136.ノエルの告白
騎士団の救護班で、昼休憩時、班員たちが買ってきてくれた食堂のランチボックスを、ミコトとセイラは、きゃっきゃと話しながら食べていた。
「これ、給食だ!」
「割と美味い!」
勉強していた机で、そのまま食べる。
これが給食でなくて、なんなのだ。
この、まあ、美味しい? くらいの味も、給食っぽさを出している。
すると、ランチボックスを持ったノエルがおずおずと救護班に入ってきた。
「あ、あの、何故か僕もここで食べろって言われて…?」
ミコトとセイラは、顔を輝かせた。
「クラスメイト!」
「友だちきたっ!」
困惑しているノエルを、ミコトとセイラはお構いなしに、向かい側に座らせる。
「ノエルンは何歳ー?」
「ノ、ノエルン…? 14です」
「そっかぁ。でも今日は、同い年の女の子設定ねー」
「え、ええっ!?」
セイラに無理矢理女の子にされたノエルは、半泣きになる。
「聞いてよ、ノエルン! ミコちゃんの彼氏、サイテーなの。早く別れればいいのにね?」
その話題にのるのか!? とノエルはミコトを見る。
ミコトはアハハと笑った。
「別れないよー。ねえ、ノエルは好きな人いる?」
「ええっ!?」
ノエルは本気で驚いている。
セイラはニヤリと笑った。
「だれだれ? 教えてー?」
「い、いませんよ!」
少し離れたところから3人の様子を見ていたロイとコランとシーマは、溜息をついた。
ちなみに、ノエルを行かせたのは、シーマである。
「試みは成功しましたが、少々ノエルさんが気の毒ですね…」
シーマは小声で呟く。
「少々か?」
コランも呟く。
「試み?」
ロイは首を捻った。
シーマは頷いた。
「勉強は、1人でやると結構ツライのです。ライバルや仲間がいるだけで、効率がかなり違います。そして、休憩時間は仲間と雑談をすると良いのですよ」
なるほど、とロイとコランは頷いた。
「年は出来るだけ近い方がいいです。私たちではダメなのです」
コランはさらに頷いているが、ロイ的には、40歳くらいの2人と一緒にされるのは若干心外である。
「しかし、あれでは、ノエルは休憩にはなりませんね」
コランは苦笑しながら言う。
ノエルは元々コランの部下だった。
心配になるのは当然だろう。
「後で別途休憩を取らせますよ」
ロイも苦笑しながら言う。
依然として、ミコトとセイラの話題は、ノエルの好きな人(何故か男性)を、当てることだ。
「分かった! リントだ!」
セイラは、ノエルにビシッと言った。
「な、違います! 副団長は尊敬していますし優しいですけど、そういう感情はありません!」
ミコトとセイラは顔をしかめた。
「優しいー!?」
「私にはいっつも意地悪だよ!」
ノエルは、そうだろうか? と首を傾げる。
昔から、リントとミコトは仲良く見える。
「でもリントには超美人の彼女がいるからなぁ。じゃあもう、アイツにしなよ。だんちょー」
セイラはランチボックスのポテトを食べながら言う。
「団長はミコトさんと結婚してますよ!?」
「ちょっと、セイラ!」
ノエルは慌てふためき、ミコトも目を丸くする。
「アイツ、ロリコンだから、ノエルンなら、2番目になれるよー。金持ってる以外いいとこないけど、どう?」
「団長、やっぱりそうだったんですね…!」
コランは目を丸くして、ロイを見る。
やっぱり!? とロイはショックを受ける。
「違います! ていうか、コレ、もう止めて下さいよ! ノエルが普通に女子っぽく対応していて、意味が分かりませんよ!」
ロイはシーマの肩を揺らす。
「興味深いですね…」
シーマは真剣に3人を見つめながら呟いている。
「何が!?」
「ロイは2番目の奥さんは持たないって言ったもん!」
ミコトは結構本気でセイラとノエルに言う。
「そんなの今だけだよー? 大体ロリコンは、ミコちゃんみたく胸ボーンは苦手なんだよ。ノエルンみたいにぺったんこじゃなくちゃ!」
「な、それ、ホント!? コッチなの?」
ミコトはノエルの胸を見る。
「ぼ、僕は男です!」
さすがにノエルは叫ぶ。
「俺は、ミコトの胸が一番好きです!」
ロイは慌ててシーマとコランに宣言する。
「団長、ロリコンを否定しようとして、とんでもない発言をしてますよ…」
コランは呆れて指摘する。
「団長、2番目の奥様は持たれないんですか?」
シーマは真面目な表情でロイを見る。
「え? あ、はい。これはアレンさんにはもう言ってあります」
「なるほど、それで…」
シーマは意味深に呟く。
「それでって…」
ロイがシーマの言葉を聞き返そうとした時、あの場から走って逃げてきたノエルがロイにドンとぶつかった。
「すみませ…だ、団長っ!?」
「ごめん、ノエル! あれ、ロイ?」
ノエルにも、追いかけてきたミコトにも、立ち聞き3人組はアッサリと見つかってしまった。
ノエルは、ロイとコランとシーマを見て、赤面する。
「僕は決して団長のことは…っ! 事務やってきます!」
それだけ言うと、ノエルはダッシュで逃げ出した。
「待って、ノエル!」
ミコトもノエルを追いかける。
2人を呆然と見送るコランとシーマに、ロイは「どうしよう…」と呟いた。
「何故か、ものすごく気まずくないですかっ!? 俺、ノエルと二人きりが多いんですけど!?」
コランとシーマも「うーん…」と腕を組む。
「私、ノエルンに謝ってくる。立ち聞きのオッサンたちも来て」
セイラはロイの横を通り過ぎながら、スタスタと歩いて行く。
「立ち聞きのオッサン…」
3人はガックリと肩を落として、セイラの後について行った。
ミコトは騎士団長室のドアの前で、とても困っていた。
ノエルが騎士団長室に内鍵をかけて、立てこもってしまったのだ。
「ミコちゃん!」
振り向くと、セイラとロイとコランとシーマが歩いてくる。
ミコトは4人に、事情を説明した。
コランは内鍵の存在自体に驚いている。
「内鍵なんてあったんですね。団長、今度からミコトに何かする時はコレを…」
「コランさん! 今その話題はナシで!」
ロイは、コランの口を手で押さえる。
セイラはロイをジロリと睨んだ。
「アンタなら開けられるでしょ? 謝りたいからコレ開けて!」
「ハイ…」
ロイは袖から小さなナイフを出すと、ドアと壁の隙間に入れる。
カチャンと鍵の外れる音がした。
「スゴイ! ロイは鍵も開けられるんだね!」
ミコトは感心したように言う。
「うん、まあ…」
ロイは曖昧に答える。
ミコトは気付いていないようだが、大体の鍵を開けられる男性なんて恐怖の対象でしかない、とコランとシーマは思っていた。
セイラは「私が行くから」と言うと、騎士団長室に入り、事務席の方へ歩いて行く。
ミコトとロイとコランとシーマは、一応中に入ったが、ドア近辺に留まった。
ノエルは席に座り、下を向いている。
「ノエルン、ごめんなさい」
セイラの謝罪に、ノエルは慌てて席を立った。
「せ、聖女様が謝ることなんて…」
「ノエルン、私ね、男がダメなの」
「…え?」
ノエルは目を見開いた。
ミコトは、自分の手を握りしめた。
「セイラ…」
セイラはミコトをチラリと見る。
ミコトはセイラの横に行く。
「私ね、聖女になるずっと前に、男にイタズラされたの。ソイツは私の先生だった」
ノエルとロイとコランとシーマは、愕然とする。
「コレは別に隠してない。リントも知ってる。だからリントは私には触らない」
「聖女…様…」
ノエルは何とか声を出す。
「女の子は好き。だから、ノエルンを女の子に見立ててお話ししたかった。でも嫌だったよね。ごめんなさい」
セイラは頭を下げた。
ミコトも「ごめんなさい」と言って頭を下げる。
ノエルは、首を横に振った。
「違うんです! 聖女様もミコトさんも悪くないんです! 僕、バレるのが怖くて…!」
セイラとミコトは、頭を上げて、顔を見合わせた。
ロイとコランは、嫌な予感しかしない、と目を伏せた。
シーマは興味深そうにノエルを見つめる。
「ノエルン、言わなくていいよ。オッサンたちもいるしさ」
セイラは諭すようにノエルを覗き込んだ。
オッサンにロイも入っているのだろうか? とミコトは目を泳がせる。
「いいえ、聖女様にだけ言わせるなんて、僕には出来ません! 僕は、僕は、ハリーさんと付き合ってます!」
その瞬間、コランは膝から崩れ落ちた。
「コランさん!」
ロイとシーマは、咄嗟にコランを支える。
無理もない。
直属の部下だった2人が付き合っていたのだ。
「元々尊敬はしていましたが、何回もお見舞いに来てくれて、それで…」
ミコトはノエルの手を握った。
「ノエル! 私、断然、応援するよ!」
「ハリーって、アイツの同期の真面目君だよね? ロリでショタか! いいね、応援する!」
セイラは親指をグッと立てる。
ノエルは目を見開いた。
「気持ち、悪く、ないんですか?」
ミコトとセイラはアハハと笑った。
「全然! 誰を好きでもいいんだよ!」
「私も女の子が好きだよ!」
ロイとシーマは、女子3人組(にしか見えない)を見て、苦笑した。
騎士団は男しかいないため、実は男同士…というのもある。
それに関しては、個人に任せている…というと聞こえはいいが、実際は隠していることが多いため気が付かないし、気が付いても関わらないだけなのだが。
「聖女様はさすがですね」
シーマは、誰に言うでもなく呟いた。
ロイは、これが各種相談の中身か、と直感した。
なんにせよ、ハリーに女性を紹介しなくて本当に良かった…と、ロイは思うことにした。




