来たので、ミコトは拍手をした。
「2人ともすごいです!」
「え? あ、どーも…」
タリスはミコトから目を逸らす。
ロイは森のさらに奥を指差した。
「あっちにもう一体いるけど、ミコトやりたい?」
さすがロイ。
2人の攻撃を見て自動車モグラの急所が分かったし、ちょっとウズウズしていたのだ。
「何言ってんの!? Eランクの女の子にやれるわけないでしょ!」
ミコトが答えるより先に、タリスは大声を出した。
「俺がサポートにつくから大丈夫だよ。ミコトも勉強ばっかりじゃツライからね」
ロイはそう言うと、タリスの返事は待たずにミコトの腕を引っ張った。
魔物討伐の依頼を受けたのは、ミコトのストレス発散のためだったらしい。
ロイはやっぱり優しい…。
タリスは何か言いたげだったが、仕方なくロイとミコト後についてくる。
「ミコトの短剣だと地中まで届かないから、俺が叩き出したところをやってね」
「はい!」
ミコトは短剣を構える。
やはりタリスは何か言いたそうにしているが、ロイに意見する気はないようだ。
ロイは先程と同じ様に足で地面をドンと蹴る。
直後、先程よりは少し小さい、軽自動車くらいのモグラの魔物が飛び出してくる。
ミコトはジャンプすると、タリスの剣捌きを参考に、魔物の首筋、心臓、腹部の3箇所を短剣で斬りつけた。
ドサァッと軽自動車モグラが倒れる。
ロイは魔物の息を確認する。
「うん、いいね。さすがミコト…」
「ちょっと待ったぁ!!」
タリスは、ミコトの頭を撫でようとしたロイに掴み掛かった。
「この子何者!? Eランク!? つか、Aでもこんな強い女の子いないわ!」
「何者って、俺の奥さん…」
「知っとるわ!!」
タリスの大声が森の中に響き渡った。
ミコトとロイとタリスは、その後も順調に巨大モグラを倒し続けた。
ミコトが臨時騎士団員で割と強いと理解したタリスは、ミコトもちゃんと戦闘員として扱ってくれた。
結局、合計20個の巨大モグラの核を冒険者事務所で金貨に交換することになり、冒険者事務所で少し目立ってしまった。
しかも自動車モグラの核は、大小にかかわらず、一つ金貨1枚と交換してくれて、依頼料とは別に、3人は金貨20枚を手に入れたのだ。
冒険者も、Aランクなら儲かるということがよく分かった。
ちなみに巣の撲滅は、大穴の処理になるため、冒険者事務所で別業者に依頼した。
本来は、何日もかけてこなす依頼の様だ。
「本当に依頼料は要らないの?」
タリスの3回目の問いに、ミコトは笑った。
「タリスさんがいなかったら依頼が受けられませんでした。だから、いいんです。ありがとうございました」
ミコトはペコリと頭を下げる。
ロイも軽く頭を下げた。
「タリス、今日はありがとう」
「なんっ、…もういいよ。素直夫婦かよ…」
タリスは顔を赤らめて横を向いた。
この人、ものすごい照れ屋なのかもしれない。
「で? ロイ先輩たちは今日はどうするの? もう首都までの馬車ないよ。良かったら宿屋を…」
「あ、いいよ。俺もミコトも明日は仕事があるから、走って帰るよ」
タリスはしばらく黙って考え込んだ後、「はあ?」と言った。
気持ちは分かります。
ロイが何を言ってるのか分かりませんよね。
「ロイ先輩は疲れている奥さんを走らせる気なの?」
あ、そっち?
疲れてはいないけど、この人やっぱり優しいんだな。
「まさか! ミコトは俺が背負ってくから大丈夫だよ。じゃあ、また、よろしくね」
ロイはそう言うと、ミコトをひょいと抱き上げて、背中に乗せた。
「え!? またよろしくって!? ちょっと、ロイせんぱ…」
タリスの言葉を待たずに、ロイは走り出した。
説明が面倒だったのかもしれない。
ミコトはロイの背中で、今日はものすごく楽しかったな、と思っていた。




